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第136話 封印されし……剣?

 

 それは幻想的な光景だった。


 エステルの神祀りの句によって薙刀の穂先が輝き、それに共鳴するように、神殿全体が青く、温かい光に満たされてゆく。

 まるでこれが「この神殿の本来の姿」とでも言うかのように。


 同様に、俺が握っている長剣も全体が青く光り始めていた。元々この神殿に祀られていた訳だし、やはり何か関係があるのだろう。


 祭壇の間に溢れた青い光は、ラムズから噴き出していた金色の粒子を包み込み、白い光の粒子に変換してゆく。

 直感的に、それが『浄化』なのだと理解した。


 段々と勢いを無くしてゆく、金の粒子。


「あれは……あの不吉な金色の粉は、なんなのでしょう?」


 隣に立ち、薙刀を構え続けるエステルが呟いた。

 俺はその問いに、すぐには答えられない。


「……分からない。だけど少なくとも、良くないものであることは間違いない、かな」


 アレは俺たちから生命力を吸い取り、ラムズを回復していた。

 エステルの薙刀で弱体化させていなければ、たぶん今頃はあの化け物の胃袋の中だっただろう。




 ☆




 しばらくして。

 不吉な金色の粒子は、完全に消え去っていた。

 同時に、神殿とカエデの薙刀の発光も収まってゆく。


 きっとこれで、この件は本当に終わりだろう。

 そんなことを思ったときだった。


 俺が握っている剣が、この神殿に封印されていた長剣が、ガタガタと震え始めた。


「え?!」


 思わず腕を伸ばし、剣を凝視する。


 剣身に刻まれた文字が、虹色に明滅していた。

 剣の震えは、段々と大きくなってゆく。

 そして––––


「っ!!!!」


 パァッ、と広がる眩い光。

 同時に、手の中に感じていた剣の感触がなくなる。


 俺の手を抜け出した光の塊は、そのまま空中に浮かび上がり、虹色に輝きながら新たな形を得ようとしていた。


「なんだこれ???」


「何が起こってるんです?」


 驚くジャイルズとスタニエフ。

 そこに後ろからやってきたエリスが加わった。


「危険なものじゃないでしょうね?」


「一応、用心しとく」


 いつのまにか短剣を回収してきたカレーナが、刃を構える。


「悪い気配は、しないのですが……」


 エステルが首を傾げた時だった。


『けぷーーーー!!』


 虹色の粉が舞い、妙な叫び声とともに『それ』が姿を現した。


「……なっ」


 その姿に、絶句する。

 空中を漂う、こぶし大の半透明の『それ』。


 これは––––


「タコ?」


 俺の言葉に『それ』は即座に反応した。


「ひだりちゃんはタコじゃないけぷーー!!!!」


 タコ(?)が怒った。




「だから、ひだりちゃんは『ひだりちゃん』けぷ。タコじゃないけぷ! ぷん、ぷん!!」


 透明な足のないタコのような、くらげのようなその生き物は、宙を漂いながら怒っていた。


 これ、どうしよう?


「ええと……、ひだりちゃん?」


「……なにけぷ?」


 ジト目で俺を見返す、ひだりちゃん。


「ひだりちゃんは、剣の精霊か何かなのか?」


「ちがうけぷ。ひだりちゃんはひだりちゃんけぷ」


「そっか。ひだりちゃんか」


「そうけぷ」


 なぜかドヤ顔のひだりちゃん。


 ––––あかん。

 話が通じん。


 俺は仲間を振り返り、応援を求めた。


「いっ––––」


 初っ端から逃げ腰のジャイルズ。


「じ、人外はちょっと…………」


 珍しく目を合わせず、宙に視線を彷徨わせるエリス。


「あの、カエデの様子を見にいっても構いませんか?」


 エステルは、先ほどから入口近くに横たえられているカエデをちらちらと気にしていた。


「いいよ。行ってあげて」


「はいっ!」


 たったったっ、と駆けてゆくエステル。

 俺の婚約者フィアンセは優しいなあ。


「って、あれ? カレーナは???」


 気がつけば、先ほどまで俺の斜め向かいにいたはずの金髪の少女の姿がない。


「…………」


 くそっ。

 隠密LV7め……!(※)

  ※後で確認したら、Lv8になってた。


 ここはあれだ。

 未来の商会長に任せるしか––––!!


「わ、分かりました。では、僕が質問してみましょう!」


 オネリー商会の商会長(予定)は、意を決したようにこぶしを握った。




 ––––十分後。


「す、すみません。僕はここまでのようです……」


 床に _| ̄|○ のポーズでひざを着くスタニエフがいた。


「いや、お前はよく頑張ったよ!」


 傍らに膝をつき、心が折れた子分を慰める。


 ……つらい。辛すぎる。

 側で聞いてるだけで辛くなってくるやりとりだった。


 何というか、会話自体はなんとか成立するのだ。

 だけど肝心の内容が、薄い。



 Q.ひだりちゃんはどこから来たの?

 A.ひだりちゃんはここにいるけぷよ!


 Q.ひだりちゃん、パパとママは?

 A.ママはねてるけぷねー。パパってなにけぷ?


 Q.ひだりちゃんのママはどんな人?

 A.ママはやさしいけど、おこるとこわいけぷねー。(ぷるぷるぷる)


(以下略)



 こんな感じだ。

 まるで3〜4歳児と話しているようで、要領を得ない。


 それでもスタニエフが粘りに粘って、次のことが分かった。


 ・ひだりちゃんのママは、ずっと昔にひだりちゃんを生み出した。

 ・剣は、ひだりちゃんの仮の姿である。

 ・ひだりちゃんは自由に剣の姿になれる。

 ・先ほど『起こされる』まで寝ていた。

 ・寝ている間は動かなかったが、色んな場所を『見て』いた。


 うん。

 さっぱり分からん。


 エリスなんて、途中でギブしてカレーナと封術談義始めやがったし。っていうか、カレーナもスタニエフに役目押しつけたら、しれっと出てきやがった。


 なんて頼りがいのある仲間たちだ!(嫌味)


「これ、どうしたらいいんだろうな?」


「ひだりちゃんは『これ』じゃないけぷ! ぷん、ぷん!!」


 思わず漏らした愚痴に、ぷりぷり怒るひだりちゃん。いやまあ、小動物的な可愛さはあるけどさ。


 この遺跡から連れ出していいものか、どうなのか。

 ただ、放っておけば再び帝国の手が伸びるだろう。


 なんせ連中の目的は、邪神ユーグナ復活のための『鍵』の奪取。つまり、このひだりちゃんという謎生物の捕獲が目的だった訳だから。


 であれば、他の奴に分からないように俺の手元に置いておいた方が……。いやでも、そうなれば、直接うちの屋敷が襲撃される可能性もある訳か。


「うーん……」


 参った。

 いい加減疲れて、頭もまわらん。


 途方にくれる男三人。


 その時、後ろから聞き慣れた女性の声が聞こえた。


「あの、その方は……?」


 声の方を振り返ると、エステルに付き添われたカエデが、薙刀を杖代わりにして立っていた。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここでもナビゲーションAI? [一言] なんかこんな奴いた気がする…… (今更だけど実はあれ、改稿前のほうが好きだった(小声))
[一言] おっとひだりちゃん来ちゃったよ。 コレどう繋がるんだろう。
[一言] LV8かぁ・・・・ 浮気できませんねw(違
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