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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
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イクスギア、再びⅡ

「おぉぉぉぉぉぉッ!!」


 響き渡る咆哮。

 一騎は火花が出る勢いで地面を蹴り上げ、

 同時に一騎を覆っていた白銀の繭が砕け散る!


 パリィィン――……と白銀の魔力壁が砕け、新たな騎士が産声を上げる。


 かつて、《シルバリオン》を纏い戦ったあの日から三か月と少し。

 一騎は再びギアを纏い、戦場へと舞い戻ったのだ。


 その装いは、一変していた。

 かつて、一騎は全身に鎧を纏うタイプのイクスギアを使っていた。

 だが、今の一騎は違う。


 魔力が弱くなったからか、あるいは別の原因があるのか――

 身に纏うは鎧の姿ではなく、どこか自警団や騎士団――を連想させる団服に身を包んでいる。

 群青色とも呼べる蒼い外套を身に纏い、その姿は、かつて《銀狼》を纏い、戦場を駆けたイノリの装いを酷似していた。


 髪の色も瞳の色も元の黒銀色で、かつてのような白髪の髪や深紅の瞳ではなくなっている。

 好戦的な笑みや表情が消え去り、一騎は眉間にしわを寄せ、悲しむような――あるいは祈るような表情を覗かせながら、結城と凛音の間に割って入る。


「てめぇ……一体……?」

「ようやくギアを纏いやがったな」


 一騎を目にした結城と凛音は異なる反応を見せる。

 結城は驚いたように目を見開き、

 凛音は歓喜の声を弾ませていた。



 一騎はゆっくりと全身に流れる力の本流を確認しながら、拳を何度も握る。


(大丈夫だ。前みたいな痛みはない……)


 三日前、無理にギアを纏った一騎は暴走する力の本流に呑まれ、意識を失うほどの激痛を体験した。

 だが、今はその痛みも暴走の気配も微塵もない。


 纏ったギアはまさしく《銀狼》のギアだというのに……

 そもそも、なぜ、魔力の少ない一騎が再びギアを纏えたのか――その疑問も残っているのだ。


「体に違和感はありませんか?」

「……アリス」


 息を切らせ、結城の側に駆けつけたアリスは装いを新たにした一騎を見上げる。

 一騎は再び体に意識を向け、こくりと頷く。


「問題ない」


 凛音の襲撃によって高揚した感情も収まり、意識がよりクリアになっている。

 それに、この前は全く制御できなかった《銀狼直感ライカンセンス》が嘘のように制御出来ているのだ。


 アリスは満足げに頷くと。


「よかった。どうやらギアはうまく機能出来たみたいですね」

「……何か知っているのか?」


 その口ぶり、一騎がギアを纏えた理由を知っているようだ。

 

(そういえば、《流星》の能力はどこに?)


 アリスに促され、一騎はギアを纏う直前、空いていたスロットに《流星》のイクシードを装填した。

 

 一騎のイクスギアは二つの能力を同時に纏うことで相乗効果を発揮することが出来る。

 だが、今の姿は《銀狼》の姿。

 《流星》の鎧はどこにも見受けられなかった。


「知ってはいますが、話はあとです!」


 アリスが叫んだ。

 一騎は振り向きざまに拳を振り、凛音の放った魔力弾を弾き飛ばす。

 《銀狼直感》のおかげで、些細な殺気すら感知することが出来る。

 凛音の殺気も、放たれた凶弾も察知することが出来た。


 この危機察知能力こそが《銀狼直感》の神髄か――

 以前のように鋭敏するぎる感覚がある程度制限されているおかげもあって、情報過多に脳が焼き切れるような痛みはない。

 これなら、戦いに集中できるだろう。


 一騎は感心しながら、腕の様子を確かめる。

 ガントレットの鎧を纏っているわけでもないのに、魔弾の直撃を受けた騎士団服には傷一つなかった。

 ただの布切れみたいな外見だが、強度は《シルバリオン》と同等以上か……


「それもそうだな」


 ひとしきりギアの性能を確認した一騎は魔力暴走で苦しむ結城を一瞥してから、《氷雪》のイクシードを投げ渡した。


「これで魔力の暴走を抑えてろ」


 《氷雪》のイクシードの凍結能力は暴走した魔力ですら凍結し、封印することが可能だ。

 イクシードの能力を使えば少なくとも消滅する心配はないだろう。


「アリス、任せるぞ」

「……悔しいですが、お任せします」



 アリスは結城に《氷雪》のイクシードを握らせながら、仄かに赤く染まった顔色を覗かせ、歯噛みしていた。


 やはり、《剣》のイクシードを取り込んだのはアリスにとっても無茶な行為だったのか。

 

 上気する肌。荒い息遣い。潤んだ瞳。

 そして、しきりに股をすすり、何かしらの感情に必死に抗う煽情的な姿。

 どう見ても戦えるような状態ではなさそうだ。


 なら、凛音から二人を守るには――

 一騎が戦うしか方法はないだろう。

 視線をゆっくりと凛音に向け、魔力を滾らせる。

 そして――


「行くぞ、凛音」

「来いよ、その力、奪わせてもらうぜ!!」


 一騎は勢いよく飛び出した。

 地面を荒く削りながら、目で追うのも難しい速度で、一騎は凛音に飛びかかる。

 拳をきつく握りしめ、歯を食いしばり、拳を振り抜く。



 ガキィィン――……


 甲高い金属のぶつかり合う音。そして、二つのギアが衝突しあう衝撃波が一騎と凛音を中心に、波紋のように広がる。


 一騎の拳を腕のガントレットで防いだ凛音は一騎の拳の威力に顔を歪めながら、深紅の銃口を向けた。


「おおおおッ!」

「あああああッ!!」


 二人の咆哮。

 そして、連続して鳴り響く銃声。

 一騎は《銀狼直感ライカンセンス》を駆使して、驚異的な危機察知能力をもって、全ての銃弾を見切り、体を逸らし回避を行う。

 さらに銃弾に拳をぶつけ、相殺しながら、反撃の隙を伺い、一騎は回し蹴りで凛音を弾き飛ばした。


 さらにそこから一騎は靴底に魔力を収束させ、推進力に加算。

 爆発したかのような轟音と共に、砲弾のように加速したのだ。


 再び接近する一騎。

 握りしめた拳は容赦なく凛音を射抜く為に、弓を引くように構える。


 突貫する一騎に向けて、凛音は六門のガトリングへと変形させた巨大な銃身を盾に一騎の拳を再度防いだのだ。


「……ふざけてんのか!?」


 凛音が仄かに眉を歪め、叱責する。


「武器も使わず、ただの拳だけであたしを倒せると本気で思ってんのか?」


 途端、凛音の体を守っていた鎧がはじけ飛ぶ。

 水着のようなアンダースーツのみとなった凛音。

 一見すれば守りを捨てただけの姿のように見えるが、そうじゃないことを一騎はよく知っていた。


 全身を悪寒が駆け巡る。

 同時に、《銀狼直感》がけたたましく警報を鳴らしたのだ。


 一騎は愚直にその警鐘に従い凛音の側から離脱を試みる。

 だが、その直前。


 一騎の脇腹を深紅の閃光が直撃したのだ。


「がっ……」


 ギアの防御壁を貫通こそしなかったが、ダメージは一騎の肉体を蹂躙し、体の中を焼かれるような痛みに思わず喘ぐ。


 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 痛みに飛びそうな意識を必死に繋ぎ止め、再び魔力を爆発させ、その衝撃で凛音の攻撃範囲から逃れる。


 なりふり構わず全力で逃げた一騎を追うように無数の小さな鎧が一騎の影を追った。

 その全てが凛音を守っていたギアの鎧だ。


 

《アーマービット》



 ギアの鎧に《火神のイフリート》の魔力を充電し、遠隔操作する鎧の武器だ。

 チャージした魔力を弾丸として放つことはもちろん。

 凛音を守る盾にもなる強力な武器だ。


 一騎を囲み、四方から降り注ぐ銃弾の嵐。

 一騎は逃げ道がないと悟ると可能な限りの魔力を全身に展開し、魔力の障壁で直撃に耐える。


「う……おぉぉああああッ!!」


 血反吐をまき散らすような慟哭が一騎の喉を鳴らす。

 肉体を穿つことはなくとも、障壁を突き抜け、肉体へと届くダメージの蓄積は確実に一騎の体を蝕んでいく。


 全身を貫く痛みに耐えていた一騎の顔からさらに血の気が引き、青白くなった。


(そういう……ことか!!)


《アーマービット》はこの為の時間稼ぎ。


 凛音は残した肩甲骨に装備された翼のような鎧から地面に目掛けて深紅のアンカーを打ち込んでいた。


 二対の銃口を一つの巨大な砲身へと合体させ、凛音自身をも一つの砲台へと変えたその一撃は、三か月前、数千にも及ぶ戦乙女を一撃で屠った凛音最大の一撃。


《フレイム・ブレイカー》



 凛音がその言霊を囁いた直後、極太の閃光が一騎の視界を埋め尽くす。


 避ける場所などありはしない、極大の一撃に一騎は生唾を飲み込んだ。


(嘘だろ? そんな一撃を地上で!?)


 凛音の一撃は地上を焦土に変えるほどの破壊力を秘めている。

 とてもじゃないが地上でぶっ放せる一撃ではないはずだ。


 一騎の動揺は凛音が躊躇いなくその一撃を放ったことにあった。

 一騎の知る凛音なら絶対に引き金を引かないはずだ。


 命の重さ。引き金を引くことの意味を誰よりも知っている彼女が――

 大勢の人を巻き込みかねない一撃を放つなんて――


(そんなこと、あるわけねぇええええええええええええ!)


 一騎の中に芽生えかけていた僅かな疑念。

 凛音が本当に一騎の敵に回り、己の意思で戦いに馳せ参じた、という不安が完全に消し飛んだ。


 間違いなく、凛音は誰かに操られている。

 本人の意思を捻じ曲げるほどの強力な暗示だ。

 

 そんなの許せるわけがない。

 何より――


「奪わせてたまるかぁぁぁっ!!」


 凛音が大勢の人の命を奪う――

 そんな悲劇だけは何としてでも防がなければならない。


 一騎は全身の魔力を腕の一点に集める。

 群青色の魔力の塊が束となって収束し、見慣れた一本の槍へと姿を変えた。


 《流星》の副武装――メテオランスだ。


 一騎は巨大な馬上槍を握りしめると、ランスの内部に内蔵されていたスラスターを全力で展開。

 目もくらむような速度で、《フレイム・バースト》へと突っ込むのだった。

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