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第159話 フリード領軍との合流

 

 向こうから小走りでやって来る、騎士ケイマン。


 俺は彼に対応するため馬を降りた。

 同時に仲間たちも下馬し、エリスが俺の横に立つ。


 先に口を開いたのは、イケメン騎士だった。


「ボルマン様、エリスお嬢様! ご無事なようで何よりです!」


「ケイマン殿こそ、道中問題はありませんでしたか?」


「ええ、おかげさまで我々も特に問題なくこちらまで移動できました。クリストフ殿と貴領の兵士たちは、テナ村の人々の帰還を見届けてからこちらに戻られるそうですよ」


 爽やかな笑顔でそう報告するイケメン騎士。

 こいつ、いいやつだよな。


「そうですか。大事がなくてよかったです」


 思わず笑みがこぼれる。

 どうやらテナ村の皆の帰還も問題なさそうだ。

 ちょっとほっとした。


 本当は俺自身も彼らの顔を見たかったが、残念ながら今回はオフェル村の視察を優先せざるを得なかった。

 まあ、クリストフたちならうまくやってくれているだろう。


 どうせまたすぐ遺跡に向かわなければならない。

 その時に村の皆を労ってやろう。


 そんなことを考えていると、向こうからもう一人、騎士がこちらにやって来るのが見えた。




 その見覚えのある無精ヒゲの中年騎士は、俺たちの側までやって来るといきなり片膝をつき、こうべを垂れた。


「ボルマン様。大事な時に間に合わず、大変申し訳ない。友領の窮地に遅れておめおめ顔を出すなど、このガラルド、一生の不覚!!」


 腹から絞り出すような謝罪の言葉。

 俺は慌てて彼に声をかけた。


「いやいや、お立ち下さいガラルド殿。魔物が森を出て村を襲うなど、我々も想定外でした。野戦となったため我が領とケイマン殿の兵で対処できましたが、森の中で掃討戦を行うならば卿が率いる歩兵は不可欠。それに今回フリード伯がこれだけの兵力を我が領に派遣して下さったことで、ペントの住民も安心したことでしょう。皆さんの来援は、軍事的にも、政治的にも、決してムダではありませんよ」


「かたじけない!」


 再び顔を伏せる中年騎士。


「まあまあ、お立ち下さい。フリード領軍を率いるあなたに膝をつかれると、私もお話しし辛いです」


 そう声をかけると、ダルクバルト派遣軍の司令官ガラルドは、やっと腰をあげた。


 顔や腕などあちこちに古い刀傷の痕があるガラルドは、なかなかの偉丈夫である。

 彼とは先日フリード領の領都フリーデンに赴いた際に、伯爵の紹介で一度挨拶をしている。

 フリード領の騎士だけあって、ケイマンと同じく一本芯が通った男、というのが俺の評価だ。




 エリスとケイマンが分かれてからこれまでの出来事を互いに話し始める横で、俺はガラルドに今後のことについて話を切り出した。


「ガラルド殿、この様子ですと出発は明日の朝ですか?」


 俺の問いに頷く無精ヒゲの騎士。


「はい。我々は昼前にこちらに到着しましたが、まだ貴領の主力は戻られていないようですし、ケイマンの兵も休ませたいところです。なので、今日はこちらで一泊させて頂こうと思っとります」


 なるほど。


 正直、派遣費用のことを考えれば、なるべく早くお帰り頂いた方がありがたい。


 だが彼が言うように、うちの主力であるクリストフたちはまだ戻ってないし、昨日からケイマンたちフリード領軍先遣隊に負担をかけ続けているのも事実。


 ここで一泊頂いた方が、お互いのためだろう。


 そういえば……


「皆さんはこちらで野営されるようですが、夕食はどうされるんです?」


 俺の問いに、ガラルドは兵士たちが設営しているテントの一角を指差した。

 そこには二台の荷馬車が置かれ、数人の兵が荷下ろし作業をしている。


「輜重隊を連れて来とりますので、食材を配給して各分隊ごとに用意させます」


「そうですか……」


 淡々と荷下ろしと荷ほどき作業を続ける兵士たち。


 本来なら四日かかる道のりを二日半で踏破し、何もせず帰らなければならない彼ら。

 せめて一戦でもしていれば充実感もあっただろうに。

 彼らはただただここまで強行軍でやって来て、明日からまた三〜四日かけて歩いて自領に帰るのだ。


「…………」


 馬車から下ろされ、解かれた荷物から姿を現したのは、干し肉と硬そうなパン、そして幾ばくかの野菜。

 スープにするのか、焼いて食べるのか。

 見る限り、食事も大したものではなさそうだ。


(依頼した側とはいえ、これはあまりにも気の毒だな)


 俺はその様子を見て、ガラルドにある申し出をすることを決める。


「ガラルド殿。ものはご相談なのですが……」




 ☆




 その日の夕暮れ時。


 屋敷に戻った俺たちは、各自休憩の後に再集合し、二台の馬車に分乗して街の中を走っていた。


「エステル、少しでも休めたかな?」


 隣に座った婚約者に尋ねると、彼女は優しい笑顔を俺に向けた。


「はい。着替えたあと少し横になって、ちゃんとリフレッシュできました。ボルマンさまはお休みできましたか?」


「そうだなあ……。父親に今回の件を報告したり色々してたけど、十分くらいはソファで寝られたから、まあまあ回復したよ」


「まあっ。ほとんど休まれていないじゃないですか!」


 心配そうに声をあげるエステル。

 彼女は少し思案すると、


「ちょっと、失礼しますね」


 そう言って俺の手をとり、そのまま神祀りの詠唱を始めた。


 彼女の両手から、温かいものがじんわりと俺に流れ込む。それは俺の体の中を巡り、また彼女に戻ってゆく。


 どれほどの時間そうしていただろうか。

 互いの手が離れると同時に、二人そろって「はあ……」とため息をついた。


「ありがとう。なんだか体がポカポカして、疲れが消えたよ」


 エステルにそう言って感謝すると、彼女はにこりと微笑んだ。


「よかった……。少しでもあなたの役に立てて、よかったです」


 可愛い。

 尊死する。




 そうして二人で甘々の世界を作っていると、向かいに座ったエリスが『もう見てらんない』とばかりに口を開いた。


「ねえ、ボルマン。そろそろ教えて。私たちどこに向かってるの? 夕食もとってないのよ??」


 そういえば、まだ皆には何も説明してなかったな。

 まあ、たまには見てのお楽しみというのもいいだろうよ。


「夕食は現地で食べよう。どこに行くかは、着いてのお楽しみだ」


「またあなたはそうやって、いきなり突飛なことを始める……」


 不満げに口を尖らせるエリス。

 俺は、窓の外を見た。


「ああ、ほら。もう到着するぞ」


 馬車は、領都ペントの北門を抜けようとしていた。




 ☆




「ねえちょっと、何これ?」


 馬車から降りたエリスは、目を丸くしていた。


「すごい……!」


 隣で目を輝かせるエステル。


 後続の馬車から降りてやって来たカレーナが、ボソッと呟いた。


「お祭り?」


 カレーナ、ほぼ正解。


 ペント北門の外には、ダルクバルトとフリード両軍の兵士が集まり、ちょっとしたお祭りのようになっていた。


「新鮮なイチゴはどうだい! オレンジもあるよーー!!」


「エールは一杯3セルー、ウイスキーは5セルーだ!」


「ダルクバルト産のワインの試飲はいかが? お持ち帰りできるよう瓶もありますよーー」


「はいはい、パンはあっち。串焼きはこっち。シチューが欲しい人はそっちの列に並んでくれ! これは我が領の跡継ぎ、ボルマン様のおごりだよ!!」


 テントの前に立ち並ぶ屋台。

 そこに並ぶ兵士たち。


 俺がペントの商業ギルドをはじめ、宿屋の女将たちに声がけして出店してもらったのだ。

 尚、一部のメシは俺が自腹を切り、無料で提供している。


「よっしゃ! メシだぜ、メシぃっ!!」


 ジャイルズはスタニエフを連れて、列に向かって突進していく。


「おおっ、ボルマン様!!」


 後ろから声をかけられ振り向くと、フリード軍の司令官ガラルドが、ケイマンを連れてこちらにやって来た。



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― 新着の感想 ―
[一言] 戦いに勝ったら宴会。 良いことですね。
[一言] 派遣された兵卒に対する慰撫であると同時に地場物産の宣伝。 ボルマン様なかなか遣り手の領主ロールしてますね。
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