四
フィリナは手枷を外され、鳥籠に押し込まれた。鍵をかけるレカルドを見上げていると、目が合った。
「……何かな、ものすごく誂えたみたいだな」
「おっさん、変な気を起こすなよ。見るに耐えねーから」
「はんっ!若造が。今の俺の好みは、背が高くて黒髪で、唇がぽってりとした妖艶な美女だ!」
堂々と宣言したレカルドにロトが、「まんまメヒじゃん」とつぶやき、軽蔑を込めて睨みつけた。
そのレカルドは立ったまま腕組みをし、ロトとレイズを揃えて見遣りながら口角を上げる。
「むしろおまえら二人の方が危険だろう」
にたりと笑う彼に、ロトは心外だというようにきつく顔をしかめた。反対にレイズは寝台に腰かけたまま、くつくつと笑っている。
フィリナは、そろそろ拷問にかけられるのだろうかと、頭では冷静に考えていた。
何をされたところで、口を割るべき事柄が何もない。ルゥナのように、怒りの発露として利用されるのだろうか。
かすかに震えている腕をさすりながら、無意識にぽつりとこぼした。
「痛いのは、嫌……」
ぽかんとしたレカルドが、次の瞬間豪快に声を上げて笑い出た。レイズは片腹を押さえて震えている。
そして彼らとは異なる反応のロトは、凄まじい剣幕でフィリナを怒鳴りつけた。
「しねーよ!!ふざけんな、そこまで飢えてねーよ!そういう趣味嗜好持ってねーから!」
つばを飛ばす勢いのロトの、何もしないという怒声に圧されて、フィリナは強引にうなづかされた。
フィリナが納得の意をみせたことで、ロトはぐったりと床に手をつき、安堵の息を吐き出した。
フィリナも拷問がないということで、身も心もほっと弛緩した。
すると、ふとレイズが小首を傾げ、寝台から鳥籠の前までゆっくりと歩いて来た。自分の痛みを他人に悟らせない、微笑みをたたえている。
愛鳥を愛でるように、鳥籠の内のフィリナをじっくりとながめて、胸の辺りで目を止める。
「痛くないなら、いいのかな?」
ロトがぎょっとし、レカルドはおっ、と楽しげに二人を見物する姿勢を取った。
彼らの様子を気にすることなく、レイズは優しく命令をした。
「服、脱いで」
言葉を理解すると、さぁぁ、と全身が青ざめていった。不思議と彼の視線からは、邪なものが感じられず、それがますますフィリナを追い詰める。
身動ぎひとつできずに、硬直した。彼は、知っているのだろうか。
いつから――――。
「ちょっ……!」
やめさせようとしたロトをするりと躱し、レイズは鳥籠の中に両腕を入れて、ボタンへと手をかけた。
ぷつんと一つ外れると、外気が肌を滑る。まるで羽を一枚ずつもがれているようだ。
それでもフィリナは動けなかった。暴かれ、晒されることが恐ろしい。なのにレイズの触れた指先が優しすぎて、振り払えなかった。
この手はフィリナを傷つけない、そんな気がした。
最後のボタンが外され、レイズが襟を大きく開くと、泥だらけの服がはらりと落ちた。もはや纏うものは下着のみ。
羽をなくした鳥は、羽ばたくこともしないのだろうか。
しかし、ここにいるのは鳥ではない。
人の皮を被った、死神だ。
「うっ……これって……」
ロトが下着姿のフィリナを嫌悪の表情で凝視し、レカルドは腕組みのまま難しい顔をしていた。
レイズだけは微笑を張りつけたまま、フィリナの左肩から右のわき腹までを、そっと指でなぞった。
――――いくつもの、ずたずたの椿の花を。
白い肌に浮かぶ鮮やかな赤い椿の花は、一つ残らず切り刻まれていた。赤が、椿なのか血なのかわからなくなるほどに。
「殺した人間の数だけ、花が刻まれるのかな」
「……なぜ、知ってる」
フィリナは、執行人としての感情のない口調で弱い自分を繕った。心を偽るために、表情を消す。
だがーーーー、
「ロト。この傷口開いてるから、先に手当てしてやってくれない?」
レイズはロトに呼びかけ、自分の外套を鉄格子の間を潜らせると、フィリナを愛しむようそっと羽織らせた。
レカルドに担がれ開いてしまった脇腹近くの傷口からは、血がにじんでしまっている。
滴るそれをレイズが指の腹で拭い取り、じりじりとした痛みがほんの一瞬、心地いいものへと変わった。
「……そういうことかよ。焦ったわ、本当。何を始めるのかと思ったって」
ロトが脱力して項垂れた。彼は、フィリナが何かされていたら、仲間に逆らってでも止めてくれたのだろう。そういう意味では、一番良心的な人柄のようだ。
「俺は別にそっちでもよかったがな」
すっかり胸を撫で下ろしていたロトが、不快感を瞬く間に取り戻してレカルドを睨み上げたが、彼は全く頓着しない。我が道を行くように、自由でざっくばらんな性格らしい。
「レイズの手当ては仕方ない、俺がやろう」
一つうなづいたレカルドに、レイズは苦笑しながら寝台まで連れて行かれた。彼の方が明らかに重症なのだ。
骨は折れていなさそうだが、服の下は痣と血で、目を背けたくなるほどのありさまだろう。
ロトは、部屋の端で壁と馴染んでいた背嚢から薬瓶を取り出し、レカルドへと投げた。
それから、ちょいちょいと手招きをする彼に、フィリナは躊躇いながら 近づいた。
彼は手際よく脱脂綿に消毒液を染み込ませ、フィリナの傷口へと当てる。沁みたが、それよりも別のことが頭を占めていた。
「気持ち悪く、ないの?」
古傷と新しい傷、そして椿の花が巻きつくように散っている、異形の体。他人にありのままを見せたことなど、あるはずがない。
彼らがそれでも、フィリナを人として扱うことが不思議だった。
「はぁ?気持ち悪いよ。だけど戦場行ったら傷だらけの兵士なんて腐るほどいるし。それこそ、腕がなかったり足がなかったり、何でもありじゃん」
話しながらもロトは丁寧に、血止め薬を塗布する。 彼の応急処置は、器用で手慣れていた。
外套をはだけさせ、彼に包帯を巻かれていると突然、隠し扉が外側から勢いをつけて開かれた。
「あらぁ?鳥籠の中のいたいけな少女の服を脱がすだなんて。レイズのしそうなことなのに、ねぇ?」
蜂蜜のような、とろりとした甘さのある語調で、ロトをからかう声が響いた。
戸口に腕を添え、女性は喜色を浮かべてフィリナをながめている。光沢のある長い袖が、てらてらと揺れて目を引いた。
「レイズだよ!あの変態の仕業に決まってるだろ!」
即座に顔を紅潮させたロトが否定したが、彼女はふふっと小さく笑っただけで、甘やかな雰囲気をがらりと変えた。
「見ればわかるわよ。――――それで?この状況は何なのかしらね。極秘指名手配犯と愉快な仲間たちに、人質?」
かつかつと靴音を鳴らして近づいてくる女性が、メヒなのだとすぐにわかった。レカルドの好みを具現化したままの、艶っぽい美女だ。
彼女は寝台で横たわるレイズに意味ありげな視線を遣ってから、フィリナへと微笑する。
「カメリアの末の娘ね。白の死刑執行人を拐かしてくるなんて、恐いもの知らずよねぇ。黙ってないわよ、国も、あの一族も」
メヒは紅く色づけた目尻の際で、やんわりと彼らを責めた。
「レイズが連れてくって言い張ったんだよ」
「人質じゃなくて拐かして来たと。ふふっ。ひどい子ねぇ、レイズは」
メヒが鳥籠に寄りかかりながら憐情にじむ声音でゆったりと言葉を紡ぐ。
「籠の鳥は籠を変えたところで、囀りもしないのねぇ。憐れな子……。死を知りすぎて、生きることに鈍感なのかしら。今頃、心配しているでしょうね……優しき一族の長は」
フィリナは無表情という仮面の一部を欠落させた。
レガートはきっと心を痛めている。誰よりも一族想いの、情の深い従兄だ。フィリナを決して見放さなかった、大切な家族。
「レガート、兄さま……」
「恋しくなったの?可哀想に。わたしがお家に帰してあげましょうか?」
メヒが鳥籠の中のフィリナへと華奢な腕を差し出した。それを取れば、帰れるのだろうか。……帰りたいのだろうか。
フィリナは、ぼんやりとそのたおやかな細長い指を見つめていた。
その手がフィリナの髪に触れる寸前でぴたりと動きを止めた。結局、届くことはなかった。
ふと目を上げると、寝台にいたはずのレイズがメヒの腕を掴んで、冷ややかに微笑んでいた。
「メヒ。この子は僕のだ。手を出すなら、容赦しないよ?」
メヒはレイズの表情の、わずかな断片さえも見逃さないという強い眼差しで受けとめ、やがて口元をほころばせた。
「やぁね、冗談よ。わたしは、ちゃあんとレイズの味方よ」
「だといいんだけどね」
レイズは肩をすくめながら、メヒを捕らえていた手をほどく。
静かないさかいに閉口していたロトが、緊張を和らげ口を挟んだ。
「レイズとメヒって、いつもはもっと割り切った感じの付き合いじゃなかった?」
「なぁに、ロトったら。嫉妬?」
メヒは面白がりながら腰を屈めて膝に手をつき、床に座るロトを横から覗き込んだ。
その黒い髪がだらりと垂れ下がる。それがあの日の姉の髪を想起させ、フィリナは咄嗟に身を強張らせた。
するとレイズが何もかも見透かしたように、フィリナの髪を何度か梳きながら頭を撫でた。何も聞かずにに、黙ってそっと傍に寄り添う。
「はぁ?つーか、どっちに嫉妬?妖艶美女も微笑王子も趣味じゃないから」
「遠回しに褒められてるのかしら?」
ふふっ、とメヒは唇に指を当てて純粋に笑んだ。裏のない称賛に、レイズと目を交わして微笑み合う。
親しげな三人に蚊帳の外へと置かれていたレカルドが、我慢できないとばかりに彼らへと言いつけた。
「俺のメヒに手を出したら、いくらおまえらでも許さんぞ」
レカルドが憤慨しながら、ロトとレイズを恨みがましく睨めつける。
「おっさんはもう諦めろよ。ここに来てから一回も、メヒの視界にすら入れてもらってないじゃん」
ロトの言葉を肯定するように、メヒはレカルドを空気扱いしている。猛獣のような唸り声さえ、聞こえない振りの徹底ぶり。全く歯牙にもかけず、彼女はフィリナへと向き直る。
「いつまでもその格好は、辛いでしょう?服を貸してあげるわ。待ってて」
嬉しそうに、メヒはちょん、とフィリナの唇に人差し指を触れてから隠し部屋を後にした。
レカルドからのぴりぴりとした視線を、レイズが遮り間に立つ。
すぐに戻って来たメヒは、その腕に青い布を抱えていた。
彼女はそれをフィリナに手渡しながら、鳥籠ごとながめてしみじみとつぶやいた。
「幸せの青い鳥、飼いたかったのよねぇ」
フィリナはその言葉に気後れしながらも、無言で服に袖を通すことにした。
◆◇◆◇◆◇
グロッツ執務室に乗り込んだレガートは、無茶を承知で要求をした。
「帯刀許可を」
「無理に決まってるだろう。死刑執行時のみしか許可は出せん」
「では容疑者の執行命令を」
「馬鹿なことを言うな。今兵が追っている。しばらく待つことだ」
レガートは冷めた口調で尋ねた。
「それは人質救出のため、ですか?」
グロッツが真意を探るように眼鏡の奥の目を眇めた。対峙するべく、真正面から彼を見据える。
レガートは事前にある程度状況を把握して来ていた。
兵は確かに動いている。だが、それはフィリナを救うためではなく、現在指名手配中の罪人を捕らえるためだった。
フィリナが連れ去られたことさえ、現場の兵たちには知らされてはいない。さらには、牢から罪人が逃亡したことも隠匿している。
狡猾なグロッツは保身のため、罪人が牢に囚われていた事実から、うやむやにした。
真実を知る者たちにはすでに、箝口令が敷かれているのだろう。王宮も街も、こんなにもいつもと変わらぬ夜を過ごしているのだから。
兵は上から言われた通りに、罪人を追うだけだ。フィリナを助けたりはしない。
カメリア一族を人とも思わないグロッツは、こうも容易くフィリナの命を切り捨てた。
レガートは執務机の上に立ててあった万年筆を手にして、滑らかな動きで彼の首筋へと添えた。人差し指でとん、と優しく押すと、万年筆の胴の部分がひたりと頸動脈に触れる。
優雅で無駄のない魅せる処刑は、今もなお健在であった。
グロッツは罪人たちと同じように、たった今自分が殺されたことを知った。傷は一つもついていないにしても、この万年筆が刃物だったならば間違いなく、息絶えていた。鮮血の飛沫が辺りを夥しく染めるのを、声なく見ているしかなかっただろう。
瞬間、憤怒で逆上したグロッツは万年筆を勢いよく払いのけて叫んだ。
「何てことをするんだ!正気か!?」
レガートはため息をつきながら床に転がった万年筆を拾って、元の場所へと立てかけた。
「フィリナが殺されて一番困るのはあなたですよ」
邪推深く見据えるグロッツに、レガートは呆れ果てた。
なぜ、こんなこともわからない。
「フィリナが殺され、その死体を処刑台に晒されたとします。――――ルゥナのときのように」
「それがどうした。フィリナがあの男を裁いて名を上げたはずだ」
――――不名誉な名を。
「そう、フィリナが。ではフィリナが殺されて、誰が裁くのですか?」
レガートが何を言いたいのか見えず、グロッツは顔をしかめた。
「おまえが裁けばいい。引退したとはいえ、一度くらい構わんだろう。もしくは、あいつか。あいつの方がいいかもしれんな」
浅はかな考えのグロッツに、レガートは苛立ちを押さえて理路整然と続ける。
「フィリナの弔いなど、彼がするとでも?無論私が裁きます。ですが、それで国民は納得するでしょうか?」
妹が姉の仇を打つ。そんな話題性があったからこそ、フィリナは国民に受け入れられているのだ。フィリナが血を浴びるかどうか、賭けをする人も多い。
「今やカメリア一族と言えばフィリナです。そのフィリナを――――死神と呼ばれる執行人を、罪人が――――人が殺すということがどういうことかわかっておいでですか?皆こう考えるでしょう――――他の死神たちを殺すのは今ではないか、と」
「穿ちすぎだ。いくらなんでも極端な話ではないか」
「ルゥナのときは発見が早くて、国民にはほとんど気づかれないよう対処しましたが、今回も同じとは限りません。実際、今が狙い目なのですよ。跡を継ぐ人間がいないのですから」
フィリナが一族の末子だ。主に一族同士の婚姻を続けてきたカメリア家だが、保守派と革新派の内部抗争でフィリナ以降子供が生まれていない。
身内との婚姻が難しい上に、婿や嫁を迎えるのは絶望的と言っても過言ではない状況だ。
誰も、自分の子供を人殺しになどさせたくはないだろう。
「フィリナが我々の生命線。罪人でなくては刀を振るえない我々は、国民に刀を突きつけられても逆らえません。一族が殺されて、執行人がいなくなる。そうなれば皮肉なことに、私や父が長年求めてきた死刑制度廃止が実現するでしょうね」
最悪の想定を提示したレガートにグロッツは忌々しげに歯軋りをした。
レガートはもう一度、初めと同じことを口にした。
「帯刀許可を」
◆◇◆◇◆◇
兵がこぞって西に向かって行くのを、チリルは不思議に思いながらフィリナを探していた。
牢へと繋がる暗い抜け道を、ずんずんと進んでいく。フィリナには入ることを禁止されていたのだが、この非常事態でそのことはすっぽりと頭から抜け落ちていた。
地下牢は人の気配もなく、ひっそりと静まり返っている。
チリルは女中服のスカートのポケットから、持参したマッチを擦り、こちらも持参した蝋燭に火をつけた。
素手で掴んだ蝋燭を斜め前へと掲げると、ある牢に目がいった。
その牢の南京錠は地面にぽとりと寂しく落ちている。近寄ると、入口が風できぃ、と甲高い音をたてた。
ぞくりとして思わず息を飲んだ。誰もいないことの方が、チリルにとっては恐い気がした。
しかし、牢の前の土に、見覚えのある靴跡を発見すると恐怖は一気に弾け飛んだ。
チリルはしゃがんで靴跡に触れた。
確かにここにフィリナがいたという証拠に。
「リナさま……」
きっと寂しい思いをしているに違いない。
ぽと、と靴跡に一粒の涙が染み込んだ。
ぐいっと目元を袖で拭うと、チリルは気を引き締めて周囲の捜索にかかった。
何か落ちていないか。
フィリナの居場所がわかる、何かが。
手探りで牢の外側から地面を探す。手のひらも指も土で茶色く汚す。膝頭で一歩ずつ進み、低い姿勢のままスカートの裾を引きずる。
爪の間に土が入り込み、移動する度に溶けた蝋燭を掴直しては火傷を増やす。
一族の誰も、口にはしないが、フィリナの生存を信じてはいなかった。
フィリナのために動いたのは、レガートだけだった。
それでもチリルは絶対に生きていると疑わない。また会えると信じている。
だからチリルは、フィリナがいつも抜け出すときに使う厨房下の換気窓から、後先考えずに飛び出して来た。
いつものように、ただ黙って待っているなんてできなかった。
迎えに行くのだ。フィリナを。
どれくらいたった頃だろうか。
蝋燭が短くなり、チリルは牢の最奥を探っていた。
その指先に、しっとりとした小さな固い塊があたったのはその時だ。
蝋燭を地面へと突き立てて、べっとりと何かが付着したそれを、おそるおそる摘み上げた。
炎へと近づけると、色は赤黒く映る。それが血だとわかると、鉄錆の臭いがぷんと鼻についた気がした。
顔を強ばらせながらスカートでごしごし拭うと、それは綺麗に白くなった。どことなく、人工的な白さだ。
チリルは白い複雑な形をしたそれを、親指と人差し指で摘み、しげしげと観察し――――、
「あっ!は、歯……?」
何度もぱしぱしと目を瞬いた。見れば見るほどに歯だ。形状からして、奥歯のようだった。
血がまだ乾いていない。つまり、フィリナが連れ去られた時に、誰かが落としていったものということだ。
「兵士さんの……かな?でも、もしかしたら……」
指でころころいじっていると、急にぱかっと歯が割れて、手のひらで何かがころりと転がった。
咄嗟に遠くへ投げ捨てようとしたが、寸でのところで思いとどまった。
真っ二つに割れた歯の中から現れたのは赤い丸薬。
チリルは首を傾げて、すんすんと匂いを嗅いでみたが、これが何なのかさっぱりわからない。
歯から出てきたものを口に入れてみるわけにもいかず、チリルは悩んでいると、はっと閃いた。
薬草に詳しい人に聞けばいいじゃないか。
思い立ったが吉日と、チリルは慌てて階段をかけ上がり、破壊された入口から外へと飛び出した。
蝋燭の火を消し忘れたことは、おそらく一生思い出さないだろう。