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第126話 激突

 

 その瞬間、閉じたまぶたの向こうが白く染まった。


 ドンッ!!


 頭上で響く爆音。

 音の衝撃が耳を塞いだ両手を貫通し、脳を揺さぶる。


「っっ!!」


 キーンと、激しい耳鳴りが襲う。


(くそ、効き過ぎだ!)


 心の中で毒づく。


 俺のオーダーで天災少女が創り出した封術『閃光音響破裂弾スタン・グレネード』。

 参考にしたのは、各国の特殊部隊が家屋への突入時に使用する閃光音響手榴弾だ。


 破壊力が抑えられたその手榴弾は、瞬間的に強烈な閃光と爆音を生じさせ、犯人の視力と聴力を奪い無力化する。

 被害を最小限にしながら人質を救出するためのマストアイテムと言っていい。


 エリスの封術は意図した通りの……いや、意図した以上の威力を発揮し、仲間おれたちの感覚器官にまで少なくない影響を及ぼしていた。


「くっ……」


 だがこれはエリスが作ってくれた貴重なチャンスだ。

 ここで足を止めたら、それこそ意味がない。


 目を開ける。

 床に転がる自分の剣。

 その剣に手を伸ばし、掴む。

 片膝をついた前傾姿勢。そこから膝のバネを使い、勢いよく前に飛び出した。


 顔を上げる。


 目前には背を向け立ち尽くす二体の狂化ゴブリン。

 その向こうに、片手で耳を押さえ目をしばたかせる帝国の剣士がいた。

 しゃがみこんだエステル。

 祭壇のラムズも、祀られていた剣を床に投げ捨て顔を押さえて悶絶している。


 まごう事なきチャンス。

 俺は一気にゴブリンの間を駆け抜ける。


 そしてそのまま、敵の剣士ジクサーとの間合いを詰め、加速した勢いを乗せて――――


(『落月斬』!!)


 頭を狙って剣を振り下ろした。




 ーー違和感。


 いつもなら切っ先が青く光るはずなのに。

 切っ先に変化はなく、剣速も乗り切らない。


「?!」


 ()()()


 今まで頻繁に発動していた――遺跡に潜ってからは剣を振るうたびに発動していた『戦士の祝福(クリティカル)』が、発動しない???


 戸惑いながら力任せに剣を振る。

 そのときジクサーが動いた。


 キンッ


 音を立てて滑る剣の感触。


「っ!!」


 流されるまま剣を振り切り、体勢を立て直そうとした俺は、慌てて床に転がった。


 ブンッ


 体すれすれを掠めるジクサーの剣。

 乱暴に振るわれたその剣は、紙一重で俺の上を通り過ぎる。

 が、当然それで終わるはずがない。


 ブンッ

 ブンッ!

 キンッ!!


 片目をつぶり、斬りかかってくるジクサー。

 それを夢中で躱し、受け流す。


(こいつ、右目が見えてる!?)


 エリスの封術(スタングレネード)が炸裂した瞬間、とっさに片目を瞑って庇ったのか。

 俺が辛うじて奴の剣を躱せているのは、隻眼で向こうの遠近感が狂ってるからだ。


「くっ!!」


 バックステップを踏むと、目と鼻の先を鋭い切っ先が通り過ぎた。


 くそっ!

 このままじゃ防戦一方だ。


 両耳と左目が潰れたジクサー。

 それだけハンデがあっても、こっちは全く攻勢に出られない。


(一体どれだけレベル差があるんだよ?!)


 必死で剣を振るい、相手の剣を躱し、受け流す。

 だけどそれも長くは続かない。


「終わりだ」


 ボソリと呟く帝国の剣士。

 ついに敵の剣が、直撃コースで俺に振り下ろされる。


(躱しきれない!!??)


 後ろに跳びながら体を逸らした瞬間、右半身をドン、という衝撃が襲った。




 ガキンッ!


 金属が激しくぶつかる音。


 再び床に転がった俺は、小柄なメガネの少年が両手で円形の盾を構え、倍はありそうな剣士に立ち向かっているのを見た。


「スタニエフ!!」


「はっ、ははっっ……一撃受けただけで腕が痺れるんですが」


 引き攣った顔で盾を構えるスタニエフ。

 向き合うジクサーは、不機嫌そうに剣を構え直す。


「……煩わしい。その盾ごと潰してやろう」


 無感動に呟いた剣士は、今度はスタニエフに斬りかかる。


 その時だった。




「『爆轟エクスプロージョン』!」


 再び、背後から響く発動句。

 同時に、眩く輝く高速の光弾が頭上を通過する。


(やばっ!?)


「下がれスタニエフ!!」


 俺も叫びながら腕で顔をかばう。


 光弾は、上段に構えたジクサーの剣を掻っさらい、一直線に祭壇に向かって飛んでいく。

 そして、未だふらついているラムズに着弾した。


 ドォン!!!!!!!!


 炸裂する爆轟の封術。


「うわあああ!!??」


 爆風に煽られ、吹き飛ばされる。

 俺も、スタニエフも、ジクサーも。


「ぐはっ!」


 背中から地面に叩きつけられた俺は、痛みに耐えながらなんとか体を起こす。


「見たか、帝国の外道! あなたたちが蹂躙した人たちの痛みを知りなさい!!!!」


 祭壇の間に響く怒声。

 入口に仁王立ちし、燃えるような赤い髪を露わにして叫ぶエリス。


 ーーあの馬鹿娘、頭に血がのぼって……………………いや、違う。今のは計算づくか!?


 スタニエフのピンチ。

 ジクサーの武器を掠めるラムズへの攻撃。

 絶妙なタイミングとコントロール。

 やっぱりあいつは天才だ。


 そしてエリスがこのタイミングで爆轟を放てるということは、先行したカレーナと後ろにいたジャイルズが『きっちり仕事をした』ということ。


 その証拠に天災少女の横では、カエデさんをおぶって入口まで走り戻ったジャイルズが、壁際に彼女を横たえていた。




 要するに、囮だ。


 俺がジクサーの気を引き戦っている間に、ジャイルズとスタニエフはカエデさんを、カレーナはエステルを、敵から引き離す。


 スタン・グレネードによって狂化ゴブリンの動きが止まることは予想していた。

 ゴブリンを操っているのは、おそらく封術士のラムズ。その術士がパニックになれば、魔物の操作どころじゃないだろう。


 制御を失ったゴブリンのアキレス腱を斬って転倒させ、カエデさんを抱えて逃げる。これで一人は助けられる。


 あとはーーーー


「……っ」


 辺りを見回し、彼女・・を探す。


(…………いた!!)


 天井を支える何本もの巨大な柱。

 その柱の陰に、二つの人影が見えた。


 白い寝間着姿のエステルと、彼女を支える金髪の少女。


 二人は様子を伺いながら、出口を目指して走り始める。


 ーーあと少し。


 あと少しだ。

 二人が出口までたどり着けば、こんなところに用はない。

 とっとと撤退して、逃げ切ってやる。


 そう思った時だった。




「よそ見とは余裕だな」


 俺の前に、帝国の剣士が立っていた。

 上段に構えたその手には、剣。


 まさか?!

 コイツの剣は、エリスの封術が吹き飛ばしたはずじゃ???


「死ね」


 構える間も無く。

 避ける余裕すらなく。

 俺に向かって振り下ろされる無情な殺意。



 ーーごめん、エステル。

 ここまでみたいだ。

 せめて君たちは逃げ切ってくれ……



 心の中で祈りながら、迫る凶刃を見つめる。


 その刃が、青白く光った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 実力差がありすぎるのでしょうがないのですが、それでも不安定なクリティカル前提で作戦立てるのは失敗かと。 まあ失敗はそれが原因ではないみたいですが。 ボルマンをほかのメンバーがかばう、とか最悪…
[良い点] 面白い 久々に一から読み直してしまった コンスタントに書いてくれて嬉しい [気になる点] ゲーム開始はいつになるやら [一言] 次回も楽しみにまってます
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