第198話 ランプに映ったもの
店の中には、小洒落た洋服やインテリア家具、アクセサリーなどの小物がきれいに展示されていた。
ただ、普通の洋品店と違うのは----
「うわぁ……」
げっそりとした顔をするカレーナ。
まあ、彼女の気持ちは分かる。
展示されている鏡や額縁、瓶などに無数のビジョンが映し出されていたからだ。
「この中から、例の手紙に関する記憶を探し出さないといけないんだね」
「ああ。ただ多分、分かりやすいところにはあるんじゃないかな。隅とかじゃなくて、目につくところとか」
「なんで?」
首を傾げるカレーナに、思ったことを説明する。
「この意識の持ち主がどういう人物かは分からないが、わざわざ昔の住所から転送されてきた手紙を何度も取り扱ってるんだ。金か、政治的な指向か、何か強い動機がないとそんなことはしないだろう。そして強い動機があれば、おそらく本人の意識の中で印象的な出来事として『表』に出てくるはず。俺はこの意識の世界では、隠し事とかの方がかえって見つけやすいんじゃないかと思ってるんだ」
「なるほど。それで『目につくところにある』って考えたのか」
カレーナは納得した、というように頷いた。
「というわけで、とりあえず目につくところから確認していこう。手紙そのものじゃなくても、怪しげなものが映ってたら声をかけてくれ」
「りょーかい!」
「わかったけぷ!」
元気に返事を返す、カレーナと謎生物。
…………。
ひだりちゃんは、ちゃんとやることを理解してるんだろうか?
まじまじと彼女を見ると、くだんの謎生物は、
「おてがみさがすけぷ〜」
ご機嫌で歌いながらふよふよと浮き上がり、高いところのビジョンを見てまわり始めていた。
(一応、あとでダブルチェックしとこう)
そうして俺たちは、店の中に散らばったビジョンを一つひとつ確認しにかかったのだった。
☆
----しばらくして。
「ねえ、これじゃないかしら?」
手分けして確認作業をしていたカレーナが、手に持った手提げランプを見ながら、声をあげた。
「……どれ?」
すぐに彼女のところに行き、そのランプをのぞき込む。
ガラスでできたランプの曲面には、あるビジョンが映し出されていた。
※※※
どこかの家の玄関。
誰かの手が画面に映り、玄関の扉を開ける。
開けた扉の先には、商業ギルドの制服を着た若い男が立っていた。
挨拶をして、肩がけの鞄から封筒らしきものを取り出す職員。
彼は宛名書きを確認し、視界の持ち主に何事か問いかけると、頷いて郵便物を差し出してきた。
その封筒を受け取る手。
扉が閉められ、視界の持ち主は宛名に目を落とす。
––––そこでビジョンは冒頭に戻った。
※※※
「……当たりだな」
そう言ってランプのビジョンから視線を上げると、ランプを抱えていたカレーナと目があった。
「あんたもそう思う?」
「ああ。配達員がわざわざ宛先をあらためていたし、まず間違いないだろう」
俺は頷くと、考えながら言葉を続ける。
「問題はこのあとだな。手紙を受け取ったヤーマシは、どういう行動をとったのか……。たしかこのビジョンって、触れるとその記憶の中に入り込めるんだよな? ひだりちゃん」
俺はカレーナの意識の中での出来事を思い出し、ふよふよと傍らに漂ってきた謎生物に声をかけた。
「できるけぷよ!」
ぴょん、と飛び跳ねるひだりちゃん。
俺はさらに質問を続けた。
「例えば俺たちがこの記憶の中に入ったとして、危険があったり、この記憶の持ち主に気づかれたりすることはあるのか?」
「だいじょうぶけぷよー☆ きけんはないし、このひとがきづくこともないけぷ!」
またまたぴょんぴょん跳ねるひだりちゃん。
「なら、行くしかないな」
「そうだね」
目の前の金髪の少女と頷き合う。
「それじゃあ、まず俺が中に入る。問題がなさそうなら、カレーナとひだりちゃんも後に続いてくれ」
「分かった」
「わかったけぷよー」
カレーナが抱えていたランプを小さな丸テーブルの上に置いた。
俺は傍らの二人に目配せすると、ゆっくりとランプに映ったビジョンに手を伸ばす。
指先がビジョンに触れる。
その瞬間全身が引っ張られ、俺はランプの中に吸い込まれた。