第193話 ボルマンの思い、カレーナの想い①
☆前話投稿時に時間がなかったため、ボルマンの気持ちや言動についての考察・描写が足りないまま投稿してしまいました。
結果、ボルマンがどうしようもない鈍感クズ野郎に……(汗)
1/11の18時半頃に、前話後半の「☆」以下について、追記の上で修正しましたので、ぜひ目を通した上で本話をお楽しみ頂ければ幸いです。
今後とも本作をよろしくお願い致します。
☆
力いっぱい振るわれたカレーナの右手。
平手打ちされたショックで茫然として彼女を見返すと、彼女は両手で襟首をつかみ俺の顔を引き寄せた。
「ぐっ……」
たがいの息がかかる距離で、俺たちは見つめ合う。
彼女の瞳は怒り、そして潤んでいた。
「あんたにとって私は…………わたしは、ただの都合のいいパシリかよっ?!」
グイ、とさらにきつく締められる。
「ちっ、ちがっ! そんな––と……おもってなひっ」
「じゃあ、なんで私を追い出そうとするんだ!!」
お、追い出す?!
そんなっ、そんなつもりじゃ……
「私、辞めたいなんて言ってないよね?!」
……えっ?
「王都に帰りたいなんて言ってないよね?!」
「ぇえっ????」
「なのに、なんで勝手に辞めさせようとするんだよっ! わたしは、あんたの仲間じゃないのかよっ?!」
カレーナの両目から、光るものがポロポロとこぼれ落ちていた。
––––ずっとうしろめたさを感じていた。
カレーナを俺のところに拘束し続けることに。
王都の孤児院に彼女の弟がいることは聞いていたし、その弟と共同ギルド支部を通じて手紙のやりとりをしていることも知っていた。
だから俺は『彼女は早く弟のところへ帰りたいのだ』と。そう思っていた。
せめて休暇と旅費を与えて、弟の様子を見に行く機会をつくってやりたいとも思ったが、自分のことでいっぱいいっぱいでそれも叶わず。
そうやって俺は彼女の弱みにつけ込み、俺の都合で彼女を散々危ない目に合わせてきたのだ。
人でなし以外の何者でもない。
だからかもしれない。
このタイミングで、あんな言葉が出たのは。
カレーナの気持ちも確かめず。
独善的なセリフを吐いてしまったのは。
「……ぅっ……くっ…………」
俺の襟首を握ったまま顔を伏せ、嗚咽するカレーナ。
胸が締め付けられる。
だが、彼女を傷つけたのは、俺だ。
俺はクソ野郎だ。
気丈なカレーナを、こんなにまで深く傷つけてしまうなんて。
(……くそっ)
どうしたらいい?
今何を言っても、さらに傷つけてしまう気がする。
「ごめん」とか「話を聞いてくれ」なんて言葉が、彼女に届くとは思えない。
言ってしまった言葉は、元に戻すことはできない。
そうしてカレーナが泣き、俺が途方に暮れていたときだった。
「まったく、ボルマンはしかたないけぷねー」
頭上から、その場の雰囲気にそぐわない呆れたような声が聞こえてきた。
そいつはふよふよと俺の目の前まで降りてくると、例の腕を伸ばし、ぴとっ、と俺とカレーナの頭に触れる。
「?!」
びくっ、と震えるカレーナ。
「おい、お前何する……」
俺が問おうとした瞬間、ひだりちゃんの体が青い光を放った。
「けぷー!!」
その瞬間、意識が何かに引っ張られた。
☆
そこは奇妙な空間だった。
暗いのに、明るい。
寒いのに、暖かい。
そんな空間。
俺はそこを漂っていた。
見回せば、様々なビジョンが宙に浮かんでいる。
そして風のように渦を巻く、様々な感情。
その空間には無数の感情と記憶が満ちていた。
悲しみがあった。
––––そして、孤独と恐怖。
それがカレーナの心の中だと気づいたのは、一際大きなビジョンに色んな『俺』の顔が映り、感情の嵐が吹き荒れていたからだ。
壊れたビデオのように繰り返し流れているのは、先程の俺の言葉。
「今までありがとう」
流れるたびに渦巻く、悲しみの感情。
信頼していた仲間に見捨てられる悲しみと、居場所がなくなる恐怖。
その一言が、どれだけ彼女にショックを与えたか。
どれだけ残酷な言葉だったのか。
自分の放った無神経な言葉の嵐に、俺は目を瞑り、耳を塞いでうずくまる。
その瞬間、足元にあった見えない床が抜けた。