表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/249

第158話 情報戦の布石

 

 誘拐事件を振り返ってみる。


 エステルを攫いカエデを脅したラムズたちは、テナ村南の森一帯に封術結界を張った。


 この時点で、遺跡に入ったのは、四人と二体。

 その後、結界を破った俺たち五人が侵入した。


 では、ラムズはなぜあれだけ強力で広範囲な結界を張ったのか?


 もちろん遺跡探索を邪魔されないためだろう。

 が、もし奴らに仲間がいれば、あんなことをしただろうか?


 仮に仲間がいたとすれば、そいつらを遺跡入口付近に潜ませ、侵入者があれば都度潰せばいい話だ。

 陽動としてオフェル村を狂化ゴブリンに襲わせてる訳だから、大きな戦力が来ることはない。


 封術結界は、かなり目立つ。『中で何かが起こっている』ことを大々的に宣伝するようなものだ。おまけに仕掛けも大掛かり。

 それらのデメリットを考慮してもあれを使ったということは、他に仲間がいなかった可能性が高い。


 そもそも仲間がいれば、俺たちの遺跡侵入を黙って見ていることはしないだろう。

 オフェル村を襲撃させた狂化ゴブリンにしても、他に人がいたならもう少し上手く使ったはずだ。


 以上の理由から、『今回の事件に関して実動したのは、ラムズとジクサーの二人だけだった』と推測できる。




「なあ、スタニエフ。なぜラムズとジクサーは『このタイミングで』エステルを誘拐したと思う?」


「え、僕ですか?!」


 突然話を振られた賢い方の子分は、ぎょっとして慌てて考え込む。


「…………領主様がダルクバルトを留守にしていたから、でしょうか」


「その心は?」


「領主様の護衛のために、一時的にペント駐在の兵士が減っていました。警備が手薄になっていると考えたのでは?」


 なるほど。

 さすがスタニエフ。良い着眼点だ。


「たしかにあの時、5名の兵士が父の護衛に出ていたな。お前が言うように、警備が手薄になっていたという理由もあるだろう。––––ジャイルズはどう思う?」


「え、今度はオレ?!」


 先ほどのスタニエフと同じような反応をするジャイルズ。


「うーん、うーん……」


 あまりこういう質問をしたことがなかったからだらうか。

 脳筋の方の子分は、しばらく頭をひねっていたが––––、


「わかんねえーー」


 そう言って、魂が抜けたようになってしまった。




「思うに、あのタイミングで連中が動かざるを得なかったのは、狂化ゴブリンの集落を俺たちに発見されたからじゃないだろうか」


 俺の言葉に、エリスが反応する。


「今回のあいつらの動きは、帝国にとっても想定外だったということ?」


「ああ。一概に比較はできないだろうが、ゲーム『ユグトリア・ノーツ』では、ティナを攫い遺跡を探索するために、二つの村を滅ぼしていた。現実のオフェル村の襲撃が中途半端だったことを考えても、準備不足のままラムズの独断で動いた可能性が高い」


 俺は続けて、ラムズとジクサーに仲間がいなかったと思われる理由を説明した。


 封術結界のこと。

 俺たちが誰にも妨害されず、遺跡に入ることができたこと。


 その上で、こう結論づけた。


「皆が知ってる通り、ダルクバルトは辺境の小領だ。外部の人間が入り込めばすぐに分かる。おそらく今現在、領内に帝国の間者はいないはずだ」


「つまり『真実を知っているのは私たちだけ』ということね?」


 エリスが俺が言いたいことをまとめてくれる。


「そうだ。そして俺たちはこの情報のギャップを利用して、帝国に情報戦を仕掛ける」




「情報のギャップ? 情報戦???」


 カレーナが首を傾げる。


「遺跡の中での出来事を『僕たちは知っているけど、帝国は知らない』ということを利用して、帝国に偽情報を流して混乱させる、ということですよ」


 カレーナの隣に座ったスタニエフが、彼女をフォローした。


「そう、その通り。帝国が入手できる情報は、すでに兵士たちが知っている『遺跡の入口が開き、俺たちが人質を連れて戻ってきた』というところまでだ。そこで––––」


 俺はカエデの方を見た。


「ティナのペンダントを遺跡の奥に隠し、祭壇の間と水天の間の扉を再封印する。公には、入口のみ開いたことにしておくんだ。なんならそこまでは観光地として開放してもいい」


「……分かりました」


 複雑な表情で頷くカエデ。

 やはりユグナリアの聖地の観光地化は抵抗があるんだろうか?

 その件はあとで話し合ってみよう。


 それはともかく––––


「実は今、話しながら思いついたことがあるんだが」


 俺の言葉に、正面のエリスが眉をひそめた。


「…………また、突飛なことじゃないでしょうね?」


 露骨に嫌そうな顔をする天災少女。

 ––––そんな顔しなくても。


「っていうか、突飛ってなんだ、突飛って?!」


「貴方がそうやって薄笑いしながら話をする時って、大概、突飛でロクでもないことが多いのよ」


「ひ、ひどい……」


 軽くショックを受けて、エステルの方を見る。


 一瞬きょとんとした彼女は、次の瞬間、にこりと俺に微笑んだ。


「わたしは、ボルマンさまを信じてますから」


 エステル天使。

 マジ天使。


 その微笑に、俺のSAN値が急回復する。

 俺は、ごほん、と咳払いをして皆を見回した。


「帝国に流す情報だが…………どうせ偽情報を流すなら、『カエデとエステルが遺跡の中で置き去りにされ、ラムズとジクサーは雲隠れした』ことにしてもいいかな、と思っただけだ」


 俺の言葉に、皆があっけにとられるのが分かった。



 ☆



 オフェル村での昼食後。

 俺たちは領都ペントに向けて出発した。


 とばせば半刻ほどで着く道のりだが、食後ということもあり、ややゆっくりめのペースで馬を歩かせる。


 食後の散歩としてちょうどいい運動になった。



 ☆



 一刻後。


 ペントの街の北門に近づくにつれ、わさわさと動く兵士たちの姿が見えてきた。

 どうやらテントの設営をしているらしい。


 翻っているのは、フリード領軍の旗。

 ケイマン率いる騎馬小隊に遅れること一日。

 本来の主力、歩兵の一個中隊だろう。


「おお、ボルマン様! エリスお嬢様!!」


 真っ先に俺たちに気づいて出迎えてくれたのは、今日の朝、テナ村で別れた騎士ケイマンだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

《『やり直し公女の魔導革命』のご案内》
↓書籍3巻へ html>
html>
↑書籍1巻へ
↓書籍2巻へ html>
《コミカライズ版》
html>
↑コミカライズ最新話へ
↓コミカライズ話売りへ(ピッコマ) html>
↓コミックスへ html>
― 新着の感想 ―
[一言] ラムズとジクサーに対する深刻な風評被害!
[一言] 情報戦を仕掛けるならあえて二人組がボルマン達のパーティに倒されてエステルたちを無事救出した、という話も「一緒に」広げてもいいかもですね リトルオークが「子供だけで」あの二人を討ち倒して英雄的…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ