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第90話 少女たちの実力

 

 それまで分かりやすく封術を説明してくれていたエリスの意外な開き直りに、思わずツッコミを入れる。


「いやいやいや。そんな得意げに『わからん』て言われても」


「分からないことを知ったかぶりする方が不誠実だわ」


 えーと。なんか、すんません。

 ボルマンの半分は知ったかぶりでできています。


「正直なところ、詠唱句については分かってる部分と分からない部分の差が大きいの。例えば、一般的に知られている初級までの詠唱についてはほぼその意味と文法が特定されているけど、中級以上の詠唱については難易度が上がるほど分からない部分が増えてくる。ましてや『詠唱って何?』なんて尋ねられたら『よく分からないけど、オルリス様から教わった封術陣をつくる言葉』としか答えられないわ」


 なぜかドヤ顔で言い放つエリス。

 まあでも、そうなんだろう。


「分かった。訊き方を変える。詠唱句っていうのは、神聖魔法の詠唱や、他の言語と共通点はあるのかな?」


 俺は一度、神聖魔法の詠唱を聞いている。

 カレーナとの契約の時だ。

 あの時、腕に奴隷紋が浮かんでたけど、あれは封術と何か関係があるんだろうか?


「私が知る限り、オルリス共通語との関連はないわ。発動のキーワードは術士が自由に設定できるし。ただ旧来の封術では、オルリス様にパラメータを引き渡す部分は神聖語みたいね」


「つまりそれ以外の部分は『謎の言語』ってことか」


「そうよ」


 うーむ。

 知れば知るほど分かんなくなるな。封術。


 詠唱句と封術陣ってのはプログラム的なものだと思うんだけど、神聖語とも違うってことは元々オルリス関連の技術じゃないのか?


 あと、封力石の力ってのも謎だ。

 元が魔物の体内にあった魔石だから、魔物の生命エネルギー的なものだとは思うんだけど。


 …………。

 まぁ、とりあえず使えればいいか。


 こうしてエリスによる封術講座の第一講は終わったのだった。





 それから数日後。

 俺たちは郊外にある領兵の練兵場にいた。


 俺と子分ズは、いつもの朝練の格好で。

 エリスは封術院の制服。

 そしてエステルは……。


「何それ、かわいい!!」


 ローブを脱いだエステルの姿を見て、エリスが叫んだ。


「あの、恥ずかしいです。エリス姉さま……」


 自分の薙刀を握ったまま顔を赤らめ、もじもじと俯くエステル。


 その出で立ちは、白を基調にブルーをアクセントにした品のあるドレス……のような戦闘服。

 短めのスカートが可愛い!!


 ってゆーか、可愛すぎて直視できん。

 顔を手で押さえながら、それでも目は彼女を追ってしまう。


「恥ずかしがることないわ。だって超絶可愛いもの!! さすが私の妹ね!」


 そう言ってエステルを抱きしめる天災少女。


 何が『さすが』なのかさっぱり分からん。

 大体いつから本当の妹になったのか。


 心の中でそんなツッコミを入れていたら、エリスの動きがぴたりと止まり、なぜかゆっくりとこちらに顔を向けてきた。


 その顔には、邪悪な笑みが浮かんでいる。


「ほら、あれを見てみなさいなエステル。素直になれないむっつりスケベな男子が、顔を隠してチラチラあなたを見てるわよ」


「誰がむっつりスケベだ!!」


 即座にツッコミを入れた。のだが……。


「……?」


 エリスの影からぴょこん、と顔を出したエステルと視線が重なる。


「い、いや……その…………」


 あまりの可愛さに、つい後ずさる。


「あら。いつもの強気はどこに行ったのかしらね」


 にやあ、と笑うエリス。

 こいつ悪魔か?

 このシチュエーション、もう悪魔が天使を抱きしめとるようにしか見えん。


 返す言葉に困っている俺に、天災少女の毒舌はさらに加速する。


「やあね。せっかく婚約者がこんなに可愛い姿になったのに、一言もなくこそこそ盗み見してるだけなんて。……エステル、あんな甲斐性なしやめて、私のところにお嫁にいらっしゃいな」


「はあ?!」


 こいつ、まさか百合属性か!?


 いかん、いかんぞ!!

 エステルは誰にも渡さん!!!!


 俺はドスドスと二人のところまで歩いて行くと、エリスの影に隠れている婚約者に声をかけた。


「エステル!」


「……はい、ボルマンさま」


 上目遣いに、ちょっと不安そうにこちらを見る婚約者。


「あ、あの、その…………」


 だめだ。

 勢いで声をかけたけど、彼女の姿を間近で見ると、ますます頭が真っ白になる。


「えーと……」


 それでも、なんとか言葉をひねり出す。


「そ、その服っ、よく似合ってるよ」


 その瞬間、ぽんっ、という音でもしそうな勢いでエステルの顔が真っ赤になった。


「あっ、ありがとうございます…………」


 恥ずかしさで縮こまるように俯くエステル。

 俺もそれが精一杯で、続く言葉が出て来ない。


 しばらく微妙な雰囲気が漂ったところで、背後から不機嫌そうな少女の声が飛んで来た。


「ねえ。今日はお互いの力を確認するんじゃなかったっけ?」


 それは俺の後ろで様子を見ていたカレーナだった。

 苛立ちと呆れを含んだその言葉。

 だが今は、それが渡りに船だ。


「そ、そうだな! 早速始めていこう!!」


 そう宣言する俺に向ける子分たちの視線が妙に生暖かく感じるのは、気のせいだろうか?




 最初に、俺とジャイルズ、スタニエフが相手を替えながら手合わせをする。


 俺とジャイルズは剣で。

 スタニエフは盾のみを使って打ち合わせる。


 俺たちのレベルは、現在14前後。

 それぞれ二、三の剣技、盾技を修得し、今や一人で複数体のゴブリンを相手できるくらいには強くなっている。

 逆に言えば、ゴブリン程度ではレベルが上がらなくなってきているのだけれど。

 そんなこんなで、今、新たな討伐先を検討しているところだ。


 俺たちの手合わせが終わり、女性陣のところに戻ると、色んな反応が返ってきた。


「なかなかやるじゃない」とエリス。


「一般的な兵士、冒険者と比べても、遜色ない強さですね」とカエデさん。


 ととと、と寄って来たエステルは顔を寄せ、

「あの、素敵でした……」

 と小声で囁いてくれた。


 その姿があまりに可愛くて、俺は「ありがとう」と平静を装って微笑みながら、心の中で悶えてしまった。


 そして、彼女の番がやってくる。




「行きます!」


 掛け声とともに、エステルが薙刀を小脇に抱えて駆け出す。

 流れるような洗練された動き。

 あっという間に相手との距離を縮める。


 だが彼女に相対するカエデさんは、目の前に弟子が迫っても、ゆるりと自分の薙刀を構えたまま微動だにしない。


「はぁ!」


 小さく振りかぶってからの鋭い一閃。

 だが……。


 カン!


 カエデさんはほとんど動かず、わずかに自らの得物の先でその一撃を逸らしていた。

 それは誰が見ても分かる、達人の動き。


 レベルが、違う。


 だけどエステルは、怯むことなくそこから連撃を繰り出す。


「はぁ! ……はぁ!!」


 くるくると両手で薙刀を右に左に払いながら、舞うように斬撃を繰り出すエステル。


 その姿は、まるで天使の舞踏ダンス


 そしてその連撃を、ごくわずかな動きだけで受け流すカエデさん。


 俺だけじゃない。

 エリスも、子分たちも、息をするのも忘れて二人の手合わせに見入っていた。


 そしてーー。


 カンッ


 エステルの薙刀が宙を舞った。


 それは一瞬の出来事。

 カエデさんが、エステルの斬撃を受け流しながら相手の懐に入り、自らの得物の柄でエステルの薙刀を弾いたのだ。

 …………たぶん。


「まいりました!」


 エステルの声に、ギャラリーたちは一斉に止めていた息を吐き出した。



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