3、ステータス確認
もう駄目だ……!
俺は半ば観念して棒をぐっと構えた。
「グオオオオ!」
だけど、悲鳴を上げたのはゴブリンたちの方だった。
巨大な炎の塊が飛んできて、ゴブリンたちを一瞬で焼き払ったのだ。
「助かった……?」
「大丈夫か、おまえたち」
現れたのは、漆黒の馬に乗った褐色の肌の美女だった。
「あの……ありがとうございました」
「うむ。間に合って良かった」
ゆったりとカールした長い銀髪をなびかせ、フードつきの長いローブをまとっている。上はビキニのようなものを着ていて、下は大きくスリットの入った布を巻いている。意志の強そうなきりっとした顔立ちをしていて、たぶん二十代前半くらいだろう。
香月もけっこう胸は大きい方だけど、このお姉さんには負ける。
「今のって、魔法ですか……?」
「ああ、そうだ」
「マジですか……」
やっぱりここは異世界なんだ。
現実には銀髪に褐色の肌の人なんていないし。
言葉が通じるのは助かった。どういう仕組みかは分からないけど……。
美女は俺が持っているブレスレットを見た。胸と太股を見ていたのがバレないように俺はあわてて視線を外した。
「どうやらゴブリンたちはそれを狙っていたようだな。なかなかのレアものだ、大事にしろよ」
美女が行ってしまいそうになり、俺はあわてて呼び止めた。
「あ、あの! ここは、どこですか?」
「ん? ああ、ここはグランデ王国の西のはずれだ」
「グランデ王国……」
「おまえたち、旅人か? 変わった格好しているな。どこの国から来たんだ?」
「あ、日本です」
「ニホン? 聞いたことないな」
「あの、私たち、違う世界に飛ばされたみたいなんです」
「違う世界?」
「えーと……俺たちもびっくりって感じなんですけど……この世界のこと、何も知らないので教えてもらえたら嬉しいな~なんて……」
どうせ教わるなら美女に教えてもらいたい。
「ふーん」
美女がじっと俺たちを見た。
「ついでにお姉さんの家に泊めてもらえたら嬉しいかな~なんて……」
「こぅくん、それはちょっと……」
「だって野宿ってわけにもいかないだろ」
「おまえ、図々しいな。まあいいだろう、ついてこい」
美女の家は平屋の一軒家だった。コテージのような感じで、テーブルと椅子が置かれていて壁の棚には本がぎっしり詰まっている。通された部屋はリビングになるんだろうか。
出された飲み物は紅茶の味に近かった。
「私の名はハウラだ。よろしくな」
「あ、俺は熱井光希です」
「野山香月です。よろしくお願いします」
俺はトラックにひかれそうになったことや気づいたらこの世界に来ていたことを話した。
「違う世界から来る『訪問者』と呼ばれる者がごくまれに来ることがあると、古い伝承に載っているのを読んだことがあるが……まさか本当にいるとは思わなかったな」
ハウラさんが腕を組んだ。
「おまえたち、魔力はどのくらいあるんだ?」
「使ったことがないので分からないんですけど……」
「そうか。それじゃあ、見てみるか?」
ハウラさんが棚から薄い金属板を取り出した。ノートくらいの大きさの板の上に手をかざし、ぶつぶつと何かを唱えると、鈍い銀色の板が淡い金色に変わった。
「ちょっと痛いが我慢しろ」
そう言ってハウラさんが俺の手を取り、人差し指に針を刺した。
「いてっ」
「我慢しろ」
血が数滴、板に落ちる。板が一際金色に輝き、落ち着いたかと思ったら黒い文字が現れた。
名前 コウキ アツイ
年齢 16
レベル 2
体力 150/150
魔力 1000/1000
器用 110
知力 80
素早さ 150
精神力 200
幸運 120
スキル 火魔法
水魔法
風魔法
光魔法
こういうの、ゲーム画面で見たことがある。ステータスってやつか。
スライムを倒したからレベル2になってるのかな?
なんかやたらに魔力が高いな。知力が低めなのも気になる。
「ほう、レベル2でこんなに魔力が高いとはな。それに使える魔法の種類も多い。鍛えれば魔王も倒せるかもしれないな」
「魔王……いるんですか?」
「ああ。最近は魔王の影響で魔物も増えている。人を襲うことも多くなってきているそうだ」
「……ということは、俺たちは魔王を倒す勇者としてこの世界に飛ばされたのかも……!」
やばい、たぎる!
だけど、ハウラさんがあっさり否定した。
「ああ、勇者はもう現れたらしい。おまえたちに会ったのは街からの帰りでな、その時に噂で聞いた」
「あ、そうなんですか……」
「だが勇者の手助けをできるのなら、してほしいと思うが」
「あー、まあ、はあ、気が向いたらします」
「こぅくん、勇者がいるって聞いてやる気なくしたでしょ」
「あー、いやあ、えへへ」
「おまえ……」
あきれた様子のハウラさんに俺は力説した。
「だってサブなんかモブですよ!」
「すまん、光希が何を言っているのかよく分からん」
「つまりモブというのはですね」
「こぅくん、その説明はもういいと思うの」
「……まあいい。香月も見てみるか?」
「あ、はい」
香月が俺と同じように血をたらすと、文字が変化した。
名前 カヅキ ノヤマ
年齢 16
レベル 1
体力 100/100
魔力 500/500
器用 150
知力 150
素早さ 100
精神力 100
幸運 100
スキル 風魔法
光魔法
完全記憶能力
聖なる歌声
「完全記憶能力か。珍しいスキルだな」
「あ、香月は見たものをすべて記憶できるんです。俺たちの世界でも珍しいと思います」
「ほう」
とりあえずスペックが高そうなことは分かったけど、魔法ってどうやって使うのかも分からない。もう勇者がいるんじゃ目的もない。
俺はハウラさんに訊いてみた。
「あの……しばらくここに置いてもらえませんか?」