誘拐されました。
なんだかんだデカルチャーな日々だったが
平和と言えば平和な毎日でした。
言葉は通じないけど愛されてるのはひしひしと解るし。
同じ日常の繰り返しの中、俺は少しづつ成長してきた。
眼はしっかり見えるようになったし。
もうよたよたと歩くのもおぼつかないという事は無い。
巣の中は自由に歩き回れる。
どんなもんだい。
いや・・・何を自慢している俺。
とりあえず飯食って排泄して寝るだけの日々。
暇なので色々と推考する。
俺の親はどうやらワイバーンの類のようだ巨大な羽で空を飛んでいる。
空を飛ぶ、なんだこの心躍る響き!
俺も空を飛べるんだろうか・・・。
飛べるんじゃないかな?いや、飛べる筈だ!
背中に小さな羽が付いている様な気がする。
背中なので自分からは視えはしないが、人間の肩甲骨辺りに集中すると
なんか動く物がある気がする。
気がするったらする!
あああ、早くデカくなりてぇ・・・。
テンション上がるわぁ~。
身もだえしながら巣の中でごろごろ転がっている時だった。
なんか下の方でがさがさと木の葉が擦れる音がする。
なんだろう初めて聞く類の音だ。
気になって巣の端から下を覗いてみる。
! 見知らぬおっさんと眼があった。
お?おおお??
人間じゃありませんかぁ。
この世界人間要るんだ。
へ~。
と、妙な感動を覚える。
「お!居たぞ、1匹だけだ」
「1匹だけか・・・まぁ仕方ない、捕まえろ」
はいい??
逃げるより早く首根っこを摑まえられ頭陀袋に掘り込まれる。
どえぇええ??
「親が返ってくる前に逃げるぞ!」
ちょっ、なにこれ誘拐?
拉致られてんの俺?
遅まきながら暴れてみるけれど俺の爪はまだ柔らかく
牙も弱々しくどうしようもない。
ひでぇ・・・生まれたばかりなのに死亡フラグなんすか?
喰われるの?
そりゃ赤ん坊だから肉は柔らかいかもしれないけど。
俺・・・肉食だからきっと美味くないと思うよ?
ゲロしか食ってないし~。
いやそれは関係ないか。
とりあえず唯一出来る事、ぎゃあぎゃあと鳴き声を上げ抵抗を試みる。
「こいつっ!」
ひえっ?殺される?!
と思った時に頭太袋の口が少し開き。
何やら薬草を粉にしたようなものが放り込まれる。
そのまま意識が朦朧としてきた。
ふにゃらら・・・な・・・なんらこりぇ??
気が付くと柔らかい草が敷き詰められた檻の中だった。
なんだこれ?!
状況が解らず辺りをきょろきょろ見回すと
同じ檻の中に俺と同じくらいの仔ドラゴンが4体いた。
あ~、俺あんな見た目なんだぁ。
青銅色のちんちくりんだなぁ。
でもコロコロとしてまだまだ頼りなさそうで
大きなくるくるした眼が可愛い。
動物は生前から大好きだったので抱きしめたい衝動に駆られる。
とりあえずコミュニケーションを計ろうとするが
どの仔竜も動物並みの頭脳のようで
きょるるんと小首をかしげている。
その仕草がまた可愛い!
どうしよう抱きしめたい!
いやいや違うだろ。
そうだった、親ドラゴンとも話通じなかったわ・・・。
と思い出す。
なんとな~く言いたいことは解るくらいな感じだった。
なんか・・・すごい疎外感つーか、孤独感?。
そこにがやがやとおっさん達が入ってくる。
その中にあの時の俺を拉致ったおっさんも居た。
「5匹か、まぁまぁの収穫だな」
「王国の注文は4匹だったか?」
「1匹多いが仔竜の買い手はいくらでもいるから大丈夫だろう」
ほぅ、人間の言葉はばっちし解るじゃねえの。
正確に言うと聞こえている言葉は聞いたことも無い言語なのだが。
なんか頭の中で日本語に変換されてるみたいに解る。
異世界チート機能という奴かな?
どうやら食糧にするために連れてこられたわけでは無く
どこかに売られる為に捕まえられたようだ。
・・・ペットっすか?
鎖に繋がれた生活なんざまっぴらだっ!
隙を見て逃げ出しちゃるっ!!
「ほら、餌だ」
檻の下部の取っ手の付いた小さなドアが開き
ミンチ肉とミルクを煮た様な物が深皿に入れられ差し込まれる。
ゲロじゃないっ!
俺はくんくんと臭いをかぎ不用意だとは思ったが
売り物なら害を為す様な物は出さないだろうと判断し
ガツガツと食いついてみた。
味は無いが親の餌より数段美味いっ!
逃げ出すのはもう少し様子を見てからにしよう。
決して餌につられたとか、親の恩を忘れたとかそう言う事では無いっ!
無いったら無い!
俺がガツガツ喰ってたら他の仔竜も恐る恐る近寄ってきた。
ああ、お前らも腹減ってるよな。
俺は大人の余裕を見せて餌の皿から離れ仔竜達に場所を譲った。
皆、少し口を付けたかと思うと妙な顔をして後ろに後坐する。
え?なにそれ?
君たちこの味お気に召さないの?
親のゲロの方がいいの?
え~!!デカルチャーっ!!