1、突然の事故
ファンタジーは書き慣れていませんが、よろしくお願いします。
「ぐぬぬ……!」
俺、熱井光希はコンビニの中で歯噛みしていた。
悔しくてたまらない。なのに、相手は平然と笑っている。俺は拳を握りしめ、低くつぶやいた。
「くそう、笑うんじゃねえ……!」
「写真に言っても仕方ないでしょ。おまたせ、行きましょうか」
幼なじみの野山香月が俺に笑いかけた。
「うん……」
俺は渋々、週刊誌の表紙で笑っている女から視線をはがして香月と共にコンビニを出た。
香月と一緒に登校するのは久しぶりだ。
すれ違う男は香月をちらちら見たり、堂々と見とれたりしている。そして時には、隣にいる俺を睨んだりしてくる。
香月は綺麗だ。幼なじみだから知っている、昔から美少女だと評判だった。
サラサラの長い黒髪、少したれ目がちの大きな瞳、華奢な身体に豊かな胸。澄んだ鈴のような声に、にじみ出る性格と育ちの良さ。
俺はイケメンでもない普通の男子だ。茶色っぽい髪をセットしてみたり学ランをカッコ良く着こなせないか考えたりしているけど、無駄じゃないのかということは何となく分かっている。
そんなのが美少女の隣にいれば睨みたくもなるだろう。
香月は高校一年生で、現役アイドルだった。
中学の時に俺が(勝手に)応募してアイドルになった。
だけど、アイドルとしてデビューした香月は、売れなかった。いや、売れさせてもらえなかった。
「チッ」
すれ違った自転車のカゴに、あの女が表紙の週刊誌が入っていたのを見て舌打ちする。
ライバル事務所でデビューした宮芝えりが様々な妨害を行ってきたのだ。妨害しなければ香月に圧倒的な差をつけられると分かっているから、それはもう陰険で悪質な妨害をしてくる。
「こぅくん、舌打ちなんて駄目よ」
「だって……香月は悔しくないのか?」
「だって、どうにもならないじゃない。頑張っていれば、きっと報われるわよ」
俺はそうは思わない。
あの女の妨害を何とかしない限り、香月は売れない。
でも、ただの高校生である俺にはどうにもできない。
悔しい。
「悔しい、キーッ!」
「こぅくん、声に出てるわよ」
「香月も香月だよ。芸能人が通う学校に行けばいいのに、なんで俺と同じ地元の高校にしたんだよ」
「アイドルとしてのお仕事もないのに、そんな学校に行っても仕方ないでしょ。だったら、こぅくんと同じ高校に行きたかったの」
「嬉しいけど嬉しくない」
香月は人が良すぎる。今だって、幼稚園くらいの子供が一人で歩いてるのを心配そうに見ている。
「マネージャーさんと相談してもいい案は出なかったしなあ……」
俺は香月のファン第一号で、マネージャーさんとも仲良くしている。
「なあ香月……あれ?」
隣を歩いていたはずの香月がいなかった。
見回すと、香月は車道に向かって走っていた。その先には、車道の真ん中で立っているさっきの子供がいた。そして、迫りくる大型トラック。
「香月!」
俺はあわてて走り出した。
香月が子供を突き飛ばした。子供は歩道へ転がり、香月は車道の真ん中で倒れ込んだ。
もう駄目だ、間に合わない。なら、せめて……!
俺は車道に飛び出し、香月に覆いかぶさった。
耳をつんざくようなブレーキ音が聞こえ、視界が暗転して俺は意識を失った。