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第49話 美術商の正体

 

 カレーナから『王都方面に向かう』という手紙が届いて四日目。

 ついに彼女から第二報が届いた。

 ただしそれは、指示していた手紙という形ではなかったが。





「何はともあれ、無事に帰って来てくれてよかった。本当ぉおおおに、よかった!!」


 夕暮れの朱に染まる自室。

 俺は目の前に立つ彼女に言った。


「だ、大丈夫だ、って言っただろ?! 心配し過ぎなんだよ、アンタは……」


 何やら顔を赤くして怒るカレーナ。

 そんな怒らんでも……。


「そうは言うがな。自分で動くならともかく、部下に危険な役回りを託してただ待つしかない身としては、すごく心配なんだぞ?」


 実際ここ数日、とても落ち着かず、意味もなく部屋の中をウロウロと歩きまわったり、スタニエフに何度も「あいつ大丈夫かな?」とか尋ねたりしていた。


「ま、まあ、大したことなかったよ。危ないこともなかったし。美術商アイツもどっかの組織と繋がってる、なんてことなかったし。つまんない話だった」


 ふむ。


「つまり単独犯ってこと?」


「いや、単独……じゃないかな」


 ん?

 バックに怪しい組織はいないけど、協力者はいる、ってことか???


「それじゃ、順を追って説明してくれるか?」


 カレーナは頷き、数日にわたる彼女の冒険について話し始めた。





 十分後。


「んん〜〜〜〜〜〜〜〜」


 カレーナの話を聞いた俺は、顔をしかめ腕を組んで唸っていた。


「だから言っただろ。つまんない話だ、って」


 相手の反応が微妙だったせいか、不機嫌そうにそっぽを向く金髪ショート。


 俺は顔を上げる。


「いや、つまんなくないよ。背景に厄介な組織が絡んでないのは朗報だし、美術商ヤツの正体がはっきりしたから、今後の策も立てられる。むしろ僅かな期間でよくそこまで調べて来たと思う。カレーナ、よくやってくれた!」


「なっ!?」


 面食らった顔をして、そのあと困ったように額に手をやり何か呟くカレーナ。


「…………ったく、(ボソボソボソ)」


「なんか言った?」


「なんもないよ!」


 彼女は再び怒ったようにそっぽを向く。

 ……なんなんだ、一体。




美術商あいつがどういう事情で詐欺あんなことをやってるかはともかく、我が領が多大な被害を受けてるのは事実だ。そして放置すれば年間何万セルー(何百万円)もの損失を垂れ流すことになる」


 そう。ショボい敵だからといって、放置はできない。


「カレーナ。戻って早々ご苦労だが、明日の朝から五日ほど全員で遠征する。せっかくお前が持ち帰ってくれた情報だ。速やかにカタをつけよう」


 カレーナはやれやれという風に頭をかいた。


「ったく……人使い荒いなあ。でもまあ、分かったよ。他の子分たちには?」


「家の者に使いに行かせるさ。お前は部屋に戻って、今日はもうしっかり休んでおいてくれ」


「りょーかい」


 少女は微笑とともに頷いた。




 カレーナが部屋を出て行った後、俺はメイドを呼んでジャイルズたちへの連絡を頼むと、デスクに肘をついて考えこんだ。


 この件を、どう処理するか。


 カレーナの調査報告から、相手はほとんど現金を持っていないと思われる。

 どうやらうちから巻き上げた金は、ほぼ使ってしまっているらしいのだ。

 つまり賠償させようにも、払う金がない。


 となれば資産の差し押さえだが、こちらもうちが被った損害ほどの価値は期待できなさそう、とのこと。


 さて、どうしよう?


 俺はその晩、あーでもない、こーでもない、と頭を悩ませることになるのだった。





 翌日。

 俺たちは朝食後、早々にペントの街を出立した。


 馬を駆けさせ北上し、前回と同じく隣領のモックルの街で昼食をとり、夕刻にはテンコーサに到着。


 更に翌朝、テンコーサから西の王都方面に向かい、昼頃にはタルタスの街に入った。


 どうもタルタス男爵とは縁があるらしい。


 カレーナが突きとめた美術商の拠点は、タルタスの街外れにあった。





「どうも、お久しぶりです」


「いやいやいやいや。三週間ほど前に会ったばかりだろう?」


 タルタス男爵の屋敷の応接間。

 俺たちの目の前で、この屋敷の主が苦笑いをしていた。

 ちなみに子分ズは、俺のソファの後ろに並んで控えている。


「冗談はともかく、突然押しかけて申し訳ありません。来週にはフリード伯爵、再来週には婚約者フィアンセをダルクバルトにお迎えしなければならないので、今回の用件をさっさと片付けてしまいたかったんです」


「なるほど。それは慌しいことだね。それで、我が街までわざわざ君自ら足を運ぶ必要のある用件というのは、一体何かな?」


 面白そうに尋ねるタルタス卿に、俺は一連の経緯を説明することにする。


 犯人の捕縛や尋問は、領主の専権事項だ。

 俺たちが勝手に動く訳にはいかないからね。


「実はお恥ずかしいことですが、うちの母が……」





 話を聞いたタルタス卿は、眉間にしわを寄せ呟いた。


「そうか。彼らはそんなことに手を染めていたのか」


 え? 何、その反応。

 ひょっとして男爵も何か知ってる!?


「えっと……ひょっとして、犯人のことを何かご存知ですか?」


「ああ、よく知ってるよ。この館にもいくつか彼らの作品を置いているしね」


 おいおいおいおい。

 まさか…………


「ひょっとして、タルタス卿も贋作を……」




 だが男爵は、微笑を浮かべて首を振った。


「いや。うちにある作品は贋作じゃない。彼らのオリジナルだ。彼らは、うちの街に居を構えて活動している若手の芸術家グループでね。まだまだ世の中では評価されていないが、私は光るものがあると思っていたんだ」


 そう言うと男爵は遠い目をする。


「私は若い頃、絵描きになりたいと思っていた時期があってね。次男坊であることをいい事に、王都の芸術学校に通っていたこともあるんだよ。だから襲爵した兄が急逝してこの領を継ぐことになった時は、ちょっとした挫折感だったな」


 ちょ、初めて聞く話なんだけど。

 でも確かに言われてみれば、タルタス卿って芸術家っぽい雰囲気があるよな。


「そんな訳で、せっかくうちの街に住んでるんだから、と私も後輩の彼らを応援していたんだが…………残念だよ」


 そう言うと男爵は守備隊の隊長を呼び、すぐに美術商たちを捕縛するよう、指示を出したのだった。





 タルタス卿は「捕物に同行させて欲しい」という俺たちの要望を快諾してくれ、思うところがあるのか、自身も同行すると言い出した。


 諌める守備隊隊長をいい笑顔で押し切り、結局、みんなで犯人たちの拠点に向け、出発する。



 さて、ここからが正念場だ。





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