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第4話 強欲領主に欲張り呼ばわりされた話

 

 意識を集中し、右手の人差し指と中指を揃えて空中を払うように動かすと、淡く白く光る文字列が空中に現れた。



 名前:ボルマン・エチゴール・ダルクバルト

 称号:領主のドラ息子

 Lv:3

 HP:320/320

 MP:9/9

 SP:15/15

 特技:

 ・剣Lv1(剣の攻撃力 +5%)

 ・脅しLv2(消費SP5・敵SP6%減少)

 ・交渉Lv1(交渉成功率 +5%)

 魔法:-



 以上。ステータスでした。




「弱っ!!」


 思わずイスに座りながら仰け反った。


 確かにやられキャラならこんなもんだろうけど……あまりにも酷すぎる。

 チートがないどころの話じゃなかった。


 覚えている限り、現時点のリード(十歳・初期ステータス)でも、Lv:5、HP:550くらいはあったはずだ。

 ヒロインのティナにすら余裕で負けてる。


 さっきのリベンジなんて夢のまた夢だよね。




 このゲーム、レベル差はそこまで大きな差ではなく、戦術やテクニック次第で二割くらいのハンデはカバーできるようになっている。


 が、さすがにこれは酷い。論外だろう。


 年下にこれだけ劣るなんて、ボルマンはどれだけ人生舐めて生きてきたのか。

 頭が痛くなってきた。




 ステータスを確認し、とりあえず自分にチートらしきものがないことは分かった。


 ないものねだりしても仕方ないので、使えるものを考えてみよう。


 能力的なチートがない以上、この世界に対して優位に使えるのは頭の中、つまり知識と発想だけということになる。




 使えそうな知識はざっと次の三つだろうか。


 ・前世の一般的な知識

 ・ゲーム「ユグトリア・ノーツ」の知識

 ・この世界についてのボルマンの知識


 この三つを組み合わせ、目的達成を目指す。




 では、何を目的にするのか。


 最優先は「生き延びること」だよね、やっぱり。


 今のままじゃ、魔物の餌食になる未来がほぼ確定している。せっかく転生したのに、化け物に喰われて死ぬとか勘弁してほしい。


 ゲーム内のボルマンと違った道を歩むことで、魔物の襲撃を回避、または撃退することを目指す。




 どちらを目指すかと言えば回避、と言いたいところだけど、ことはそう簡単じゃない。


 魔物襲撃は、主人公旅立ちのきっかけとなっている。


 襲撃は回避したけど、主人公が旅立たなかったせいで数年後に世界滅亡なんてことになったら、マジ笑えない。


「となると、逃げるか、自力で村を守るか……」


 自分だけ生き延びるのであれば、そう難しくない。

 村人と領地を生贄に一人逃げればいいのだ。


 だが、領主はこの国、ローレンティア王国の国王から領地を預かるかわりに、その領地の守護と運営を任せられている。

 逃亡領主は王国の暗部に追われ続けることになるだろう。


 あと、庇護すべき人々を見捨てるのは、さすがに人としてどうなのか、と。


「ちくしょう。戦うしかないじゃないか」


 魔力灯の薄暗い光がゆらめく中、ひとりごちる。


 その夜、遅くまであれこれ考えた末、いくつかの決心をしたのだった。





「父上、ひとつご相談があるのですが」


 翌日の朝食の席。

 俺は前の晩に考えたことを実行に移した。


「なんだ? 今日は午前中に直轄地の視察に行かねばならん。昼飯を食べたら隣村に出発だ。手短かにな」


 夕べは大変お楽しみだったようで、やや毒気が抜けた表情で皿をつついていたゴウツークが、視線をこちらによこした。


「はい。では手短かに。昨晩色々思うところがありまして、私も父上のような優れた領主になれるよう、一層研鑽せねばと思ったのです」


「ふむ。儂のように『優れた領主』にな」


 ゴウツークの顔がにんまりとほころぶ。相変わらずおだてに弱い。

 そんな調子だとつけ込まれますよ、父上。




「そこでご相談なのですが、ジャイルズの父親に、私に剣を教えるよう申しつけて頂けないでしょうか? 私も父上のように精力的にものごとに取り組めるよう、体力をつけたいのです」


「ジャイルズの父親というと、クリストフか」


「はい。かの者はかつて王国騎士団にいたと聞きました。私は何をするにも体力と忍耐が足りず、長続きしません。彼ならばそのあたりの鍛錬の方法を知っているのではないかと思いまして」


「確かにな。あいつならその手のことも指導できよう。……よし、分かった。お前に剣の手ほどきをするよう言っておこう」


 ゴウツークが鷹揚に頷いた。




「ありがとうございます! 少しでも父上に近づけるよう、精進いたします」


「うむ。そうするがよい。相談とやらはそれだけか?」


「ええと。実は、もう一つありまして……」


「なんだ? 随分と欲の張ったことだな」


 欲の張り方はアンタの方がひどいだろ、という言葉を飲み込み、笑顔で口を開く。


「はい。領地の金銭のやり繰りを学ぶために、帳簿の閲覧を許可頂きたいのです」




 そう言った途端、ゴウツークが目を剥いた。


「帳簿だと!? なぜそんなものを見る必要があるのだ」


 予想通りの反応。


 まぁ領政は領主の専権事項だし、帳簿はおいそれと見せて良いものじゃないよね。例え家族であっても。


「先ほど申しましたように、領地の金銭のやり繰りの実際を学ぶためです」


「駄目だ駄目だ!! でしゃばり過ぎだぞ、ボルマン!!」


 必要以上の激しい拒絶の意思。

 やっぱり事情があるのかね。……バレたら牢屋行き的な。




 俺はテーブルに手をつき、身を乗り出した。


「大変失礼なことをお願いしているのは重々承知しております。しかし、私は早く父上のように周りから尊敬を集める人間になりたい。父上のように誉れ高い貴族になりたいのです! ごく一部、例えばテナ村のものだけでも構いません。昔の帳簿でも構いません。どうか愚かな息子に、学ぶ機会を与えては頂けないでしょうか!!」


 随所におべっかを散りばめた懇願に、ゴウツークは「むう……」と唸った。


 ちなみにテナ村はダルクバルト男爵領南東の村で、挟間の森に近い、最も発展が遅れている村だ。

 ローレンティア王国で最南東の村でもある。


「…………」


「…………」


 しばし無言の競り合いを続ける親子二人。




 やがて父は溜息をついた。


「テナ村の帳簿だけだぞ?」


「ありがとうございます! 父上のご期待に応えられるよう、頑張って学びます!!」


「分かったわかった。カミルに言っておくから、見せてもらえ」


 ゴウツークはどこか疲れたような顔でひらひらと手を振ると、残りの料理を片付け始めた。


 カミル・オネリーはスタニエフの父親だ。ダルクバルト男爵領の金庫番をしている。




 父親から欲しかったものを全て引き出し、内心で小躍りしながらさっさと朝食を片付ける。


 ちなみに小躍りのイメージは阿◯踊りである。

 ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんか♪


 さて、部屋に戻って外出の準備をしようか。




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