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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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二人の力を束ねて、纏って

 白熱の閃光が総司を呑み込んだ。

 けれど、凛音には毛ほども手応えが伝わってこない。


「くそ……」


 ほとんどの魔力を使って放った一撃だが、それで作れたのは僅かな時間だけ。

 凛音はギアの出力を引き上げて、一騎へと駆け寄る。


 だが、その行く手を阻むように粉塵の中から黄金の手が凛音の腕を掴んだ。

 メキリッ! と掴まれた鎧が圧壊する。

 ギアの防護フィールドの閾値を突破して伝わる激痛に凛音の表情が歪む。


「中々の一撃だったね、驚いたよ」

「そうかい。こっちも驚いたぜ。もう動けるのかよ……」

「威力は大きいが速度がイマイチだ。どんな不意を突こうとあの程度の一撃なら避けられるさ」


 粉塵から現れた四人の総司。

 恐らくその全てが分身体だ。

 倒したところで意味はない。

 凛音は自由な手でロートリヒトを構えると引き金を引いた。

 鳴り響く銃声。

 すの全ては自らの腕に向けた弾丸だった。

 

「ぐ……ッ」


 痛みの覚悟はしていたとはいえ、肉を抉り、骨を砕く激痛にドッと汗が噴き出し、目尻に玉粒の涙が浮かぶ。

 神経を蝕む激痛に耐えながら、今にも千切れそうな腕を強引に引っ張る。


「あ、があああああああッ!!」


 ブチッ、ブチッ! 筋肉が異質な音を響かせ、千切れる。

 生理的嫌悪を抱かせる異音に凛音は堪らず叫んだ。


 だが、その大量の出血が総司の指を滑らせ、その隙を突いて凛音は強引に腕を引き抜く。

 その直後。

 凛音の腕を深紅の炎が包み込む。

《火神のイフリート》の再生能力が即座に千切れかけた腕の修復しだしたのだ。

 炎が砕かれた骨を溶接し、皮膚を焼いて繋ぎ止める。

 千切れた筋繊維の変りに炎が肉を繋ぎ止め、筋肉を焼いて繋げる。


 まさに拷問のような修復が瞬く間に行われ、凛音は激痛を伴って焼かれた拳を握りしめる。

 まるで、ギアを纏った時のように、深紅の炎が光の粒子となって弾け飛ぶ。

 炎から解放された凛音の腕はミルクのように白く、きめ細かい肌を再現していた。

 拳を何度も握りしめ、再生の炎が新たな血肉となった事を再確認。

 機能に問題がないことを確認し、即座に二挺のロートリヒトを構え直す。


「セット――《重力弾グラビティ・バレット》!! 《流星弾ミーティア・バレット》!!」」」


 二挺の拳銃にそれぞれ別のイクシードを装填。

 ドパンッと二発の銃声音が鳴り響く。

 《重力弾》の黒い銃弾は斥力の能力を発動。

 凛音の周りから総司を引き離す。

 そして、《流星弾》は拳銃型のロートリヒトから深紅の《メテオランス》へとその形状を変化させ、ランスに組み込まれた推進装置スラスターが凛音のギアになかった高速機動を与えたのだ。


 ランスの推進力で凛音は一騎の元へと駆けつける。


「バカッ! しっかりしろ!!」


 意識がほとんどない一騎の身体を抱きかかえ、離脱の為にランスに魔力を回した直後。


「逃がしはしないさ」


 目の前の空間が裂け、黄金のギアを纏った本物の総司が凛音達に向かって拳を振るってきたのだ。


(やべぇ……)


 片手に一騎を抱きかかえ、ランスを握りしめた凛音に総司の拳を避ける手立てがなかった。

 いくら改良されたイクスドライバーといえど、総司の一撃に耐えられる保証はどこにもない。

 直撃を覚悟した凛音だったが、拳が凛音の身体を捉える直前、目の前を白銀の髪が横切った。


「一騎君ッ! 芳乃!!」

「お、お前……また、その力を!!」


 再び《オルタ》の力を纏ったイノリが総司の腕を蹴り飛ばしていたのだ。

 握りしめた《銀牙》を横薙ぎに振るい、総司を牽制。

 総司がイノリの剣を嫌い、後退った瞬間、イノリと凛音も同時に総司から距離を離す。


 事なきを得たが凛音の胸中は複雑だ。

 あれほど使うなと言い含めたイノリが《オルタ》を使って助けに入ったのだ。


「使うなって言っただろ? また、暴走する気か!?」

「……でも、使わないとみんなを守れないでしょ!?」

「お前は今、守られる側だ!! いいからあたしの後ろに隠れてろ!!」

「そんなの、出来ないッ!! この状況で芳乃一人に背負わせるなんて!!」

「あたしとの約束忘れたとは言わせねぇぞ!?」

「忘れたよ!! 仲間を見捨てるような約束は!!」


 はっきりと言い切るイノリに凛音は顰めっ面を浮かべ睨みつける。


 まるで言うことを聞きやしねぇ……


 扱いに困る仲間に凛音のストレスは溜まるばかり。

 だが、イノリの言い分もわかるのだ。

 屋上での防衛戦を経て、イノリを救う為に危険を犯して、凛音の力も限界だった。

 一騎を総司の魔の手から救い出す為にほとんどの力を失い、ギアを纏ってるだけでも限界に近い。


 戦える状態ではなかった。


 けど、それは。


 イノリにも言える事だ。

 現にイノリは《オルタ》の力をすでに解除している。

 あの刹那の数秒が《オルタ》を纏える限界だったのだろう。

 悟られないように装っているが、顔色は土気色。

 手足も震え、身体がふらついていた。



(可能性があるなら……)


 凛音は思考を巡らせる。

 この状況で、芳乃総司を倒し、異世界への《ゲート》を閉じる方法を。

 だが、いくら考えても結論は同じ。


 この状況を打破し、総司に勝てる存在。


 それは――


(このバカしかいねぇ……)


 凛音は苦々しい表情を浮かべ、死に体の一騎を見つめた。

 

 この三人の中で僅かに可能性があるとすれば、それは一騎しかいない。

 一騎の持つ未知数イクスの可能性に賭けるしかない。


「よく聞け? あたしは、あたしらはお前に賭てんだ。この世界の明日も、向こうの世界の明日も。だから、お前も、お前自身の力を――イクスの力を信じろ」


 凛音はイクスドライバーから《火神の炎》を引き抜くと一騎のギアに装填。

 深紅の光が一騎を包む。


 その光の繭に触れていたのは凛音だけではない。

 イノリも慈しむように、最愛の人に信頼の眼差しを向け、光の中で一騎の手を握りしめていたのだ。


「私も信じてるよ。初めて出会ったあの時からずっと。そしてこれからもずっと信じてる。一騎君の事。一騎君が私に教えてくれた事。この気持ちはきっと永遠。だから――私達の力を、育んだ可能性イクスを信じて」


 イノリの手からそっと光輝く結晶が一騎のギアに溶け込む。

 それはかつて、暴走するイノリを救った時の結晶。

 欠片となり、イノリを今日までずっと守り続けたイノリ自身の力。

 《銀狼ライカン》のイクシードだ。


 二つのイクシードが一騎の中で溶け合う。

 白銀と深紅の光に包まれ、一騎の意識がゆっくりと浮上した。



 ◆



(温かい……)


 一騎は体を包み込む光にそっと手を伸ばしていた。

 深紅の輝きが一騎の体を癒し、蒼い輝きが一騎に今まで以上の力と勇気を与えてくれる。


 イクスギアの真価――二つの能力を掛け合わせる事で超次元の現象を引き起こす奇跡の力。

 一騎はその二つの力をゆっくりと溶け合わせていく。


 最初こそ反発しあっていた二つの力が一騎の中でその存在を認め合うように一つに繋がっていく。


(まるでイノリと凛音みたいだ……)

 

 最初は敵同士だった。

 今でも喧嘩はするが、それでも二人の仲には確かな絆が芽生えている。

 この二つのイクシードはそんな二人の縮図だった。


(認め合って、互いに信頼してるからこそ、こんなにも温かい。こんなにも安心出来る)


 それだけじゃない。

 この体の奥底から溢れてくる力はきっと――


(俺を信じて、俺に力を託してくれるから)


 二人から向けられる信頼の証。

 それこそがこの力の正体だろう。


 イノリと凛音の力だけじゃない。

 一騎の力とも溶け合って。


 一騎の《シルバリオン》

イノリの《銀狼》

凛音の《火神の炎》


三つの力が一つになる。

 

みんなの力がここにある。


(なら、信じよう。俺の、俺達の可能性をッ! 明日を掴む無限の未来イクスの為に!!)


今こそ、全ての想いを込めて叫ぶ時だ。




「イクスギア――フルドラァァァァァァァァァァァブッ!!」

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