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第29話 お嬢様は封術士

 

 ヤバい、狙われてる!


 そう思った時だった。


 今まで動きがなかった貴族の馬車の扉が、バン、と音を立てて開かれた。


 そして、何かが飛び出す。




「え?」


 現れたのは、白いセーラー服のような衣装に身を包み、同じく白い帽子を被った少女。

 ボルマンよりひとつふたつ年上だろうか。


 赤みがかった茶色の髪をなびかせて降り立った彼女の右腕には、白く輝く高密度の封術陣が回転している。


「ずいぶんとやってくれるじゃない。誰に手をあげたのか、教えてあげるわ!」


 少女はそう叫ぶと、封術陣を纏った右腕を突き出した。

 その指先には、輝く小石が挟まれている。




 少女の登場を脅威と感じたのか、盗賊の封術士はこちらに向けていた封術陣が乗った腕を、火の玉を、彼女の方に向け直した。


 そして、叫ぶ。


火球ファイアボール!」


 腕の先から放たれた火球は、グルグルと回転し、炎の尾を引きながら、大人が走るくらいの速さで馬車に向かう。


 それは、この世界に来て初めて見る封術。

 意外と遅い。


 が、巻き込まれれば、またはかすっただけでも、大きなダメージを受けてしまうだろう。

 決して油断できるものではなかった。


「お嬢様!!」


 騎乗した護衛の騎士が叫び、馬を廻らせようとする。

 が、間に合わない。




 皆が息を呑む中、狙われた少女は意外なほど落ち着いていた。

 封術陣を纏った腕を、曲げた人差し指と親指で挟んだ輝く小石を、近づいて来る火球に向ける。


 少女は叫んだ。


光弾連射バースト・ライト!」


 前に突き出した少女の指先から、小石から、眩い光を放つビー玉大の光弾が、三連射で打ち出される。


 敵の火球より遥かに高速なそれは、レーザーのように一直線に飛び、正面から火球とぶつかった。


 ドォン!!


 一発目の光弾が火球を爆散させる。


 続いて二、三発目が敵の封術士と射手の背後の地面に着弾し、破裂した。


 ドドン!!


 敵が吹き飛ばされ、宙を舞う。


「わーお……」


 思わず感嘆の声をあげてしまった。


 その声に、少女がジロ、とこちらを見る。

 不審げな顔。


 いや、うちら味方よ? たぶん。


「お嬢様! お怪我はありませんか?!」


 領兵たちが盗賊の生き残りを捕縛する中、護衛の騎士が馬から下り、少女に駆け寄った。





「何か、手伝うことはありますかな?」


 剣を収め、下馬したクリストフが護衛騎士に話しかける。

 相手の騎士は、兜を脱いだ。

 ……ちっ。なかなかのイケメンだ。二十代半ばくらいだろうか。


 イケメン騎士は、笑顔でこちらに会釈をした。


「助かります。捕らえた盗賊の数が多く…………て、え? あれ??? ひょっとしてクリストフ殿じゃありませんか?!」


 驚いた顔でクリストフに話しかけるイケメン騎士。

 話しかけられたうちの領兵隊長は、首を傾げた。


「ふむ。どこかでお会いしましたか?」


「ええ、ええ。何年も前、一度だけですが、王国騎士団の演習場で、稽古をつけて頂いたことがありました! 私がまだフリード伯爵の騎士団に入ったばかりで、騎士見習いをしていた頃です。風の噂に騎士団を辞められたと聞いていましたが、こんなところでお会いできるなんて!!」


 興奮してまくし立てるイケメン。

 あれ、ひょっとしてうちの隊長、有名人???


「おお、そういえば昔、フリード伯爵のところの若手騎士に、稽古をつけてくれ、と拝み倒されたことがありましたな。そうか、あの時の青年か。先ほどの戦い、見事でしたぞ! どうやら相当研鑽を積まれたようですな!!」


「いえいえ、私などまだまだです。先ほどの素晴らしい騎乗突撃も、クリストフ殿であれば納得というものです!」


 どうやら二人は顔見知りのようだ。




 再会で盛り上がる二人。


 その様子を、腕を組み、不機嫌そうな顔で見つめる者がいた。

 先ほど見事な封術を披露した、白い服の少女である。


「ケイマン、知り合い?」


 イラついた顔で、腕を組んだまま尋ねる少女。

 ケイマン、と呼ばれたイケメンは、はっとした顔で少女を振り返った。


「申し訳ありませんお嬢様。久しぶりの再会に驚いておりました」


 ケイマン氏はクリストフを手のひらで示して紹介する。


「こちらは、元王国騎士団、王都守備隊隊長のクリストフ・ゴードン殿です。クリストフ殿、こちらは私が仕えるジャックス・バルッサ・フリード伯爵の三女、エリス様です」


 紹介を受けてクリストフが立礼する。

 ……っていうか、クリストフって昔は結構偉かったんだな。


「ご紹介にあずかりました、クリストフ・ゴードンと申します。現在は、ゴウツーク・エチゴール・ダルクバルト男爵にお仕えしております」


「だ、ダルクバルト男爵……」


 顔を顰めるエリス嬢。

 ああ、裏表ないなのね。


「差し出がましくはございますが、我が主人のご子息をご紹介させて頂きたく」


「え?」


 さらに顔が引き攣るエリス。


 いや、そんなに嫌がらなくても。傷つくじゃんか。

 ……まあしょーがない。呼ばれたことだし、行って来ようか。


 俺は馬を降り、彼らのところに歩いて行った。




「おお、坊ちゃん。紹介しますぞ。こちら、フリード伯爵のご令嬢、エリス殿です」


 嫌そうな顔の少女エリスに立礼する。


「お初にお目にかかります。ゴウツーク・エチゴール・ダルクバルトが長男、ボルマンと申します」


 俺を前にしたエリス嬢は、眉をひそめながら、しかし貴族令嬢らしく挨拶を返す。


「ジャックス・バルッサ・フリードの三女、エリスよ。この度は、ご助力感謝するわ」


 うわ、偉そう。

 まあ伯爵令嬢だしな。

 向こうは上級貴族、こっちは下級貴族だ。家柄は比べるべくもない。


 ちなみにフリード伯爵領は、うちの領地の北の北の北の北。王国最北東の領地で、北の海に面した豊かな土地だ。

 確か領都は港町で、うちの領地を流れるテナ川の河口付近にあったはずだ。




 そんなことを思い出しながら、俺は生意気な小娘に笑顔で一礼する。


「こちらこそ、助けて頂きありがとうございました。エリス殿の封術のおかげで命拾いしましたよ。……田舎者ゆえ、初めて封術というものを見ましたが、凄まじいものですね」


 俺の言葉に、お嬢様は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに先ほどまでのツンツン顔に戻る。


「ふ、ふんっ。確かにダルクバルトのような辺境だと、封術は珍しいでしょうね。特にさっきみたいのは。……言っておくけど、さっきの術は私のオリジナルだから。確かに封術は全体的に高威力だけど、あんなことができる封術士は、めったにいないんだからね!」


 ドヤ顔である。

 見事なドヤ顔である。


 ここはひとつ、おだてておくべきだろう。


「おお、それはすごい! その歳で独自の術を開発されるとは。どのような道でも、新しいやり方を生み出すのは至難のわざです。エリス殿は封術について、天賦の才がおありなのですね」


 思いっきり持ち上げる俺。


 なにせプライドの高そうなお嬢様である。

 てっきり、鼻高々に喜ぶものだと思っていた。


 だが、反応は意外なものだった。


「……よく知りもしないことを、簡単に『天才』なんて言葉で片付けないで」


 冷たい瞳が俺を射抜いた。




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