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第83話 再会

 

「ボルマンさま!!」


 馬車の扉が開き姿を見せたエステルは、満面の笑みで俺の名を叫んだ。


「いらっしゃい、エステル!!」


 手を伸ばし、彼女の手を取る。


 三ヶ月ぶりに再会した彼女は、以前に増して美しくなっていた。

 うん。マジ天使!!


「これから、よろしくお願い致します」


 笑顔が花開く。

 そりゃあそうだ。互いに三ヶ月も会うのを我慢したんだもの。


「こちらこそ、よろしく」


 照れくさくてちょっと視線を外す。

 そんな俺に、温かい笑みを向けるエステル。




「そろそろ、私も降りていいかしら? お二人さん」


 馬車の中からちょっとひねた感じの声が聞こえた。


「あ、ごめん!!」 「ごめんなさい!」


 俺とエステルは揃って扉から離れる。


 間もなく、声の主が姿を現した。


「歓迎しますよ。エリス嬢」


 そう言って立礼する俺に、降車して生温かい視線を投げかけてくる伯爵令嬢。


「エリスでいいわ。二人のお邪魔をして悪いわね」


「だから歓迎するって。王国一の封術士が来てくれるなんて普通ならありえない話だし、すごくありがたいと思ってる。あと、君もエステルも仲のいい友人が一緒の方が楽しく過ごせると思うし」


 俺の言葉に、隣のエステルが笑顔で頷く。


「はい。エリス姉さまと一緒で嬉しいです!」


 その様子にエリスは、はあ、とため息を吐いた。


「エステルはともかく、口達者のボルマン卿から言われても素直に受け取れないわね」


「こっちも『ボルマン』でいいよ。……しかし俺も信用ないな」


 そう言って苦笑いする俺に、エリスは片眉を吊り上げる。


「私とあなたの今までの関わりで、どこに信用する要素があったのかしら?」


「盗賊退治に加勢したり、婚約を阻止したり、色々あったじゃないか」


「それは利害が一致したからでしょう?」


「何はともあれ心から歓迎するよ、エリス」


 きりがないので、満面の笑顔でスルーする。


「うわ。さらっと無視するし! ……まあいいわ。そういうことにしておいてあげる」


 そう言うとエリスは姿勢を正した。


「よろしくね。二人とも」


「おう」 「はいっ!!」


 こうして俺たちの新しい毎日が始まった。




「さて。これからの生活だけど……」


 昼食後、本邸の談話室でくつろぐ三人ーーエステル、エリス、それに俺。


「どんな風に過ごしたいか、二人の希望を聞かせてもらえるかな?」


 俺の問いに先に口を開いたのは、意外なことにエステルだった。


「あ、あの……。ボルマンさまと、できるだけ一緒にいたいです」


 恥ずかしそうにもじもじしながら、そんなことを口にするエステル。


 う、俺も恥ずかしい……。


「そ、そうか。分かった。できるだけ一緒に行動しよう。でも魔物の討伐の時は危ないから留守ば……」


「だいじょうぶです!!」


 胸の前できゅっ、と手を組み、身を乗り出すようにして叫ぶエステル。


「え……?」


 あっけにとられて訊き返すと、彼女は自分がいつにななく大きな声を出したことに気づいたらしく、恥ずかしそうに説明を始めた。


「あの、ボルマンさまとクルスでお会いして以来、わたしもカエデに稽古をつけてもらってるんです。……戦うための稽古を」


「戦うための稽古?!」


 素っ頓狂な声をあげる俺に、彼女は上目遣いに頷く。


「……はい。わたしも、ボルマンさまの背中を守れるようになりたくて」


 っ……!!

 このは、なんでこう健気なんだろう。

 一瞬で顔が熱くなるのを感じた。


「それで、先日試験をしてもらって『戦いに加わっても良い』と認めてもらったんです。……カエデが側にいる、という条件つきですが。ですからぜひ、わたしも一緒に連れて行って下さいませんか? 決して足手まといにはなりませんから」


 彼女の瞳から、強い想いが伝わって来る。

 だけど、いくらカエデさんが認めてても、ミエハル卿が認めなければ、無理だ。


「お、お父上はなんと?」


 俺の問いに、エステルは複雑そうな表情かおをした。


「先日もお話しましたが、お父さまからは『好きにしろ。但しミエハルの名を汚すことはするな』と……」


 無関心、か。

 ミエハル卿にとって俺とエステルの婚約は、どこまで行っても厄介払い以上のものではないんだろう。


 可哀想に、エステルは俯いてしまった。

 俺は椅子から体を起こし、彼女の手を両手で包む。


「え、あのっ、ボルマンさま?!」


「分かった。討伐も一緒に行こう。僕も君にそばにいて欲しい」


 ボン、と音がしたかのように顔を真っ赤にするエステル。

 俺は真っ直ぐ彼女を見つめる。

 やがて彼女がためらいがちに顔を上げ、二人の視線が重なった。


 少しだけ潤んだエステルの蒼い瞳が、俺を射抜く。

 ……かわいい。


 そしてーーーー。


「あー、ごほんごほん」


 隣からわざとらしい棒読みの咳払いが聞こえ、ぱっ、と離れる俺たち。

 ちっ……エリスめ。




「まあそういうことで、エステルはできるだけ僕と一緒に過ごす、と。……それで、エリスはどうする?」


 俺の問いに、不機嫌そうにこちらを見たエリスは、はぁ、と小さくため息を吐くと、返事をした。


「私は、あなたに出来るだけ同行するよう父から言われてるわ。魔物討伐を含めて、ね」


「確かに、前回フリード卿と話した時にそんなことを仰っていたな」


 エリスとの同行については、あのあと、生死の責任を問わない旨の書状を、伯爵から預かっている。

 追加で、実戦で彼女の封術を鍛えることを期待する、ということも言われていた。


「伯爵の意向はまあそれでいいさ。だけど今訊きたいのは、エリス自身がどうしていきたいか、だ。全てとは言えないけど出来る限り要望には応えていきたいと思ってる。遠慮なくやりたいことを言ってくれ」


 俺の言葉に、エリスは何やら疑わしげな視線を向けて来たが、しばらく逡巡したあと口を開いた。


「私は、封術の研究を続けたいわ。欲を言えば、その為の部屋と道具類、材料なんかが欲しい。もちろん学院と実家から持てるだけは持って来たけど、研究を続けていれば必要なものは出てくるし。他領や王都でなければ調達できないものもあるから」


「封術の研究環境か……」


 腕を組み、考えこむ。

 俺にとっても、封術戦力の強化は重要な課題だ。




 現状この領地でまともに封術を使えるのは、カレーナと二人の領兵の三人のみ。

 魔物の襲撃に備えるのに、これではあまりに心もとない。

 正直、そのうち人を集めてカレーナに封術を教えてもらい、一部隊編成しようと考えていたくらいだ。


 まあそっちはそっちで色々課題はあるけれども、もし編成した部隊全員がエルバキア帝国流の封術を使うことができれば、それは大きな戦力増強となる。


 エリスが開発した封術をカレーナが習得し、教官として隊員を教育する。

 理想的な形だが、問題はエリスがそれに同意するかどうか……。


 今のところフリード領の封術士部隊は、帝国流封術の実用戦力として王国内では突出している。らしい。


 エリスは帝国奴隷から学んだ封術を発展させ、フリードの封術士部隊にフィードバックしている。


 彼女はその知識と技術を王立封術院で研究成果として発表しているけれど、従来の封術とあまりにかけ離れた理論、技術に、他の研究者から忌避されているらしいのだ。

 まあ元々「異端」として追放された連中が持っていた技術だし、オルリス教徒には、何か心理的抵抗があるものなのかもしれない。


 つまり現状、彼女の封術はフリード領が独占している。


 その技術を、果たしてダルクバルトに提供してくれるかどうか……。

 いくらか交渉が必要だと、俺の勘が訴えていた。



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