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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第一章『イクスギア』
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星の力もかりて

「はぁッ、はぁッ……!」


 呼吸が激しく乱れる。

 全身を蝕む激痛はイノリから正常な判断能力を奪っていく。

 イノリは気合を入れ直し、《メテオランス》を支えにどうにか立ち上がる。


 満身創痍はイノリだけではない。イノリの纏うイクスギア《アングレーム》もまた深刻なダメージを受けていた。

 装甲が砕け、歪み、バチバチと鎧の亀裂から魔力の燐光が火花のように散っていた。これ以上のダメージをギアが受ければ最悪、変身の強制解除もあり得るだろう。


『イノリちゃん……ッ! これ以上は危険よッ!』


 イノリのバイタルを確認していたオペレーターが声を荒げて呼び止める。

 彼女の声音がひしひしと告げていた。

 これ以上の戦いは危険だと。


 けど――


(――みんなが繋げてくれたこの希望を私が閉ざすわけにはいないよ。それにこんなところでまだ死ねないッ!)


 イノリの纏う《イクスギア》はみんなの希望だ。

 それはイノリがこの世界に残された最後のギア適合者だから――というだけではない。


 このギアには空中艦アステリアでイノリの戦いを見守るみんなの思いが詰まっている。

 

 だから負けられない。


 今日まで戦ってきたみんなから託された希望を叶える為に――

 イノリがこの世界で望むたった一つの可能性を繋げる為に――

 イノリは大博打に打って出た。



「未知数を冠するイクスの名前、それが伊達じゃないって見せてあげる!」



 腰に装備された推進武装(スラスター)、両腕部の推進武装スラスター。さらには両足の推奨武装スラスターから青白い魔力が勢いよく噴き出す。

 イノリが所持するイクシードの中で一番の機動力を誇る《流星ミーティア》。

 その神髄は装甲の各所にあるスラスターから魔力を推進力として放出し、加速する能力だ。


 イノリはその機動性にものを言わせ、《魔人》の周囲をグルグルと高速で移動する。

 最初こそイノリの動きを目で追っていた《魔人》だが、速度を上げていくイノリの動きに次第についてこれなくなる。


 《反射》の能力を持つ《魔人》は他の個体と異なり、凶暴性こそあるが、身体能力はかなり低い。これまでイノリが遭遇した《魔人》の中では最弱とさえいえる。

 攻撃してきたとしても威力もスピードもまるでない。

 この《魔人》が真の力を発揮するのは、イノリが攻撃に出た時だけ。

 《反射》の能力を活かし、カウンターで相手の攻撃をそのまま弾き返す。後の手を得意とする《魔人》なのだ。


「――やぁッ!!」


 《魔人》の隙を突く形でイノリは首筋に向かって《メテオランス》を突き立てる。


 ガキン! という金属音と火花がイノリの目と耳に焼きつく。

 相手の不意を突いた乾坤一擲の一撃は《魔人》の体を覆うように展開されていた《反射》能力によって阻まれ、反射されたランスの先端が粉々に砕け散った。


「それでも!」


 どんなに絶対的な防御力を誇ろうとも必ず弱点があるはず。

 イノリは砕けた《メテオランス》に搭載されたスラスター機能を展開。

 ランスの推進力が加わったことにより、イノリの速度をさらに上の次元へと到達する。


 その姿はさながらの流星。

 星の重力により加速する流星の如く、魔力による加速はすでに音さえも置き去りするほどだ。

 

 砕けた槍で縦横無尽に《魔人》の体を殴りつける。

 《反射》でダメージを受ける度にギアが砕け、骨が軋む。

 それでもイノリは攻撃の手を弛めることなく、無謀とも呼べる特攻を続ける。


『イノリ君、それ以上は止すんだ! 君の体が持たない!』


 イノリの壮絶な特攻を見守っていたクロムがついに折れる。

 だが、イノリは――


「はあああああああああああああああああああッ!」


 攻撃を止めない。


 不屈の闘志を燃やすイノリ。

 ギアとイノリの我慢比べが続行された。


 そして、ついに――


 何度目かすらわからない手数の先にイノリの求めていた状況が訪れたのだ。

 

「ッ――!」


 半ばまで砕けた《メテオランス》による渾身の一撃。

 その一撃は確かに《反射》の力で弾き返された。


 だが――イノリにダメージはない。

 その代わりにイノリが瞬刻前までいた地面が粉々に砕けたのだ。


『な……んだとッ!? まさかこれを狙っていたのか!?』

『反射を超えるスピード……司令、これなら!』


 驚愕に声を震わせる本部。


 そう。これこそがイノリの狙い。

 《流星ミーティア》の機動力を限界まで引き上げ、《反射》による反撃すら上回る神速の一撃。


 光すら追いつけないイノリの速度が成し遂げた超速の一撃だ。


「これでぇええええええええ!」


 乱舞するランスによる斬撃。

 《反射》による反撃を上回る圧倒的な速度と手数。

 だが、その代償は大きい。

 主武装である《メテオランス》は半壊。ギアも想定以上の出力に悲鳴を上げている。

 この境地は長くは持たないだろう。

 

 チャンスはこの一瞬しかなかった。


 イノリは《魔人》の懐に潜り込むと、そのまま《魔人》の体をランスでかち上げる。


 宙に浮かんだ《魔人》の体にさらに強烈な一撃を叩き込み、さらに上空へと押し上げると空高く舞った《魔人》を追いかけるようにイノリも跳躍した。


 《流星ミーティア》による全力の跳躍は一瞬で《魔人》を追い越す。

 跳躍による推進力と落下速度の力が零になった停滞の瞬間を見計らい、イノリは空中で二度目の跳躍を行った。


 二回にも及ぶ驚異的な跳躍は空中艦が待機する領空よりもさらに高くイノリの体を押し上げ、大気圏一歩手前までイノリを押し上げる。


 ギアの防御フィールドを突き破り、大気圏の過酷な環境がイノリの弱った体を痛めつける。

 だが、イノリは攻撃の手段を緩めない。


 手数と速度で勝るミーティアではあるが、《反射》を貫けるほどの攻撃力は持ち合わせてはいなかった。


 だから――


「力がないなら補えばいい。この星の力も借りてッ!」


 地球の重力に引かれ、イノリの体がゆっくりと墜落する。

 イノリはそこからさらにギアのスラスターを全力稼働。一気に落下速度を引き上げ、限界まで引き上げた速度をさらに押し上げる。


 その衝撃は地球すら耐えきれないほど。イノリが速度を得る為に蹴った大気が爆発。地球の大気すら穿つ破壊力が衝撃波となって地球全土に響き渡る。


 けど、これでも足りない。


 《魔人》の《反射》を貫く為には星を破壊する力を持ってしてもまだ足りない。


「この星の限界を――私たちの限界を超えた一撃を! 《換装シフト》――《雷神トール》ッ!!」


 イノリは速度が最高潮に達した瞬間に《流星ミーティア》を解除。

 全イクシードの中で最大の破壊力を誇るとっておきの切り札を呼び出した。

 青と白を基調とした甲冑が光の粒子となって分解され、一瞬にして黄色と白を基調とした甲冑へと変化する。


 周囲に九つのプラズマボールが現れ、イノリはその全てをギアに纏わせた。

 その瞬間、稲妻に撃たれたようにギアがバチバチと紫電を発する。

 雷神の力を身に纏う事で雷の力をその身に宿したのだ。


 無論、本来の《雷神》にこんな使用方法は存在しない。

 《雷神》の生み出す九つのプラズマボールはその一つ一つが強大な雷の力を圧縮したものだ。

 本来であればそのエネルギーを敵に向かって放つ――あるいは束ねて一つにすることでさらに強力な一撃を放つのが本来の使い方。

 間違ってもギアにそのエネルギーを取り込むなんて馬鹿げた使い方は存在しない。


 そんな使い方をすれば――


『司令、イノリさんのギアが……ッ!』

『強制……解除……だと!?』


 ギアの装甲が砕け散っていく。


 過剰なエネルギーにとうとうギアが耐えられなくなったのだ。

 イノリの体がギアを纏う時と同じ光の膜が包み込まれた。


 強制的にギアが装甲を解除し、魔力の放出を押さえていく。

 だが、もう止らない。


 ギアが強制解除されるよりも速く、イノリの一撃が《魔人》へと届く!


「――飛翔雷槌(ひしょうらいつい)ッ!!」


 後にも先にもこれが最後となるたった一度きりの必殺技。

 イノリは裂帛の気迫を織り交ぜ、その名を叫びながら、強力無比な一蹴を放つのだった――

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