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ロープレ世界は無理ゲーでした − 領主のドラ息子に転生したら人生詰んでた  作者: 二八乃端月


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第50話 贋作事件の真相

 

 タルタスの街はずれに、その屋敷はあった。


 かつてこの街が輩出した一人の豪商。

 商会が大きくなる過程で一族は住まいを王都に移してしまったが、若い頃彼が住んでいた屋敷は当時の状態のまま街に残されていた。

 田舎街ゆえに長いこと相応しい買い手がつかず、商会の倉庫として使われていたらしい。


 ところが最近、その屋敷を買い取り、改装して住み始めた者たちがいる。




 若き芸術家集団「アトリエ・トゥールーズ」。


 ヘンリック・ジートキワという若い画家が、芸術学校の同期生に声をかけて立ち上げた若手芸術家グループ。


 金がなく、タルタスの安下宿で共同生活をしながら店の看板やポスター、内装の飾りなどを作って日銭を稼ぎ、創作活動を続ける日々。


 だが彼らは最近、ついに支援者パトロンを得て自分たちのアトリエを手に入れたのだという。

 街の人々はそのアトリエを、代表者の名をとりこう呼んでいた。


『ジートキワ荘』と。





「マンガ家がたくさん住んでそうな名前の屋敷ですね」


 タルタス卿と向かい合って座った馬車の中。


 口をついて出た俺の言葉に、彼らについて詳しく説明してくれたタルタス卿が首を傾げた。


「なんだね、その『マンガ家』って?」


「あー……なんというか、画家の一種です。メッセージ性やストーリーのあるデフォルメされたキャラクターが描かれた絵や絵本を『マンガ』と呼び、そのマンガを描く画家を『マンガ家』と呼ぶ地域があるとか、ないとか」


 俺の苦しい説明を聞いた男爵は、少し考えると頷いた。


「ふむ。……で、あれば彼らもその『マンガ家』と言えるかもしれないね。彼らの絵や彫刻は、些か前衛的にデフォルメされ過ぎていて、権威主義の王国美術院からは『子供の落書き・粘土遊び』なんて叩かれている。評価しているのは、私や一部の評論家みたいな変わり者と、素直に面白がる市井の者だけなんだ」


 ほう。

 これから逮捕しに行く「彼ら」は、なかなか面白い連中らしい。


 まあ、だからといって詐欺を赦すつもりはないけどね。




「それで彼らの処遇だが、被害者のエチゴール家としては何を望むんだい? まさか普通に賠償させて終わりなんてが言うはずないよね」


 タルタス卿は微笑を浮かべ、面白がるように問うてきた。


 なるほど。それで『同行する』なんて言い始めたのか。

 男爵は俺が彼らをどう料理するか見たいらしい。


「そうですね……。まずは彼らと話します。なぜうちに詐欺を働くようになったのか、経緯を知りたいです。その後は、彼らの『作品』を見せてもらおうかと」


「それは贋作の方かい? それともオリジナルの方?」


「両方です」


 俺の返事を聞いたタルタス卿は口角を上げ、楽しそうに笑った。


「はっはっは! それは楽しみだね。お手並み拝見といこうか!」


 いやいや。

 詐欺の犯人を捕まえに行くんだからね?!





 間もなく、目的地に到着した。


 馬車がジートキワ荘の車寄せに停車した時、件の詐欺師とその仲間は先行した守備隊の兵たちによって取り押さえられ、屋敷の玄関ホールに連れて来られるところだった。


「ちょっと、乱暴はやめて下さい! 突然何なんですか?!」


 叫ぶ優男。


 彼はダルクバルトに来た時のような小綺麗な身なりではなく、絵の具か何かであちこち汚れたヨレヨレのシャツを着ていた。

 これが彼の本来の姿なのだろう。


 そんな彼が、馬車を降り玄関から屋敷に踏み込んだタルタス卿の姿を見て固まる。


「た、タルタス卿?! なぜあなたがこんなところに???」


 驚愕に目を見開く詐欺師。


 男爵は旧知の間柄らしく、被っていたシルクハットを脱いで小脇に抱えると、親しげに彼に語りかけた。


「やあヘンリック。突然すまないね。実は君がある人を騙して金をせしめている、という話を聞いてね」


「だ、騙すなんて、そんな大それたこと……」


「……と、彼は言っていますが、いかがですかボルマン殿」


 そう言って、振り返りながら体をずらすタルタス卿。

 無駄に役者である。


 男爵の背後から突然現れた子供ボルマンにぎょっとする詐欺師。

 俺はヘンリック・ジートキワを静かに見据えた。


「あんたとちゃんと話したことはなかったな」


「まさか、ダルクバルトの?」


 相手は全身の力が抜けたように、その場にヘナヘナと崩れ落ちる。


「…………そうですか」


 床にへたり込み、茫然と呟く詐欺師。


「とりあえず、話を聞かせてもらおうか」


 俺たちは彼ら『アトリエ・トゥールーズ』から話を聞く為、屋敷の食堂に移動した。





 その後。

 一時間ほどかけて行った尋問で、様々なことが分かった。

 もちろん、詐欺に到る経緯も。


 ちなみにトゥールーズの面々は、隠し事をすることもなく素直に質問に答えていた為、荒事はなくスムーズに尋問を終えることができた。




「つまり、全ては勘違いから始まった、と?」


「はい…………」


 俺の問いに小さく頷き、うな垂れるヘンリック。


 俺は深い深い溜め息を吐いた。




 ヘンリックによると、事の始まりは五年ほど前に遡るらしい。


 当時、王都に用事があり夫婦で移動していた両親ゴウツークたちは、中継点であるここタルタスで一泊した。


 泊まったのは俺たちも先日宿泊した町一番の高級宿だったが、そこで母親タカリナは部屋に飾られていた絵を見て驚愕する。


 それは世界的にも有名な二百年ほど前の画家が描いたと思われる、未知の歴史画だった。

 本物であれば、こんな宿場町の宿にあるはずのない代物。




 タカリナはすぐに宿の主人を呼び、その絵の出どころを尋ねた。

 美術の知識も興味もない宿の主人は、その絵を用意したヘンリックを紹介する。


 タカリナから呼び出されたヘンリックは、彼女から「この作品と同様のものを仕入れられるか」と問われた。


 その絵は、トゥールーズのメンバーが過去の著名な画家のタッチを模倣して描いたオリジナル作品だった為、当然「仕入れることができる」と答えるヘンリック。



 致命的な誤解は、ここで起こった。



 タカリナはその絵を、有名画家の未発表作品と勘違いし「同じような未発表作品を仕入れられるか?」という意味で尋ねた。


 ヘンリックは「有名画家のタッチで描かれたオリジナル作品を仕入れられるか?」と問われたと思い、できると答えた。




 ヘンリックがタカリナの勘違いに気づいたのは、何度か美術品を売った後だったという。


 が、時すでに遅し。


 彼はタカリナに気に入られ、最低でも三ヶ月に一度はダルクバルトを訪問することを約束させられてしまっていた。


 ヘンリックにしてみれば、やっと舞い込んできたチャンス。定期訪問の話を断るはずがない。


 それがまさか、勘違いの結果だったとは。


 相手が貴族、しかも評判の悪いダルクバルト男爵家ということで、懲罰を恐れて言い出せず、ズルズルと贋作づくりに手を染めてしまった、ということだった。





「経緯は分かった。だが例え勘違いが発端だったとはいえ、五年にわたり贋作を売りつけ続けたことは、赦されることではない」


 俺の横で話を聞いていたタルタス卿がトゥールーズの面々を断罪する。


 うな垂れる三人の男と一人の女。


 男爵は続ける。


「犯人が我が領の住民であり、タルタス領内での逮捕であることから、裁くのは私となる。だが今回は被害を受けたのが他領の領主家ということもあり、この件は特に政治的解決を図りたいと思う。……ボルマン殿、エチゴール家の要求をお聞かせ願いたい」


 俺はゆっくりと頷き、口を開いた。


「事前の調査から、今回の犯人たちが我が家の被害を補償するに足る資産を持ち合わせていないことは把握しています。その事実を前提に、当方はいくつかの要望を出させて頂くつもりです。……が、」


 そこで言葉を切り、トゥールーズのメンバーを見る。

 四人とも、自らの明日を思い、小さく震えていた。


「その前に、彼らの作品を見せて頂きたい。贋作、オリジナル、両方です」


 俺の言葉に男爵が頷く。


「了解した。うちの部下に言って、談話室にいくつか持って来させている。これから見に行こうか」


 なんとまあ、手まわしの良い。

 さすがタルタス卿だ。


 早速、ぞろぞろと談話室に移動する。





「ほぉ、これは……」


 その作品たちを見た瞬間、俺は思わずニヤついてしまった。




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