2、初めてのスライム退治
「う……」
何か柔らかいものに手が触れている。手を動かすと、それはどこまでも続いていく。
目を開けると、緑色が見えた。
「草原……?」
どうやら俺は草原に寝転がっているようだった。
起き上がって周りを見てみる。草原の先は森になっていた。そのもっと奥には連なる山々が見える。
「……ここ、どこ……?」
確か、トラックにひかれて……だったらアスファルトの上か病院にいなきゃおかしい。身体を触ってみたけど、どこも怪我してなかった。服も学ランのままだった。近くに俺のカバンが落ちている。
「まさか、あの世……?」
俺、死んだのか……?
「……そうだ、香月はどうなったんだ? 香月、香月―っ」
「……うーん……」
「香月」
声のした方に駆け寄ると、香月が横たわっていた。香月もセーラー服のままで、カバンが側に落ちている。
「あ……こぅくん……」
「大丈夫か?」
「うん……ここ、どこ……?」
「分からない」
「私たち……死んだの……?」
「分からない……」
俺がそう言うと、香月は辺りを見渡した。
「あっ」
「どうした?」
「あそこの茂みで、何か動いたみたい」
指さす先を見てみると、茂みがガサッと揺れた。
「な、何だ?」
「こぅくん……」
香月が不安げに俺の腕を掴んだ。
香月は俺が守らないと。
俺は落ちていた枝を拾って構えた。
「さあかかってこい!」
茂みの中から、何かがぬるん、と少しだけ出てきた。半透明の水色でぶよぶよした塊だった。
「スライム……?」
「え……え? スライムって、ゲームとかに出てくるあのスライム?」
「た、たぶん……」
となると……。
「ここって、まさか異世界……?」
「異世界?」
「死にそうになって異世界に飛ばされたんだよ、たぶん。そういうの、小説とかで見たことある」
「そうなの?」
「あんまり自信ないけど……でもとりあえず」
俺は棒を握り直した。
「そうとなったら、スライム倒して経験値上げだ!」
ズルル、とスライムが茂みから出てきて全身を現した。
「……えーっ! リアル目玉ついてるんですけどー! 超気持ち悪いんですけど!」
50センチくらいの水色の半透明の塊の上を人間の目の三倍はありそうな目玉が二つ、グニグニ動いている。しかもすっげえ血走った目してるし!
「ちょ、ちょっとどうするのこぅくん」
「ど、どうしようって、うぐう、倒すしかない!」
俺は思い切ってスライムに棒を振り下ろした。
「うわあっ」
「こぅくん、大丈夫!?」
「めにょってしたあ! めにょって気持ち悪い感触が~」
「ね、ねえ、スライム、怒ってるんじゃない……?」
「……ひえっ」
リアル目玉が更に血走ってグリグリ高速で動き始めた。それにだんだんこっちに近づいてくる。
「く、くそう!」
俺は気持ち悪いのを我慢して何度もスライムに棒を振り下ろした。
そしてようやく、スライムを倒せたらしく、水のように崩れ落ちた。
「うう……めにょを倒したぜ……ん?」
スライムがいた場所に何かが落ちていた。
「やった、アイテムゲットだ!」
ブレスレット……かな? 銀色の10センチくらいの幅の輪で、表に細かな紋章が彫られている。
「さて……これからどうしよう……」
とりあえず街を目指すべきかな。
考えていると、茂みがガサガサ鳴って、何かが飛び出してきた。
「こ、こぅくん」
「離れるな」
俺は棒を構えた。
俺の腰くらいまでの身長で緑色の肌。頭はハゲていて、目がぎょろりと大きい。
「あれは……ゴブリン?」
何とか勝てそうか……そう思った時、ゴブリンが次々と飛び出してきた。
その数、11。
棒だけでこれは無理ゲーだろ。どうしよう。逃げてもすぐに追いつかれそうだ。
いくら考えてもいい案は浮かばなかった。
次の瞬間、ゴブリンの集団が襲いかかってきた。