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~”異世界で”冬の行事を”ちょっと”だけ本気出して祝ってみた! 2 ~

【 昼:錬金術師の実力、お見せいたします 】




部屋に備え付けられている小型の錬金窯から、気の抜けた「ぷすー……」と言う音と共に、黒い煙が上がったのは五分ほど前の事。

突然発生した時限クエスト”クリスマスツリーの電飾を光らせよ”により、本来の目的である痺れ薬の調合とは異なる品物を作る事になったエマは今、壁にぶつかっていた。


「………………無理でしょ」


煙が途切れた所で釜を覗き込めば、黒ずんだ残骸が目に入る。それを取り出し、テーブルの上に並べて見るが……記憶の中に残る「乾電池」とは程遠い、名状しがたい丸みをして、煤けている。かろうじて、プラスである側に小さな突起が見られているところを思えば、形はそれらしいかもしれない。


「大丈夫……実験で、食塩水と十一円で電気流れたんだから……必要なのは電解質と金属だったはず」


学生だった頃の記憶を頼りに、試しに塩水とアルミ、そして銅を用意した。それに、入れ物にするために鉛を追加してみたが……上手くいかない。

塩水の代わりにレモンを丸ごと投げ込んだ時は、鎌の中で破裂した。他は変化なし。音に驚いたエマが床に尻餅を付き、痛い思いをしただけ。

一体何が違うのかと頭を悩ませていた時、退屈そうにソファーに寝ころんでいるリヒトが顔を上げた。


「なんか、大変そうだねー……」


追い詰められているエマに向かい、リヒトは気の毒そうに眉尻を下げる。

時限式のクエストゆえに、追い詰められているエマは半泣きだ。かといって、リヒトが変わってやることは出来ない。

何故なら、彼女が錬金術師であり、リヒトが戦士職だからだ

彼に出来る事は雑用。主に、倉庫から必要な素材を取り出し、エマに言われたサイズに砕いたり、必要な量を測ったりする程度。


正直、地味だ。

そして、仕上がるたびに落胆するエマを見るのも、なんとも言えない気持ちになる。

単純に、作り続ければ出来るものかと言えばそうでもなく、


「分量に問題があったのか、流し込んだ魔力が足りなかったのか……わからないんだよー……」


細かい部分が重要らしい。


「分量なら、ちょっとずつ変えられるけど魔力はなぁ……感覚でやるものだし」

「そうなんだよね……。最近、流し込み過ぎるってのは減ったんだけど…………うう、胃が痛い」

「甘い物でも食べて。少しは気がまぎれるよ?」

「そうだね…………って、ひぃー!? また中身が焦げたーっ」


窯の中を覗き込んだエマが焦ったように声を上げる。

仕方なく、リヒトは彼女の代わりに倉庫からクッキーを取り出し、空になった皿の上に乗せた。


追い詰められている彼女に何もしてあげられない。それは歯がゆい。けれど、見守る以外の事が出来ないのが現状。


レベルが上がれば成功率が上がると言うのなら、軽口を叩いて焚きつけようかという気持ちにもなるが……リヒトはただただ、エマから零れ落ちる感情を掬い、慰めるような言葉をそれらしくかけている。


らしくない。と思いつつ、懸命に作り続けるエマを応援したくなるのは何故か。

自分でもよくわからない。健気だなと言う感想だけが、やけに頭の隅にこびり付いていた。

後頭部を掻くと、腕の動きに合わせて装飾品が音を立てる。なんとなく手首を見れば、そこには魔法防御を上げるための腕輪が一つ……

描かれた装飾と、はめ込まれた石をしばらく見つめた後、リヒトは首を傾げた。


「ぅう……これも駄目か……じゃあ、今度は……」


クッキーを頬張りながら、分量をメモした文字を塗りつぶし、新たな書き込みを加えるエマの背中を眺め、ふと浮かんだ疑問をリヒトが口にする。


「電気って、雷の魔法を封じた石を元にするとかじゃダメなの?」


その言葉に反応し、エマが書き込みをする手を止めた。

次いで、身体ごとリヒトを振り返る。


「ごめん、今のもう一回」

「…………魔法入れた石を材料にする、とか……?」

「……………………ん……んん」


考え込むように首を捻り、エマは小さく唸る。そう言えば、この世界でまだ「電気」らしいものを使うところを見た覚えがない。

科学が当たり前のようにあったエマからすれば、不思議だ。その代わりに魔法が発達し、生活を支えていると聞かされたので納得していたが……


「元の世界にあったようなものって……作れなかったりする……?」

「元の世界って、例えば?」

「えーっと……スマホとか、パソコンとか」

「…………なにそれ? てか、聞かれてもボクはわからないよ。エマとボクは違う場所にいたんだし」

「だよね……」

「けど、やってみてもいいんじゃない? 素材が近ければ、似た物になるかもしれないし」


大爆発するなら別だけど、と言ってリヒトはアイテムボックスの中を探る。

雷の下級魔法を封じ込めた宝石や、それに近い物はないだろうかとあれこれ見てみるが、検索で引っかかったのは「サンダーラビットの死骸」だった。

とりあえず、それから複数生えているうちの角を一本折り、取り出す。


「こういう、雷を使う敵の一部とか入れたら、出来たりしないかな?」

「…………やってみる!」


差し出された角を手に、エマは窯の中の煤を拭い、新たな材料を投入する。



食塩水と二種類の金属、それからサンダーラビットの角。

分量など気にせず、ひとまず先ほど失敗した時と同じものを同じだけを入れ、


「……うう……何度やっても、これが……慣れない……」


小型のナイフを右手で握り、左の掌に新たな傷をつける。

赤のポーションを少しつけるだけで切り付けた肌は元に戻るが、傷をつけるたびに火が付いたような痛みが走り、滴る赤い血になんとも言えないゾワゾワとしたもの感じた。


それを振り払い、ゆっくりと魔力を注ぎ込む。

慎重に。記憶の中にある、電気を留めた円柱の物体をイメージしながら……


すると、窯の中に僅かな光が生まれた。



「………………………………ん?」

「………………………………え?」


今までとは違う反応に、エマとリヒトが顔を見合わせた。


「………………え? 嘘、何? 今の??」


窯を覗き込めば、底の方に物体があった。それは、細長く丸みのある、筒状の物に見える。

二度、三度とエマは中身を確かめるように覗き込むが、瞬きをしても目を擦っても同じものが転がっていた。


「で…………出来た……!?」


中に手を突っ込み、一つを取り出す。

それは、電気屋などでよく見るマンガン電池と似ていた。

サイズは単三ぐらいだろうか。細い円柱で、外装は黒っぽい。魔力を流す時に浮かべたイメージそのものの、マンガン電池だ。

摘まんでクルクルと回し、上下左右を確かめる。

正極には突起があり、負極側は平たい。よく見れば外装には文字が並んでおり、それは日本語で水銀を使用していない事と、サイズが単三である事を伝えていた。


完成品を掌に載せ、エマはリヒトの方を身体ごと向く。その様子は、海で綺麗な貝殻を見つけた子供が、親に見せようとする時のようで


「リヒト、電池!! 凄い!! これ、イメージした通り!!! 出来たよ、出来たの!!!」


表情筋を全稼働させ、喜びを全力で表している。

「よかったね」と、それらしく返してみれば、エマは「ありがとう!」と感謝の言葉を言い、クルクルとその場で回った。

あまりにも子供っぽいその姿に、リヒトは思わず表情を綻ばせる。


打算も計算も何もない。そんなエマの隣は、リヒトにとって”それなりに”居心地がいい場所だ。

だから、話しかけられれば答えるし、相槌だって打つ。


感極まった状態から多少落ち着いたらしいエマが、作った乾電池をすべてテーブルの上に取り出し、


「次は導線と、ホルダー……あと、スイッチも付けなきゃ……」


またメモを片手にブツブツと呟き、難しい顔に戻る。

さすがのリヒトも、煮詰まったエマの相手をこれ以上”一人”でする気にはなれず、適当な誰かを捕まえるためにソッと部屋から抜け出した。







それから数分も経たないうちにリヒトはエマの部屋に戻り、定位置らしいソファーの上に寝転がる。

突然連れて来られたアルデオはそれから数時間、「なにか面白い話し、してよ」と言うリヒトの無茶ぶりと、突発的に発生する窯からの爆発音や煙、それを見たエマの途方に暮れた声を相手に、必死のフォローをすると言う、ある意味最も大変な役をこなす羽目になった。



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