第137話 ひみつのでぐち
☆あとがきにて、ご報告とお誘いがあります。
ご興味のない方はスルーして下さい。
珍しい光景だった。
あの何事にも動じないカエデが、目を見開き、茫然と立ち尽くしている。
そんな彼女に、驚きの原因となった謎生物は、ぴょんぴょんと空中で飛び跳ね能天気にこう言った。
「カエデー、ぐあいはよくなったけぷかーー?」
ぴょん、ぴょんっ
実にシュールな図だ。
「……って、ちょっと待て」
「なにけぷ?」
能天気な顔で振り返る謎生物。
「ひだりちゃんは、カエデのことを知ってるのか?」
たしか、ひだりちゃんの封印が解かれたのは、カエデがやられた後だ。
二人が会話する機会はなかったはず。
なのに、なんでこいつはカエデのことを知ってるんだ???
俺の疑問にひだりちゃんは––––
「しってるけぷよー」
あっさり答えおった。
それどころか、こいつは大変なことを口走りやがりました。
「エステルもー、ボルマンもー、ジャイルズもー、スタニエフもー、カレーナもー、エリスもー、みーんなしってるけぷ!」
そう言って最後に、俺の顔の前まで近寄ってこう言った。
「もちろんだいすけのことも、しってるけぷよー♪」
一瞬、時が止まった気がした。
だいすけ……川流大介。
ずっと。
この世界に来てずっと。
誰からも呼ばれることのなかった『俺』の名前。
幼い頃に亡くなった母親がつけてくれた、大切な名前。
なぜ今まで思い出しもしなかったんだろう?
いつのまにかボルマンとして生きるのが、当たり前になっていた。
どくん、と心臓が強く脈打った。
「ボルマン、さま……?」
エステルが呼ぶ声。
彼女を振り返る。
「……!」
俺の顔を見たエステルは一瞬驚いたように目を見開くと、手を伸ばし、俺の頬を指で拭った。
「悲しいことを、思い出されたのですか?」
気遣わしげに尋ねるエステル。
その声で、やっと自分が涙を流していたことに気づいた。
俺は首を振る。
「大切なものを忘れていたことに気づいて、ちょっと驚いたんだ。……ごめん。もう大丈夫」
微笑んだ俺に、エステルは「そうですか」と応え、小さく頷いた。
俺はひだりちゃんに向き直った。
「さて、ひだりちゃん。なんで君は––––」
「ユグナリア様っ!」
目の前の謎生物を問い詰めようと声をあげた俺を、後ろから他の声が遮った。
声の主は、杖代わりの薙刀を支えにしながら俺に……いや、ひだりちゃんに近づくと、再びその名を口にした。
「ひょっとして、あなた様はユグナリア様ではありませんか?」
それは驚きか、興奮か。
普段は細い目を大きく目を見開き、まっすぐ謎生物を見据え問いかけるカエデ。
が、当のひだりちゃんは、ぴょん、ぴょん、と飛び跳ねてこう返した。
「ちがうけぷよー。それはママのおなまえけぷよー☆」
最後に楽しそうに、ぴょん、と跳ねる謎生物。
その言葉に俺たちは、
「「な、なんだって(なんですって)ーー?!」」
思わず叫んだ。
ユグナリア。
カエデやエステルの神祀りの句に高頻度で出てくる大精霊の名前。
ひだりちゃんが言うには、ユグナリアは『ひだりちゃんのママ』らしい。
そこまで聞いて色々と思い当たることもあったのだが、俺もそろそろ気力の限界に達しつつあった。
「なあ、ひだりちゃん」
「なにけぷ?」
首をかしげるひだりちゃん。
「俺たちは家に––––地上に戻るけど、ひだりちゃんはどうする?」
「もちろんボルマンといっしょにいくけぷよ!」
えっ? という顔をする仲間たち。
「もちろんって……。いいのか?」
「とうぜんけぷ! ママから『おきたらみんなといっしょにいきなさい』っていわれてるけぷ」
「そ、そうか……」
大精霊サマはそんなことを仰いましたか。
後でちゃんと検証しなきゃいけないな。
––––だけどまあ、今は先にやることがある。
俺は皆を振り返った。
「さあ、うちへ帰ろう」
仲間たちから「おーっ!」と明るい返事が返ってきた。
「ああ、そっちじゃないんだ」
入口の扉に向かおうとする仲間たちを、俺は慌てて呼び止めた。
「「え???」」
振り返り、首をかしげる仲間たち。
そんな中エリスは、
「––––隠し通路か何かがあるのね? おそらく一方通行の」
もう驚かない、とでも言うような生温かい視線を俺にぶつけてきた。
「ご明察」
「さすがに慣れたわ」
彼女は呆れたように首をすくめた。
俺は祭壇の上に上がり、ひだりちゃんが封印されていた棺のような箱の裏側にまわった。
ぞろぞろと後ろに続く仲間たち。
箱の裏側にある、この部屋の一番奥にある白い壁。
小さな滝のように上の方から水が流れ落ち、さらさらと心地よい水音を奏でているその壁が、秘密の出口のはず。
––––ゲームと同じ構造なら、ね。
さて。
ゲームには「調べる」ってコマンドのボタンがあったけど、現実はどうだろう?
俺は流れる水に、顔を近づけた。
「…………」
よく分からん。
仕方ないので、触って調べるべく壁に手を伸ばす。
冷たい水が、腕を濡らした。
「……!」
それは不思議な感覚だった。
壁があるはずの場所を、腕が抵抗なく通り抜ける。
俺の腕は手首から先が壁にめり込んでいるように見えた。
「ボルマンさま、それは……?」
隣のエステルが驚きの声をあげる。
「多分、ここが出口の入口だね」
そう言って俺は、壁に向けて片足を踏み出した。
《読者の皆さまへ・本作の書籍続刊について》
いつもご愛読頂きありがとうございます。
二八乃端月です。
本作の書籍続刊の件でご報告です!
皆さまの非常に強力な応援のおかげで、本作はカクヨムにて総合月間1位、年間20位、累計63位にまで到達することができました。
この実績をもって先日、約2年半ぶりに担当編集様にメールで連絡を取りましたところ、書籍化初期にお世話になった前担当者様からお返事を頂きました。
「カクヨムでの実績は素晴らしく、続刊の可能性について、編集長、営業の三人で相談する」ということでした。
その後すぐに打合せ頂き、早速翌日お電話がありました。
〈結論〉
・このまま1巻の売上が伸びれば、推せる。
今回、これまでの売上数を初めて教えて頂いたのですが「続刊できなかったのも、まあ仕方ないかな」という数字でした。大判なら辛うじて続刊できるけれど、文庫では無理。はっきり言えば、初版の半分以上が倉庫に眠っている状態です。
では、ここからどれくらい売れれば良いのか?
本作には現在、「なろう」、「カクヨム」合わせて約3万人の読者がいらっしゃいます。
この内、5人に1人の方が一冊ずつ買って下されば、間違いなく2巻が出せます。
※紙・電子問わず。
以上がご報告となります。
☆ここからは、私から皆さまへのお誘いです。
一緒に本作の未来を作りませんか?
というか、本作のコミカライズ、見てみたくないですか?
今回のカクヨムでの実績を機会に1巻で重版がかかれば、コミカライズも視野に入るでしょう。
せっかく皆さんと掴んだチャンスです。いけるところまで行きたいです。ボルマンとエステルが紙の中で動いている姿を見てみたいです。
続刊の可否に関わらず、本作の連載は続けます。
ただ、もし本作の未来を一緒に作って頂けるのであれば、電子書籍でも紙でも構いません。ぜひ1冊お買い上げ下さい。
※税込704円ですので、大判に比べるとお求めやすいと思います。店頭にはまず置いてませんので、紙をお求めの場合は各社通販をご利用下さい。
ちなみに私は妻に頭を下げて紙10冊買いました。
(^_^;)←アホ
近くの学校と図書館に寄付します。
お誘いは以上となります。
それでは引き続き本作をよろしくお願い致します。