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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
101/166

魔導戦記イクスギア

 白銀と深紅の光が弾け飛ぶ。

 生誕の産声は一発の銃声音だった。


 ドパンッ!!


 深紅の閃光が空間を裂くように駆け抜ける。

 その一発の弾丸は寸分違わず分身体の眉間を貫いた。


「な、なん、だと……」


 予想外の出来事に総司の分身体が狼狽える。

 その隙を見逃す一騎ではなかった。

 未だ光の繭に包まれた状態でありながら、一騎は手に握りしめた一挺の拳銃を再び発砲。

 二発の発砲音がほとんど同時に重なるほどの早撃ちだ。

 二発の弾丸は狙い違わず、分身体へと深紅の魔槍の如く軌跡を描く。

 が、二発の弾丸はそのまま分身体の体をすり抜けていく。

 

 別の次元へと逃げ込んだ分身体は即座に反撃へと移る。

 誰にも干渉出来ない次元の狭間を泳ぎ、分身体は一騎の背後へと回り込む。

 そして、次元の狭間から飛び出した分身体を迎えたのは――。


 ゴリッと漆黒の銃口を押し当てた一騎だった。


「今さらそんな手が通用すると思っているのか?」


 同時に一騎を覆っていた光が弾け飛ぶ。

 《火神の炎》で体の怪我を治療し、その上で一騎は新たなギアを纏っていた。



 その姿は、今までのどのギアよりも軽装だった。

 魔導装甲とすら呼べるかどうか怪しい。


 体を覆うのは黒い外套。

 そのロングコートの下には鎧などの武装はなく、大きく翻った裾が宙を踊る。

 ボロボロに破れていたイクスジャケットも修復され、手は指ぬきのグローブで覆われていた。


 今までの白銀のギアとは異なる、ジャケットもブーツもそして外套も漆黒。

 全身を黒で染め上げたその姿は、もはや《シルバリオン》とは別のギアだ。



 名付けるなら《シュヴァルツ》


 深紅の瞳を剣呑に細めた一騎が引き金に指をかける。


「ごめんな」


 ドパンッ!! 乾いた銃声が鳴り響く。

 分身体の頭部を吹き飛ばした一騎はすかさず凛音から受け継いだロートリヒトにイクシードを装填した。


 凛音のロートリヒトはイクスギアと似た機能が備わっている。

 装填したイクシードの能力を弾丸として撃ち出す能力だ。


 イクスギアとは違い、持続時間は短く、鎧としてギアを纏う事も出来ない。

 ただ、瞬間的に能力を発現し、弾丸として撃ち出す能力だ。


 だが、その分、消費する魔力はイクスギアよりも遙かに少ない。

 魔力の限界に近い一騎でも能力を瞬間発動する事は可能だ。


「《ブレイド》」


 ガチンッと撃鉄が装填したイクシードを弾き、能力を発動させた。

 銃口から白銀の刃が出現する。

 刃は銃口から射出される事なく、銃口で留まる。

 その姿はさながら銃剣だ。


「おおおおッ!」


 裂帛の気合いが迸り、白銀の閃光が再び別次元から現れた分身体を、まるで先読みしていたが如く斬り裂いた。

 さらに一騎の攻撃は終わらない。

 銃口を何もない空間に向け引き金を引く。

 二度目の発砲により、白銀の刃が撃ち出された。

 それは何もない空間を斬り裂き、次元の狭間へと隠れ潜んでいた分身体の胸に突き刺さったのだ。


「な、なぜ……!?」


 致命傷により、能力を維持出来なくなった分身体が驚愕の眼差しで胸に突き刺さった剣を見下ろしていた。

 一騎は淡々と答える。


「元々、《剣》のイクシードは相手を斬るっていう概念を突き詰めたイクシードだ。ロートリヒトで瞬間的に威力を底上げすれば、別空間に逃げ込んだお前を斬る事だって出来る」

「な、るほど……だが、それを私に、使ったのは……失策だ、な」

「それはどうかな」


 最後の分身体が消えるのと同時に黄金の拳が一騎に突き出された。

 一騎はその一撃を片手で受け止める。

 その瞬間、これまでで最大の衝撃音が戦いを見守っていたイノリと凛音に突きつけられる。

 衝撃で、一騎達を支えていた地面が砕け散り、砂埃と魔力の爆風がイノリと凛音の視界を遮った。


「お、おい! どうなってるんだ!?」

「わ、わからない! で、でも!!」


 イノリと凛音は目を細めながらも二人の超次元の戦闘を見守っていた。

 爆風の中で黄金と漆黒の影が交差する。

 《次元崩壊》の力を纏い、空間を歪める程の力を纏った総司の拳を一騎は片手で受け止め、ロートリヒトで迎撃。

 総司の頬を深紅の閃光が総司の頬を掠め、鮮血が舞った。

 己の血を見た総司の理性が弾け飛ぶ。


「貴様ッ!!」


 さらに威力を増した《次元崩壊》の拳が一騎の顔面を捉えた。 

 ズシンッと衝撃が伝わり、一騎の体が大きく仰け反る。

 その光景を見たイノリと凛音が悲鳴を漏らす。


 だが、大きく仰け反った一騎はそのままの体勢で引き金を引いた。

 ゼロ距離で放たれた銃弾は総司のギアに直撃。

 黄金のギアが破片となって砕け散る。

 一騎はバックステップで距離を離すと銃を乱射。

 総司を牽制しながら、イノリと凛音を守るように彼女達の前に立つ。


「ごめん。心配かけて」

「一騎君……」

「お前……」


 一騎の背中を見たイノリの瞳から涙がこぼれ落ちる。

 何度も絶望的な光景を見てきた。

 もうダメだと何度も思った。


 けどその度に、一騎の後ろ姿を見てきた。

 十年前も。

 そして再会した時も。

 能力で暴走しかけた時も。

 世界の命運を賭けた今も。


 だから――


「安心してくれ。俺はもう大丈夫だから」


 その言葉を聞いて、心の底から安堵の涙を流す。

 信じられる。

 彼の言葉なら。

 だって、彼の言葉に嘘はないから。

 嘘にしない為に、彼は前を向く。

 イノリにとって一騎はまさに真のヒーローだ。

 絶対無敵の、イノリが大好きな正義のヒーロー。


「うん」


 イノリは涙で声を枯らしながら、その一言を口にする。

 そして、一騎の視線はゆっくりと凛音に向けられた。


「悪い、心配かけたな」

「全くだ、この大馬鹿野郎」

「後は俺に任せてくれ」

「端っからそのつもりだ。これ以上、あたしにばっかり背負わせるんじゃねぇよ。

 一騎、あたしの親父を頼む。これ以上、間違った道に進まない為に、あのバカ親父を止めてくれ……あたしにはその力は……」

「あるさ」

「……え?」

「俺が、俺の纏うこの力はイノリと凛音の力だ。俺だけの力じゃない。みんなの力で彼を止めて、世界を救う。だから、彼を止めるのは凛音の力でもあるんだよ」

「……お前」

「ああ、だからありがとな、俺達と一緒に戦ってくれて。俺達を信じてくれて。凛音がいてくれたから俺は戦えるんだ」


 凛音はそれ以上紡げる言葉が見つからなかった。

 戦いを無くす――その為に凛音は戦う事を決意した。

 けど、その夢はあの日、父親と袂を別った時に砕け散ったと思っていた。

 ちっぽけな力では戦いを終わらせることなんて出来やしない。

 大切な場所と友達を守るだけで背一杯だった。


 けれど、もう一度だけ。

 もう一度だけ託してもいいのだろうか。


 これ以上、争いの火種を、異世界とこの世界の人達が苦しまない世界を。

 いや、信じよう。

 一騎を。

 大切な仲間を。


「あぁ……託したからな」

「任された!!」


 一騎はニッと笑みを浮かべると、最後の戦いへと駆け出す。

 もう、二人に不安も絶望もなかった。

 真に信じられるヒーローへと二人の熱い視線が注がれ続けていたのだった。



 ◆



「待たせたな」


 ロートリヒトによる乱射を止めた一騎はゆっくりと総司へと歩みよる。

 その足取りに不安な要素など微塵もない。

 隙のない足取りで総司との距離を詰めると、ゆっくりと虚空に手を伸ばす。


紅牙こうが


 一騎の手に魔力が集まり、刀の形となって収まる。

 刃の内側から深紅の炎が揺らめくような色合いをした刀だ。

 イノリの持つ《銀牙》と同じ形状の刀。

 恐らくその性能も《銀牙》か、それ以上の力を秘めているだろう。


 一騎は紅牙を横薙ぎに振るう。

 その瞬間、大気が爆ぜ、地面が放射状にひび割れた。

 一振りで大地を揺るがす程の衝撃に総司の眉間に皺がよる。


「なんだ? その力は?」

「イクスギアの力だ」

「ギアにそんな力はない。いや、例えそれだけの出力が出せたとしても肉体が持つはずがない!」

「そうかい。それがアンタの限界だ。誰も信じない。絆も仲間もいないアンタの! 一瞬で勝負をつけてやる。この世界もイノリ達の世界も、アンタの好きにはさせない!」

「――図に乗るなッ! 餓鬼がぁッ!!」


 総司が激情に任せて吠えたその刹那。

 二人の影が交差する。

 

 一騎は総司の拳を受け止め、紅牙で斬りつける。

 黄金のギアを易々と砕き、バチバチとギアから火花が飛び散る。

 だが、ギアの破損に怖じけた様子もなく、総司は両腕に黒い魔力の渦を纏わせた。


「《次元崩壊》を防いだ程度でッ!!」


 あらゆる次元を消失させる《次元消滅ディメンション・イレイザー》


 あの時は手も足も出なかった攻撃だ。

 だが、今は違う。

 心の奥底から流れる力の本流が、このギアの使い方を一騎に教えてくれる。

 

 一騎はその漆黒に二刀をロートリヒトと紅牙で受け止める。


「その程度、一瞬で消し炭にして――!!」


 だが、総司の言葉はそこで詰まった。

 なぜなら、《次元消滅》を受け止めた二つの武器を消し去る事が出来なかったからだ。

 

「なぜ!? なぜ、消滅しない」

「それがこのギアの力だからだよ!!」


 一騎が肉体のスペックを超えた力を引き出せるのも。

 総司の攻撃を受け止めるだけの肉体を得たのも。

 そして《次元消滅》に耐えられるのも。


 全てはイノリと凛音の力によるもの。

銀狼ライカン》は一騎に限界を超えた膂力を与え。

《火神のイフリート》は《銀狼》の力で常に傷つく一騎の体を癒すだけに留まらず、治癒の力を常に展開する事で強靱な肉体を一騎に与えていた。

 超速再生による恩恵は肉体だけには留まらず、武器にすら備わっている。

 

 今、一騎が総司の攻撃を受け止めているのも、武器が消滅した瞬間に再生を繰り返しているからだ。


「もう、アンタの力は通用しない!!」


 一騎は二つの武器を跳ね上げ、総司の腕をかち上げる。

 無防備になったその瞬間。

 一騎は最後の攻勢に出る。


「これが、俺達の絆の力だ!!」


 ロートリヒトを乱射し、《イクスゴット》の鎧を砕く。

 黄金の輝きが砕け散り、総司の顔に焦燥が浮かぶ。


「や、止めろ! 私の夢を……十年抱き続けた希望を砕くな!! 私は二つの世界を手に入れる神だぞ!!」

「お前は神なんかじゃねぇ!!」


 一騎はロートリヒトを投げ捨て、両手で紅牙を強く握りしめる。

 かつてないほどの力に満ち、一騎は最後の一刀を放つ。


 渾身の一撃。

 深紅と白銀の光に満たされた軌跡が寸分違わず総司の腕に装着されたイクスギアへと吸い込まれていく。


 そして――


「同じ人間だッ!!」


 一騎の放った渾身の一撃は、終に黄金に輝く総司のイクスギアを叩き壊すのだった――

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