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第37話 戦士の祝福

 

 カタン、と音を立て、地面に皮の盾が転がる。


 同時に俺は、それまで片手持ちしていた剣に左手を添えた。


 本来片手用の剣なので、柄が短い。

 だが子供の手であればなんとか両手持ちできないことはない。


 そしてゆっくり剣先を持ち上げ、足を開き、上段に剣を構えた。

 それはおそらく、ど素人には致命的な、隙だらけの構え。




「勝負だ、ゴブ公!」


「ギャーーッ!!」


 俺が叫ぶと同時に、ゴブリンが踏み込んでくる。


 棍棒両手持ちの渾身の一撃。

 頭上に掲げた凶器が、俺の頭めがけて振り下ろされる。


 その瞬間、俺はすっ、と右足を一歩下げた。


「はぁっっ!!」


 ガキッ!!


 掲げた剣の刃と鍔で相手の棍棒を受け、そのまま右下に受け流す。


 ドス!!


 地面に打ちつけられる棍棒の先端。

 そのまま左手を離し、片手で剣を後方に振り抜く。


「!?」


 瞬間、剣の先端が青白い軌跡を描いた。

 振り抜いた剣先は弧を描いて上を向き、自然に刃が返る。


「ギャ?」


 哀れな魔物が顔を上げた瞬間、俺はそのまま剣を右上から左下に振り下ろした。


 棍棒を受け流した勢いと、身体全体の回転が乗った、会心の一撃。

 青い光を纏った刀身が、棒立ちの魔物を斬り裂く。


 バザッ!!


 ゴブリンの首から反対の腋までが切断されて吹き飛び、残った半身は真っ赤な血を噴きながら地に倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 動悸が速い。

 初めて剣技「返し斬り」に成功した。……と思う。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 俺は急いで後ろを振り返った。




 スタニエフは、踏ん張っていた。


 大人と子供ほど身長差があるホブゴブリンの剣が、何度も、何度も、様々な角度から打ちつけられる。

 それを皮の盾一枚で受け流し続ける、必死の形相のスタニエフ。

 もはや剣も持っていない。


 こいつは戦闘には不向きだと思う。

 運動神経も悪い。

 だが、挫けることなく俺たちと同じ訓練を受け続けていた。

 剣は下手でも、ずっと盾で、俺やジャイルズ、師匠クリストフの斬撃を受け続けてきたのだ。


 もしユグトリア・ノーツに「盾」という技能があったなら、そしてその特技があったなら、スタニエフはその道で生きることもできたかもしれない。


 彼の盾さばきは、それほどまでに見事だった。




 とはいえ、その盾ももう削られてボロボロだ。


 一刻も早く、助けに入らねば。

 そう思い、かけ上がろうとした時だった。


「伏せろ、スタ公!!」


 スタニエフの背後で詠唱を続けていたカレーナが、封術陣を纏った右腕を前に突き出して叫んだ。


 そのタイミングで振り下ろされるホブゴブリンの剣。




「くっ!!」


 その時、敵の剣を受け流し続けていたスタニエフが初めて違ったモーションを見せた。


 左足を半歩踏み出し、左手の盾を振り上げながら敵の剣にてに行ったのだ。

 これまでより一瞬だけ早い動き。


「ギャ?」


 今まで左右に受け流されていた剣は、トップスピードに乗る前に盾の縁に当たり、そのまま斜め上に跳ね上げられる。


 刹那、スタニエフの盾が青白い軌跡を描いた。


「え?!」


 俺は驚愕して立ち止まる。


「ええいっ!!」


 スタニエフは気合とともに盾を持った腕をしならせ、裏拳のように盾でホブゴブリンの顔を打ちつけた。


 ガン!


「グギャ!!」


 青く光る盾で顔を張られ、吹き飛ぶ魔物。




 よろよろと地に倒れ、それでも尚立ち上がろうと敵が腕を立てた時。


 封術陣を腕に纏わせ、拳の先に尖った三十センチほどの氷柱を浮かべていたカレーナが叫んだ。


氷槍アイスランス!!」


 次の瞬間、カレーナの拳の先から氷柱が猛烈な勢いで打ち出される。


 それは一直線に敵に向かって飛び、そしてその胸に突き刺さった。


「グ……グギャッ」


 自分の胸に刺さった氷柱を見て、不思議そうな顔をするホブゴブリン。


 哀れな敵は胸から背中まで氷の槍で貫かれ、表裏両方から血を噴き出しながら地に崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ……」


 呼吸を乱しながら、その場にへたり込むスタニエフ。

 どうやら彼も、カレーナも無事なようだ。


 俺は、残る仲間を振り返った。




「こなくそぉお!!」


 ジャイルズは両手で剣を振りかざし、フラフラになっている目の前の斧持ちゴブリンに、跳び上がって斬りかかった。


 こちらも剣が、青い光を放ちながら力一杯振り下ろされる。


 バサッ


 一刀両断。

 魔物は頭から股まで斬り裂かれ、パタ、と倒れた。


 傍らには斬り捨てられた魔物の死体が一匹。

 今やり合っていたのは二匹目らしい。


「次ぃっ!!」


 ジャイルズがこちらを振り返る。


 俺は腰に手をやり、ニヤ、と笑った。


 一瞬ぽかんとして、次に情けない顔をするジャイルズ。


「なんだよ。俺、最後かよ……」


 肩を落とす子分。


 うむ。

 ここはひとつ、上司として慰めてやるか。


 俺は彼のところまで歩いて行き、ポンポンと肩を叩いた。


「まあまあ。皆、無事なんだ。それでいいじゃないか」


「ぐ、ぐぐ……」


 苦い顔をして唸るジャイルズ。

 あれ、だめ?


「何はともあれ、俺たちの初勝利だ。今は勝ったことを喜ぼう!!」


 そう言ってでかい子分の背中をぶっ叩いたところで、上からスタニエフとカレーナがやってきたのだった。




「やるじゃないか、スタニエフ!!」


 俺はやってきたスタニエフの肩を拳でどついた。


「ぃててっ! あ、ありがとうございます」


「正直、お前があんなにやれるとは思わなかったぞ!」


 いや、まじで。

 こいつが盾であそこまでやるとは、考えていなかった。


「そんな……褒めすぎですよ。結局、トドメをさしたのはカレーナですし」


「そんなことはないさ。盾一枚で格上かもしれないホブゴブリンとやり合って、カレーナの詠唱時間を稼いだじゃないか。大したもんだ!」


 ばん、と背中を叩く。


「げほっ、そ、そうですかね?」


「ああ。二匹倒したジャイルズ、迫る敵に動じることなく詠唱を続けたカレーナもよく頑張ってくれたが、お前も大したもんだ。自信持てよ」


 いつもは割と落ち着いているスタニエフが、珍しく視線を彷徨わせ、頭をかいた。


「ありがとうございます。坊ちゃんにそこまで言って頂けるなんて……光栄ですね」


 うん、うん、と頷く俺。

 そして残り二人の方を向く。


「ジャイルズとカレーナもよくやってくれた。この戦い、誰が欠けても、力を出しきらなくても、勝てなかったぞ」


「おうよ」


 ニタ、と嗤うジャイルズ。


「あんたって意外と…………まあ、いいか」


 何か言いかけて、片側だけ苦笑いのような、呆れたような顔をするカレーナ。


「ここまでやれれば、師匠も俺たちだけでダンジョンに潜ることを認めてくれるだろう。前にも話したが、俺たちには時間がない。引き続きよろしく頼む」


「おう!」


「はいっ」


「はいはい……」


 三人三様に返事を返す仲間たち。


 さて。一度馬車に戻って、師匠クリストフに報告しようか。





「見事な戦いぶりでしたぞ!」


 四人で馬車に戻ると、師匠クリストフが暑苦しい笑顔で出迎えてくれた。


「なあクリストフ、訊きたいことがあるんだが」


「なんですかな?」


 早速、先ほどの疑問をぶつける。


「さっきの戦闘中、一瞬、俺たちの武器や盾が青く光ったんだが、あれは何なんだ?」


 訊かれた師匠は、ニヤリと笑った。


「それは祝福の光ですな」


「祝福の光?」


 俺が首を傾げると、師匠はゆっくりと頷いた。


「熟練の戦士が特技を放つ時、ごく稀に特技のクリティカルが出ることがあります。我々は『戦士の祝福』と呼んどりますが、それが出る時には、武器の一部が青い光を放つのです」


「それがあの光?」


「そう。本来、滅多に見ることがないものなんですが……。ひょっとすると坊ちゃんは、特別な何かをお持ちなのかもしれませんな」


 クリストフは目を細めて俺を見た。


「いやいや、武器が光ったのは俺だけじゃないぞ。ジャイルズもそうだし、スタニエフなんか盾が光ってた」


 実は特技がらみの何かなんじゃないか、と思ってはいた。

 実際、自分自身『返し斬り』に成功した手応えはあったし。


 だけどそれじゃあ、スタニエフのあれは何なんだ?


 盾の特技なんて「ユグトリア・ノーツ」にはなかったし、ネットの情報でも見た覚えないぞ?




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