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ロープレ世界は無理ゲーでした − 領主のドラ息子に転生したら人生詰んでた  作者: 二八乃端月


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241/250

第241話 秘密

 


 ☆



 封術研究所のプレゼンスライドに差し込んだ『羽の生えた帆船』のシルエット。


 もちろんこんなものを造る気はないが、『飛空船』を説明するには、このくらい分かりやすい方が良いだろう。


 なんせ『船』だし。


 ––––そう思って、アトリエ・トゥールーズのルネに依頼してそのように描いてもらった。




 俺は伯爵に向きなおる。


「もちろんこの絵のような船を造るつもりはありません。私が考えているのは、羽ではなく封術により浮遊し、帆ではなく封術により飛行する船––––『飛空船』です」


「飛空船、だと?」


 さらに不審そうな顔をするフリード伯爵。


 俺はそんな伯爵の視線を正面から受け止め、頷いた。


「はい。ひょっとすると帝国ではすでに開発が始まっているかもしれないシロモノです。私たちは、少なくとも敵がこれを『繰り出してくる』前提で対策を考えなければなりません」


「なんだと!?」

「なんですって!?」


 伯爵がぐいっと身を乗り出し、傍らのエリスが叫ぶ。


 ぎょっとしたように目を合わせる父と娘。


 父は「事前に話を聞いていないのか」という顔で。

 娘は「しまった」という顔で。


 一瞬固まった二人だったが、先に動いたのはエリスだった。


 彼女は、こほん、と咳払いすると俺を睨んだ。


「ボルマン卿。その話は本当なの?」


 俺は彼女に頷く。


「ああ。『たぶん』な」




 『ユグトリア・ノーツ』では、ゲーム後半の帝国による世界侵略の際、多数の飛空船を目標の国に侵攻させ、空からの爆撃と威圧によって相手の抵抗の意志を挫いていた。


 今俺たちがいる時間軸で言えば、それが4年後の話。


 時期的なことを考えれば、既に帝国では飛空船の開発が始まっていると考えた方がいい。


 ちなみにゲームでは、それらの飛空船は最終決戦の直前に空中要塞に集められ、主人公たちの乗った発掘飛空船『ディメンションセイル』の侵入を阻止しようとするが、失敗。


 最後は復活した邪神の咆哮によって制御を失い、バラバラと落下してゆく運命を辿っていた。


 が、それはそれ。

 すでにこの世界はゲームのシナリオから大きく外れた歴史を歩みつつある。


 主人公たちが乗っていた飛空船ディメンションセイルには攻撃用の兵装はなかったし、ユグナリアを『邪神』として復活させるのを許すつもりもない。


 つまり俺たちは、自前で帝国の飛空船と戦う『何か』を用意しなければならない訳だ。




「エリス嬢。封術で『ものを浮かせる』ことはできるんだろ?」


「そりゃあできるわよ。私が石弾ストーンバレットを使うの、見たことあるでしょ」


 俺の問いかけに、当然といった顔で頷くエリス。


「石を浮かせることができるなら、船だって浮かせられるだろうさ」


「うーん……」


 しばし考え込んだエリスは、やがて顔を上げた。


「確かに、ちょっと浮かせるだけなら不可能ではないと思うけど……。それを空高く上昇させ、操ることができるかどうか。仮にできたとしても、恐ろしく魔力消費の激しいものになると思うわ」


「消費魔力の問題は、俺にいくつかアイデアがある。姿勢制御や操船の問題についても相談に乗れる。帝国よりも良いものができるだろう。それに––––」


 俺はあらためてエリスを見据える。


「細かい話はこの際問題じゃない。問題は『やるかどうか』だ。できる可能性があるなら、挑戦するしかないだろ?」


 そう言って笑ってみせると、エリスは額に手をやり「まったく、貴方は……」と呟いて、俺を見た。


「––––帝国がやろうとしてるなら、『やる』わ」


「そうこなくちゃな」


 そう言って俺たちは、こぶしをつき合わせた。




 その時、客席から不機嫌そうな声が飛んできた。


「おい。俺を置いて話を進めるな」


 伯爵は胡散臭げな目で俺たちを見ると、その視線をエリスに固定した。


「エリスよ」


「なんでしょう、お父様」


「お前、儂に話してないことが色々とあるようだな」


「はい?」


 父の言葉に眉をひそめる娘。


「今のボルマンの話だが––––はっきり言って荒唐無稽だ。飛空船の話もそうだが、なぜこいつが『帝国の開発動向』を知っている? 俺が知る限り、こいつはそんな情報網は持っていないはずだ。なんせ、諜報をうちに頼ろうとするくらいだからな」


「……!」


 言葉に詰まる俺。


 伯爵はそんな俺をちらりと見ると、再びエリスに視線を戻した。


「だが、それ以上に不審なのは、ボルマンのその胡散臭い話をお前がなんの疑いもなく受け入れていることだ。かつてのお前であれば、不審点を事細かに確認していただろう。それが今はこやつが口にした『可能性』について、あたかもそれが事実であるかのように受け止めている」


「っ!」


 はっとして息を呑むエリス。


 そうして伯爵は、再び俺を見た。


「ボルマンよ。貴様は煙に巻いたつもりかもしれんが、前に俺に向かって口にした『帝国皇太子のクーデター計画』。––––あれはお前の立場や力では絶対に知り得ない情報だ。しかもそれが出まかせであったならともかく、調べれば調べるほど真実であると信じざるを得なくなった」


 はあ、と深い息を吐き、ぎろりとこちらを睨む海賊伯。


「さあ、説明しろ。ボルマン・エチゴール・ダルクバルト。貴様は一体何者なのだ?」



☆本年最後の更新となります。

以下の作品もよろしくお願い致します。


『やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!』


https://ncode.syosetu.com/n1409hu/


皆さま、良いお年を!

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― 新着の感想 ―
[一言] 手段が想像できれば対策も出来ますからね。 どんな対策を取るか、楽しみにしてます。
[一言] いいですね、フリード伯爵。自分の手札を把握し相手の力量や手札を集めた情報から推察してくる。切れ者の実力者ってやっぱこうでないとね。
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