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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
118/166

イクスギア、再びⅠ

 ドパンッ!!


 一発の銃声と同時に目の前が真っ赤に燃える。

 撃たれた!?


 一騎がそう判断した瞬間、目の前の光が、突然隆起した地面によって遮られた。

 

 壁のように生えた地面に魔弾が着弾。

 耳を塞ぎたくなるような轟音と岩を砕く音が一騎の耳を刺激する。

 

 思わず耳を塞ぐ一騎の腕を華奢な細腕が掴む。

 

「なに、ぼさっとしてるんですか!!」


 凛音の奇襲に対し、とっさに地面を錬成し、壁を生み出したアリスは呆ける一騎の腕を掴み、より壁の内側へと避難させる。

 一騎の袖を掴んでいた結奈も一緒になって錬成された壁の内側へと逃げ込み、ほとんど同じタイミングでマシロを抱えた結城も壁の内側へと逃げ込み、撃たれ続ける弾丸から身を隠す。


「くそっ! 誰だよ、アイツ!!」


 壁の内側を殴りながら、結城が悪態をつく。

 アリスは再び錬成を行使し、壁の密度を増やしながら、眉間にしわを寄せる。


「……彼女は芳乃凛音、三か月前、一ノ瀬一騎と世界を救った英雄の一人です。ですが……」


 アリスが言いよどむ。

 より激しさを増した銃撃の嵐に、錬成速度が追いつけなくなったのだ。


「どうした? 殻にこもってるだけか!?」


 挑発するような凛音のセリフにいち早く反応したのは、結城だ。


「ふざけやがって! そっちがそのつもりなら!!」

「やめろ! 君じゃ勝ち目はない!」

「はッ、ンなもんやってみなきゃわかんねーだろ!!」


 拳を握りしめ、壁から身を乗り出そうとする結城を諫める一騎。


 一騎が止めるのも当然だ。

 凛音はギアを纏って完全武装した状態で一騎たちの前に現れた。

  

 魔力操作が上手いだけの結城ではまず勝ち目はないだろう。

 喚く結城を無視して、一騎はアリスに近づく。

 

 

「……アリスちゃん、ここから地下に穴を開けるのは可能かな?」

「……出来なくはありませんが、いったいどうするつもりですか?」

「結奈とマシロちゃんだけでも避難させないと。あと、そこのバカも」

「バカって俺の事か!?」

「君は少し黙ってて。で、アリスちゃん、お願いできるかな?」


 今は非戦闘員の結奈とマシロの避難が最優先だ。

 戦力外の結城も逃がさないと凛音の説得の邪魔になる。


 アリスは勢いよく削られる壁を渋面な表情で浮かべながら。


「……この盾を維持しながらだと、魔力が足りません」

「わかってる。だから、これを使ってくれ」


 一騎はそう言いながら、アリスにイクシード《剣》を手渡す。


 イクシードは能力を発動する結晶体だが、その本質は魔力の塊。

 なら、不足分の魔力を補えるはず。


 一騎の提案にアリスはキョトンとした表情を浮かべ、手渡されたイクシードを見つめた。


「いいのですか? 私はこれを奪う為にあなたを襲ったのですよ?」

「それは敵だったころの話だよね? 今は共闘関係だ。なら、これくらいの協力は当たり前だよ」

「……返さないかもしれませんよ?」

「その時は奪い返すだけさ」

「そうですか」


 アリスは呆れた様子で、フッと笑みをこぼすとイクシードを力強く握りしめる。


 イクシードが力強く輝き、アリスの体内に取り込まれていく。

 アリスの体内にイクシードが吸収されたと同時に、アリスの手の平に剣のような刻印が浮かび上がる。


「はぅっ……うん、あ、あふぅ、うううううん!!」


 頬を赤く染め上げ、突然高揚するアリスに誰もが言葉を失う。

 見てはいけない姿を見ているようで、体を抱きしめるアリスの魅惑的な姿は劣情をそそる。


「す、素晴らしいッ!! これが、イクシードの力!! 全身を駆け巡るこの力の本流……我慢できないッ!!」


 薄っすらと汗ばみ、甲高い嬌声を上げるアリスに一騎の思考が止まりかける。


 アリスは身体を痙攣させながら、地面にありったけの魔力を流し込んだ。


 バコンッと豪快な音を立て、すぐ脇に巨大な大穴が開いた。

 穴を覗き込めば、中は土づくりの階段が下層へと伸びており、地下基地へと続くエレベーターホールへと続いていた。


 これなら、全員逃げられそうだ!


「ありがとう、アリスちゃん!!」


 一騎は声を弾ませると、銃撃に竦んで、青ざめる結奈の背中を押し、大穴へと誘導する。


「か、一騎……」


 震える結奈の頭をそっと撫でる。


「大丈夫。凛音ちゃんのことは僕に任せて。必ず助けるから」

「……うん、お願い。一騎も怪我しないでね?」

「あぁ、マシロちゃんとあのバカをお願い」

「えぇ、任せて!」


 結奈がマシロの手を引いて、地下基地へと向かう中、結城は腕を組んで、フンと鼻を鳴らした。


「……俺は残るぜ」

「……状況、わかってるのか?」

「当たり前だ! あいつ、敵だろ?」


 ……状況、わかってないじゃん。


 凛音は仲間だ。

 一騎がこの場に残った理由は凛音の真意を問いただすため。



 あの凛音がいきなり敵に回ったのはどうしても納得できない。

 背中を預け合い、一緒に戦った仲間だ。


 話を聞いて、何か理由があるなら手を伸ばすし、もし操られているなら、助け出す。


 だからまず、話し合わないと!


 そんな一騎の思惑など知らない結城は拳を打ち鳴らすと、再び壁を飛び出そうとする。


 そんな猪突猛進な結城の腕をとっさに一騎は掴み、怒鳴りつけるように叫んだ。


「だから、君、バカなの!? この銃撃の嵐をどうやって進む気だよ!?」

「んなもん、気合だ! 放せ!!」


 強引に腕を振りほどいた結城は壁から飛び出す。



「ようやく出てきやがったな!」


 凛音の銃口が結城に向けられる。

 同時。

 結城の体から淡い魔力の燐光が立ち上る。


 拳に魔力が収束し、バチバチと魔力の火花が飛び散る。


 ドパンと凛音の銃口が火を噴き、結城に向かって一直線に深紅の軌跡を描く。

 その一撃を結城は――


「おりゃああああああああッ!!」


 拳を弓を引くように引き絞り、振り抜く!


 バチンッ! と深紅と蒼い光がはじけ飛ぶ。


 あろうことか、結城は音速で迫る銃弾を拳で弾き飛ばしたのだ。

 魔力弾である凛音の銃弾は同等以上の魔力で相殺することは可能だ。


 だが、正確に銃弾を捉える結城の動体視力と、恐れなく拳を振り抜くその蛮勇とも呼べる勇敢さは、一騎にはないもので、結城の戦闘能力の高さを垣間見せるほど。


 立て続けに銃弾を相殺しながら、結城はジリジリと凛音との距離を縮める。

 だが、その特攻も長くは続かなかった。



「う、ぐああああッ!!」


 銃弾を受けたわけでもないのに、突然、結城が苦悶の表情を浮かべ、膝をついたのだ。

 受け損ねた銃弾が結城の頬を掠め、パッと鮮血が飛び散った。


 だが、銃弾によるダメージよりも、結城は別の痛みに衝撃を覚えていた。


「く……そ、どうして、また……」


 よく見れば、結城が纏っていた魔力が黒色に染まりはじめていた。


 魔力の暴走だ。


 この世界で魔力を放出することは、肉体を消滅させるか、召喚者のように《魔人》へと堕ちる可能性を含んでいる。


 初めて結城と出会ったとき、結城は魔力を暴走させることなく、力を使えていたはずだ。


(なのに、どうして?)


 今の結城の症状は、まさに魔力の暴走そのものだ。

 

 あの時の制御は偶然だったのか?


 くそ、考えてる余裕はなさそうだ!


 倒れこんだ結城に向かって凛音が銃口を向けている。


 一騎は突き動かされるように、壁から飛び出し、結城に向かって駆け出していた。

 イクスギアに《銀狼ライカン》を装填。

 起動認証コードを叫ぼうとした時、アリスが吠えた。


「一ノ瀬! 《流星ミーティア》を使ってください!!」

「――ッ!!」


 一騎はその声に導かれるように、イクスギアにさらにイクシードを装填。

 白銀の魔力を放出させながら、祈るように叫んだ!


「イクスギア――フルドライブッ!!」


 一騎の視界を白銀の光が覆った。

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