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第47話 尾行……なのに先まわり

 

 領都ペントを馬で飛び出した俺たちは、一路街道を北上。


 ダルクバルトの北に接するミモック男爵領モックルの街で昼食と休憩をとると、更に北上しコーサ子爵領テンコーサを目指す。




 途中、大バッタや野犬ワイルドドッグ、ゴブリンなどに遭遇するも、これをなんなく撃退し、陽が傾く頃にはテンコーサの町に到着することができた。



 最近は領民への補償活動で街と村を行き来することが多く、魔物と戦う機会も増えている。

 おかげで街道に現れるような低レベルモンスターに苦戦することは少なくなっていた。


 皆のレベルは10に迫り、戦闘系のスキルレベルも上昇。

 ちょっとだけ新しいスキルも取得している。


 四人組のパーティーとしては、もう少しで初心者ルーキー卒業、というところだろうか。




 まあユグトリア・ノーツ主人公のリードが旅立つ時には、親友のフリッツと二人だけで今の俺たち四人と同じくらいの強さがあったので、それと比べるとどうしても見劣りする。


 ただ、あれは数年後の話だし、何より主人公補正があるからモゴモゴモゴモゴ…………と、自分に言い聞かせ、日々修行を続けていた。




 唯一、敵が大群で現れ、数で圧倒されることだけが心配だったが、なぜか出現する敵の数は五匹を超えることがなく、なんとか四人で凌げている。


 先日、師匠のクリストフに尋ねてみたところ『それはそういうもの』らしい。




 基本的に魔物は、五匹までの群れでしか現れない。


 暴走スタンピードや大量発生の際は大群で現れることもあるが、戦闘で連携をとるのは最大五匹単位ということだった。


 ……なんじゃ、そりゃ?


 その話を聞いて激しく首をかしげたのだが、後で色々考えて思い当たったのは、ユグトリア・ノーツのバトルシステムのことだった。




 ユグトリア・ノーツで同時に戦闘に参加できるメンバーは五人。

 それに合わせてか、一度の戦闘で登場する敵の最大数も五匹となっている。


 主人公たちはゲームが進むに従って仲間が増え、最終的に八人の大所帯となる。

 が、その全員が一度に戦闘に参加することはできず、主人公と、他に四人のメンバーを選んで戦闘を行う。


 戦闘中のコマンド操作で控えのメンバーと交代することはできるけれど、戦闘に参加できる人数は常に五人。


 とあるイベントバトルで敵も交代で次々に襲ってくるシーンがあったが、それでも同時にフィールドに存在する数は五匹を超えることがなかったはずだ。




 この世界とゲーム「ユグトリア・ノーツ」の関係は未だによく分からない。


 魔石の回収など、細かいところでゲームと違いがあり、単純にゲームの世界に入り込んだと考えるのは難しい割に「敵の上限五匹」とか変なところでゲームシステムの制約を受けている。


 何なんだろうね、この世界は。


 ラノベなんかでは異世界転移・転生には女神の説明やら祝福やらが付き物だったけど、それもなかったし。


 まあ、色々苦労はさせられるけど、可愛い婚約者エステルの存在と、成長著しい子分ズのおかげで、俺はそれなりにこの世界に愛着が持てるようになってきていた。





 話を戻そう。


 テンコーサの街に到着した俺たちは、早々に宿をとり、併設の食堂で夕食をとることにした。


 前にこの街に寄った時、ジャイルズとスタニエフにリーズナブルで良さげな宿を探してもらっていたのだ。




 四人で丸テーブルを囲んで注文を終えると、早速ジャイルズが口を開いた。


「坊ちゃん、本当によかったんですかい?」


「何が?」


「いや、詐欺師の野郎をそのままにして街を出てきたけど、よかったんかな、と思ってさ」


「……ふむ」


 昨日一通り説明したんだけどな。

 どうやらジャイルズはいまいちピンときてないらしい。


 元々「悪即斬」なことを言ってたし、放置するのが気になるのだろう。

 まあ、気持ちは分からなくもないけどね。




「昨日も説明したけど、今回俺たちは奴を泳がせて背後関係を探ろうとしてる。だからまあ、奴をすぐに捕縛はできないし、捕縛できない以上、奴に張り付いている必要もない。……ここまではいいかな?」


「いや、でも、張り付いてないと奴を見失うんじゃね?」


 ジャイルズは首をかしげる。

 俺はそんな彼に、呑気に言ってみせた。


「きっと、大丈夫だよ」


「いやいやいやいや、待ってくれ坊ちゃん。見てないとどっか行っちまうかもしれねえだろ?」


 手で制止するジャイルズに、俺は核心となる質問をぶつける。


何処・・へ行こうというのかね?」


「へ???」


 ジャイルズは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。




「ダルクバルトの中でどこに行こうと、小さな領地だからすぐに足取りを追える。ダルクバルトから出るにしても、美術商あいつが高レベル冒険者で一人で街道を旅できるならともかく、そうでないならギルドの定期便に乗るしかないだろ?」


「あ、ああ。そうだな」


 ギルドの定期便、というのは各ギルドが共同で運行している巡回馬車のことだ。


 拠点となる街……ダルクバルト方面であれば、ここテンコーサが基点になる……と終点の街までを、概ね四日間隔で巡回運行している。


「定期便に乗るなら、これまた足取りは追いやすい。停車場も決まってるし、発着の時刻も大体決まってる。今頃はモックルの街に着いてるだろうさ」




 商談があったのが、今日の午前中。


 問題は商談がどれだけ長引いたか、だが、うちの母親タカリナは価格で悩むことはまずない。


 持ち込まれた品の中から必ず一品選んで購入し、他に気になったものがあれば、次回も持ってくるように言いつける、というのが彼女の購買スタイルだった。


 なので、そこまで商談が長引くことはなく、美術商はほぼ毎回、午後に出発する定期便に乗ってダルクバルトを出立していた。


 この情報は、共同ギルド支部のおっちゃんから聞いた話なので、まず間違いないだろう。


 大きな問題イレギュラーがない限り、今頃、美術商ヤツはモックルの街にいる、というのが俺の見立てだった。




「今回カレーナに尾行をしてもらう訳だけど、さすがにダルクバルトからずっと同じ馬車に乗ってたら怪しまれるだろ? だからこのテンコーサから後をつけてもらおう、って訳だ」


「モックルで下車して行方をくらます可能性は、ないんですかい?」


 うん。いい質問だ。


「もちろんその可能性はある。だけどそれならそれで、次の機会にミモック男爵領で尾行するように計画を立てればいいさ。今回当てが外れても、奴のアジトの場所を絞り込めるなら悪くない」


「なるほどなー!」


 ジャイルズは顔をしかめながら伸びをした。




「まあそんな訳で、今回はカレーナの単独行動になるんだが……何か不安なことはないか?」


 それまでニヤニヤしながら俺とジャイルズのやりとりを見ていた金髪ショートの少女に尋ねると、彼女は、ふふん、といった感じで返してきた。


「ないよ。わたしがドジ踏む訳ないじゃない。せっかく苦労して新しいスキルをゲットしたんだし」


 俺は苦笑する。


「あれなぁ。ひょっとしたらと思ってトライしてもらったんだけど、まさか本当にあんなスキルを取得するなんて……」


「何のスキルなんです?」


 スタニエフが興味深げに尋ねてくる。


「『隠密Lv4』。今のカレーナなら、誰にも気付かれずに外からうちの屋敷に忍びこめるぞ」


 実際、この間成功したし。

 ……クリストフが非番の時だけどな。


「マジかよ!?」


 ジャイルズが目を剥いた。




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