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ロープレ世界は無理ゲーでした − 領主のドラ息子に転生したら人生詰んでた  作者: 二八乃端月


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第59話 ペントの宿屋で昼食を 1

 

 扉を開けると、活気に満ちた空気に包まれました。


「はい、いらっしゃい!! 」


 カラン、カラン、という入口の鐘の音に、給仕をされていたふくよかな女性がわたしたちに気づき、声をかけて下さいました。


 食事をされている方も何名か興味深げにこちらを見て来られます。


「おや、ボルマン様! 今日はずいぶんと可愛らしい方をお連れじゃないか。ひょっとしておデートですか?」


 女性はニヤリと笑ってボルマンさまに話しかけられます。

 これまでわたしたちに応対された方と違い、随分と親しげです。ボルマンさまが常連だからでしょうか。


 問われたボルマンさまは、僅かに頰を赤くして頷かれます。


「そうだ。俺の婚約者フィアンセのエステル殿だ。今日は彼女にダルクバルトの味を知ってもらおうと思ってね」


「あら、それは光栄だね! 亭主うちのにも張り切るよう発破かけないと。……ちょっと待って下さいましね。今、詰めさせるから」


 女性は食事をとられている方々に声をかけ、テーブルを二つ空けて下さいました。


「はい、どうぞ!」


「すまんな」


 ボルマンさまは席を移って下さった方々にお礼を言われると、わたしのために椅子を引いて下さいました。


「あ、ありがとうございます……」


 わたしが勧められるまま着席すると、ボルマンさまは向かいに腰掛けられました。


「ここは街の食堂レストランだからね。足りないものがあれば、僕に言って」


「はい。ありがとうございます」


 その姿がとても紳士的で、わたしは恥ずかしくて俯いてしまいました。





「さて。エステルは何にする?」


 メニューを渡され目を通しましたが、初めて目にする料理の名が多く、今ひとつイメージが湧きません。


「あの、ボルマンさまは何がお勧めですか?」


 わたしの質問にボルマンさまは即答されます。


「特に好き嫌いがないのなら『今日のオススメ』がいいと思うよ。僕の経験ではハズレがない」


「では、それでお願いします」


 頷いたボルマンさまは早速、給仕の女性を呼ばれます。


「僕と彼女の分『今日のオススメ』を頼む」


「あら、それで構わないんですか? 特別メニューもできますけど」


 女性が驚かれると、ボルマンさまは苦笑されました。


「ここの『オススメ』はさないからね。その代わり、スイーツを何か追加してよ」


「はいよ。それじゃあ、少しお待ち下さいね」


 給仕の方が厨房の方に歩いて行くと、ボルマンさまはわたしに向き直られました。




「それで、この街はどうだった? よかったらエステルの感想を聞きたいな」


 ボルマンさまの問いに、わたしは今日の出来事を振り返ります。


「そうですね……。小さいですが、とてもかわいらしい街だと思いました!」


「かわいらしい、か。それは思いもしなかったな」


「こじんまりとしていますが、治安は良さそうですし、街の皆さんはとても親切でした。わたし、この街のことが好きになれそうです」


 ボルマンさまは優しく微笑まれました。


「そうか。気に入ってもらえてよかった。正直、君に嫌な思いをさせるんじゃないかと、気が気じゃなかったんだ」


「いいえ、とても楽しい散策でしたよ。街を歩くのがこんなに楽しいなんて知りませんでした。驚いたのは、野菜や果物がとても大きくて、美味しい、ということでしょうか」


 今日の散策で一番印象に残ったことは、食材の豊かさです。




「エステルから見て、うちの農産物は合格?」


「もちろんです! わたしが普段、目にするものよりよほど良いものだと思います」


 わたしの言葉に、ボルマンさまが破顔されました。


「確かに、なかなか立派なものが多かったな。食卓に並んでる時はまったく意識してなかったけど。……そうか。うちの農産物は競争力があるのか」


「はい。ミエハル領ではギフタル小麦こそ大規模に栽培していますが、他の農産物はあまり採れません。日持ちする野菜など、隣領からの買い付けに頼っているくらいですから。それに比べ、こちらの農産物の豊かさには目を見張ります。まるで大地に祝福されているみたい」


 話を聞いていたボルマンさまが、きょとん、とした顔になります。


「え、ミエハル領では、ギフタル以外のものはあまり採れないの?」


「はい。残念ながら」


「でも前回、ミエハル領の農村を一緒に視察した時には、八百屋も繁盛してたように思うんだけど」


 ボルマンさまが首を傾げられます。


 わたしは前にボルマンさまが挨拶に来て下さった時のことを思い起こしました。

 初めての視察デートの時のことです。


 確かに、あの村の八百屋さんは繁盛していました。

 二人で梨を買って食べたことは、わたしの大切な思い出です。


「そうですね。……ですが、あのお店に並んでいた野菜や果物のほとんどは、もっと田舎の方か、場合によっては隣領で買い付けたものなんです」


「それは間違いない?」


「はい。わたし自身がお店の方に確認しましたから」


 わたしが頷くと、ボルマンさまはテーブルに目を落とし考えこまれました。




 ボルマンさまとの出会いは、わたしの中の何かを変えました。


 自らの過ちに目を向け、大切なものを守るために前に進もうとしている人がいる。

 そんなボルマンさまの背中を守れる人間になりたい。


 そう思ってから、わたしは自分自身にいくつかの約束をしました。


 その内のひとつが、少しでも疑問に思ったことは、自分が納得するまで調べること。


 博識なボルマンさまは、常にどん欲に様々な質問をされていました。

 そんな方を支えるならば、わたしも多くのことを学ばなければならない。

 そう思ったのです。



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