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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
120/166

白世界

(く……そっ!!)


 ジリジリと深紅の輝きに押し返される。

 メテオランスと《フレイム・バースト》の激突、今は辛うじて均衡を保っているが、いつまでも続かないだろう。

 ランスの突進力はとうに失われ、内臓された魔力スラスターで何とか光弾と相対していた。


 だが、それも時間の問題。

 ランスに内蔵された魔力は一騎の魔力だ。

 低下した一騎の魔力ではもって後――十秒。



「おおおおおおおおッ!!」


 ランズの先端がついに溶解しだした。

 手元まで高熱が伝わり、握りしめた柄から煙が上がる。

 ランスを溶解させる熱量が一騎の皮膚を溶かしたのだ。

 想像を絶する痛みに汗が吹き出し、発狂しそうになる。


 その痛みを根性でねじ伏せながら、一騎は渾身の力を籠め、半ばまで失われたランスを押し込んだ。


 だが、終に――恐れていた限界の十秒が訪れた。

 均衡が崩れ、凛音の光弾はランスを粉々に破壊し、一騎を業火の渦に飲み込まんとする。


「一ノ瀬ッ!!」

 

 魔力を限界まで注ぎ込み、稼げた十秒は無駄ではなかった。

 炎に飲み込まれる直前、目の前に巨大な壁がせり上がる。


 アリスの《錬成》によって物質変換された地面が堅牢な壁となって光弾の進路を阻んだのだ。

 《剣》のイクシードを吸収したことにより、飛躍的に魔力量が上昇した今、アリスの魔力によって補強強化された壁の強度は凛音の一撃に耐えられるだけの強度を誇っていた。


「すまないッ!!」


 一騎は声を荒げながら、靴底から魔力を爆発させ、光弾を大きく迂回しながら、凛音へと駆け寄り、巨大な砲身を蹴り上げた。


 凛音の手元から弾き飛ばされた砲身は空中で二挺の深紅の拳銃へと分離した。

 ゴトンッと地面に落下する二挺の拳銃。


 だが、凛音にはそれを拾う余裕はなかった。

 最大の一撃を防がれただけでなく、反撃の一撃を受けたのだ。

 凛音といえどすぐに反撃に出ることは出来ない。

 

 連続して放たれる一騎の拳を両手で捌きながら、パージしていた《アーマービット》で牽制。

 背後からの奇襲に対し、一騎は目を向けることなく反応。

 《銀狼直感ライカンセンスにより強化された危機察知能力が凛音の攻撃を予測し、事前に回避行動をとらせていた。

 今の一騎に生半可な奇襲は通用しない。


 むしろ、攻勢に出た直後の無防備な体勢を一騎の目の前で晒す結果になってしまう。


 そして、一騎はこの絶好の機会を決して逃しはしない。


「おりゃああああああッ!!」


 咆哮と共に放ったボディブロー。

 その一撃は凛音の体を貫き、凛音の体を地面から引っこ抜いたのだ。

 

 パッと飛び散るは喀血した凛音の血。

 一騎の一撃は凛音の内臓にまでダメージを与え、一瞬ではあるが、彼女の意識を刈り取っていたのだ。


 目を剥き、空中に投げ飛ばされた凛音を一騎は追撃する。

 再び握りしめた拳は今度こそ凛音を先頭不能に追い込むだろう。



 だが、その未来が訪れることはなかった。


 パシィィィン――……


 と、乾いた音が鳴った。

 拳を振り抜いた一騎は驚愕の表情で固まっていた。

 

 目線の先――拳を受け止める青年を見てだ。


「君は……」


 動揺する一騎の腕を絡めとり、青年は一騎を投げ飛ばした。

 同時に落下する凛音の体を抱き寄せ、一騎たちとは距離を離して対峙する。



 一騎は改めて青年を見やる。


 柔軟で優し気な顔立ち。

 髪は天然パーマのようなくせ毛の強い髪。


 身長は高く、百八十はありそうだ。

 筋骨隆々というわけではなく、細身だが、それでも誰が見ても鍛え抜かれたとわかる逞しい体つき。


 何より、一騎の目を引くのは、彼の体を覆う白銀の鎧だろう。


 全身をまんべんなく覆う金属の鎧。

 顔は剥き出しだが、それが無防備でないことを一騎は知っている。

 彼から立ち昇る白銀の光はおそらく魔力だ。


 鎧をまとい、魔力障壁を展開する、その姿――まるでイクスギアを思わせる。


 少年は一騎たちを見つめながら小さく口を開けた。


「《領域テリトリー》展開――《白世界ヴァイス・ヴェルト》」


 その瞬間、一騎たちの景色が一変した。

 彼を中心に白銀の魔力が世界を上書きし、崩壊した街並みが姿を変えていく。

 

 空高くそびえる巨大なビルが群生。

 摩天楼のようなビル群は蒼穹を潰し、白亜のビルで一騎たちを包み込む。

 日の光がビルのガラスによって乱反射し、闇さえ追い出す白銀の世界――


「――なっ……」


 一騎はその光景を目に、言葉をなくす。

 突如として、一変した光景に理解がまるで追いつかない。


 ただ一人、この世界を知る鎧を纏った青年は腰に帯刀した二本の剣を引き抜くと容赦なく一騎を睨む。


「……これが俺の世界――《白世界》だ」

「……白、世界?」

「あぁ、俺の力を最大限に発揮できる、世界を支配した姿だ」

「支配、だって!?」


 一騎の惑いをよそに、四肢に力を込めた青年は霞の如く、一騎たちの前から消え失せる。


 その直後――


「があああッ!?」


 未曾有の衝撃が一騎を襲った。

 五メートルも吹き飛ばされ、地面に何度も叩きつけられる。

 群生するビルの一か所に叩きつけられ、ようやく静止した一騎が見つめた先には剣を振り抜いた姿勢で残心する青年の姿だった。


(嘘……だろ?)


 今の攻撃、まるで察知できなかったぞ……


《銀狼直感》の気配察知能力をすり抜け、さらにその一撃はギアの障壁を容易く切り裂く重い一撃。


 実力差を考えるまでもない。


「理解、出来たかい? 君たちが相手する魔王の力を、僅かでも」

「……これが、魔王の力か」


 一騎は全身を蝕む痛みを耐えながら何とか立ち上がる。

 再び魔力を束ねメテオランスを生成する。

 だが、残された魔力で生成できた最後のランスは強度を最優先した結果、先ほどの巨大な馬上槍から一変。細い外見へと留まった。


 推進能力を無くし、強度だけを優先したただの槍。

 だが、無いよりはマシだろう。


 槍を支えに起き上がり、切り裂かれた魔力障壁を張り直す。


「君は知っておいた方がいいだろう。絶対に勝てない存在を」

「――ッ!?」


 ガキィィン――……と火花を散らし、金属音が空気を振動させた。

 

(な、なんとか反応出来たけど……速すぎる!?)


 槍の柄で剣を受け止めた一騎は腕に伝わる衝撃と、青年のあまりの速さに言葉を無くしていた。

 一騎との五メートルの距離を無くすのに一秒もかからない。

 さらに抜刀する腕の動きなど目に捉える事すらできず、《銀狼直感》に任せた感覚だよりの防御で何とか防ぐ事が出来たのだ。


 だが、二本目の剣には対応することが出来ず、一騎は二本目の剣の直撃を受け、ピンボールのように弾き飛ばされた。


 轟音と共にビルに叩きつけられた一騎。

 

「あぐ……ッ」


 意識が激しく明滅し、手元から槍が零れ落ちる。

 だが、一騎がそれを認識するよりも早く――

 


 焼けつくような痛みが右肩に走る。


「あがあああああああああああああああああああああああああッ!?」


 木霊する絶叫。

 吹き出す鮮血。


 右肩を投擲された剣で貫かれた一騎は想像を絶する痛みに発狂する。


 痛みに悶え狂う一騎を見上げながら青年は僅かに肩を落とした。


「まだ、この程度か……俺たちの想像には程遠いな……」


 落胆したような眼差しを向けながら、ビルに縫い付けにされた一騎にゆっくりと青年が近づく。

 痛みに意識が何度も意識が途切れる中、一騎は涙を流しながら剣を上段に構える青年を見上げた。


「君をここでは殺さないよ。人柱候補の一人だらね、けど、イクシードは貰うよ。その腕ごと」

「や……やめ……助け……」


 助けを乞う一騎に青年は冷淡な視線を向け――


「聞きたくなかったよ。そんな弱い台詞を君から」


 無慈悲に叩き下ろされた一太刀がイクスギアの要であるブレスレットごと一騎の右腕を両断するのだった――

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