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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
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白銀の追跡者Ⅲ

 少年――結城透はマシロの小さな手を力強く引き、懸命にひた走る。

 

「はぁ、はぁ……くそ! どこまで追いかけてくるんだよ!!」


 透は全力で走りながらチラリと背後を見やる。

 その瞬間、透の背筋がゾクリと凍る。


 透とマシロの数十メートルほど後ろに数分前、透達が身を隠していた廃墟を襲った二つの影が追ってきていたのだ。

 

 双子と見違うほど瓜二つの二人の女性。

 見た目は透と同じ十七から十九歳ほどだろうか。

 整った顔立ちに抜群のスタイル。

 胸はマシロと比較にならない程の巨乳で、彼女たちが動く度に豊穣の胸も透を誘惑するかの如く揺れ動く。

 最も異様なのは彼女たちが身に纏う装束だろうか。


 白銀の鎧だ。


 水着のようなアンダージャケットからゴテゴテとした重厚な鎧を身に纏っている。

 両手には白銀の二丁拳銃。

 顔は剥き出しで、背中から翼を連想させるような二対の鎧が飛び出しており、白銀の光を翼のように放出している。

 腕や足を守る鎧の他には大仰な腰当が装備されており、股間からレザーブーツの間にはこれといった装備はなく、どこかビキニアーマーを連想させる、鎧としては頼りないイメージを抱かせる装いだった。


(……なんのコスプレだよ!!)


 透は半眼で呻く。

 こんなおかしな格好をした連中に追われる理由は一切思い浮かばない。

  

 もし、透とマシロの二人を追いかける存在がいるとすれば、それは研究所の連中だろう。

 三か月ほど前、施設の混乱に乗じて、透とマシロは施設から脱出した。


 その後、隠れ潜むように三か月、マシロと二人で逃亡生活を過ごしてきたが――


(まさか……あいつらが施設の?)


 にわかには信じがたいが、よくよく観察してみれば、白銀の少女たちからは魔力の気配が感じられた。

 マシロのように暖かい温もりではなく、黒く濁った背筋が凍るような魔力の気配だ。


(なら、逃げても無駄かもしれねぇな……)


 現に魔力で肉体を強化した透の全力疾走に追いつてきてるのだ。

 逃げ切るのは現実的じゃない。


 そう判断した透は地面を削りながら急停止する。

 つんのめるマシロを優しく抱きかかえながら、くるりと反転。

 追ってくる二つの影と相対する。


「ちょ、ちょっと、トール!?」


 マシロが透の裾を掴んで叫ぶ。

 透から噴き出す蒼い魔力を捉えて、マシロの顔から血の気が引いた。


「これ以上、魔力を使えば暴走するって言ったよね!?」

「知るかよ」


 外の世界は透やマシロにとって有害な世界だ。

 研究所では苦なく使えていた魔力も外では何故か制御が難しい。

 

 一たび制御から離れれば、全身を苛む激痛となって黒色の魔力が襲ってくるのだ。

 今の透が全力で魔力を使えるのは三分が限界。

 魔力を制限した状態でも四十五分しか使えないだろう。


 身体強化に魔力を使って追ってから逃げ続け四十分が過ぎた。


 もし、全力で魔力を使った場合――

 魔力が暴走するまで一分と保ないだろう。


 だが――


 その一分で十分だ。

 マシロを守れればそれでいい。

 その為に身体を鍛え、マシロを助け出したのだ。

 自由が欲しいと言ったマシロの願いを叶えるために。

 初めて惚れた女の子を守る為に。


「かかってこいや! こらあああああああああ!!」


 透は蒼い輝きを宿した拳を握りしめる。

 白銀の追跡者と拳を交える――


 まさにその刹那。


 黒い鉄塊が白銀の追跡者を吹き飛ばしたのだった。



 ◆



「これは、何ですか?」

「……僕に言われても」


 アリスの乱暴すぎる運転に酔い、蒼白の顔色を浮かべる一騎も言葉を失う光景だった。

 魔力の反応を追って来てみれば、見慣れた白銀の鎧を着た人間が二人。

 そして、彼女たちに追われていた少年と少女の二人。


 四人ともから魔力の気配を感じる。

 それに、一騎たちの登場に驚いて、硬直している少年の右手には蒼い魔力が宿っていた。


 これは、恐らくアリスと戦った時に一騎も使った魔力による強化だろう。

 だが、制度は一騎よりも圧倒的に上だ。

 魔力量もさることながら、その制御能力も目を見張るものがある。


(彼はいったい……)


 この世界で魔力を制御するにはかなりの訓練が必要だ。

 ただ魔力を宿すだけで暴走し、自我を失う危険性があるばかりか、命さえ落とす可能性がある世界だ。

 凛音のように長い年月をかけ、魔力を体に馴染ませるか、

 一騎のように特殊な条件でも揃わない限り、魔力を宿すのは不可能だろう。


 それに、一騎も自在に魔力を扱えるわけではない。

 イクスギアで暴走する魔力を制御しなければ、肉体を強化することもままならない。

 

 今日に出会ったアリスや目の前の少年は、今まで一騎が培った常識を前提から覆す存在なのだ。


 アリスに現状を問われても、上手く答えることが出来ない。



 それに――


戦乙女ワルキューレ……だよね、どう見ても」


 二人を追っていたギアを纏った少女たち。

 彼女たちは芳乃総司によって造られた人形たちだった。


 三か月前の戦いで全て倒したはずだが……

 生き残りがいたってことか。


「久しぶりですね、一ノ瀬一騎」


 戦乙女の一人が一騎に視線を向ける。

 凛音と瓜二つの顔だが、冷酷なその瞳は凛音にはない違いだ。

 表情がないだけで、ここまで印象が変わるのか。


 一騎は冷淡な視線を向ける戦乙女に警戒心を高める。


「どうして、どうして君たちがまた……」

「まさか、あの戦いで私たちの全てを倒せたと本気で思っていたのですか?」

「総司は倒したんだ。その能力で造られた君たちもあの時に消滅したんじゃないのか?」

「……本来であればその未来を辿っていたでしょうね」


 一瞬、戦乙女の表情が陰る。

 だが、その理由を尋ねることは叶わなかった。


 戦乙女の腕が魔力の光に覆われたかと思えば、次の瞬間、戦乙女の腕が一本の太刀に代わっていたのだ。


 戦乙女の能力の一つ。

 彼女たちは一騎たちが集めたイクシードの一つを纏うことが出来る。

 一体につき、能力は一つ。

 能力は一騎たちがギアを纏ったときよりも劣っているが、ギアを纏えない今の状態では戦いにすらならないだろう。


「……話し合うことは出来ないのか?」

「愚門ですね。今さら語らう言葉があるとでも?」

「総司の命令もないのに、どうしてまだ戦うんだ? なぜ、彼らを襲うんだ? 理由を教えてくれれば!!」

「……それでも刃を交える。それが運命さだめです」


 ガチャリと戦乙女が刃を構えた。

 それに応じたのが、一騎の命を狙ったアリスだった。


「本当に愚門ですね、あなたの質問は。

 話し合っても結果は変わらないから戦うんですよ。

 彼女たちも私も同じです。

 引けない理由があるから武器を手に取る」

 

 アリスは二振りの剣を両手に握り、戦乙女と向かい合う。


「互いの正義がぶつかるから争いはなくならない」


 アリスと戦乙女が互いの武器を構える。

 その一秒後。


 黄金の影と白銀の影が同時に地面を蹴り上げた。

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