8.思案
僕は授業を受けながら、自分がされたことについて考えていた。騙し討ちしてプレイヤーを殺してしまう行為というのは、どんな心境で行っているのだろうか。
覚悟の上で、やっているのだろうか。自分が他人にしたことは、同じことをされても仕方がないことだと。正しいとか、間違っているということ以前に、そんな風に思った。
人の考え方なんて簡単に理解できるものでも、されるものでもないのだろうけど、やはり『やられる側』としては良い心持ちはしない。他のオンラインゲームのシステム上の倫理観や仕様は分からないから、比較するようなことは出来ないけれど、僕にとって『やられた』ことはとても衝撃的な出来事だった。
ただ、あのゲームの中では、それが許されている。
僕の中にはそれまで無かった、そんな感覚が当たり前のこととして存在する世界観には、何となく惹かれるものがあった。
✳︎
その日も、これと言って変わったこともなく授業時間は過ぎていく。ただ、昨日と違うのは、早く休み時間にならないかなあ、と頭の片隅にあることだ。
そうして、午前中の授業はつつがなく終了して昼休みになった。僕は昼食として用意していたカレーパンと焼きそばパン、180mlの紙パックのカフェオレを机に並べる。そうして、スマートフォンをズボンのポケットから取り出すと慎二から送られてきたアドレスにアクセスして、ネットゲーム用語に目を通してみる。
しばらくの間、僕はちまちまとスマートフォンの画面に指を滑らせていたが、ふと、学級委員長の在原佳奈恵の方を見てみると、やはりと言うか、手元のスマートフォンの画面を食い入るように見つめていた。恐らく、彼女もsoulStrainをやっているのだろう。
僕は思い立って、佳奈恵に話しかけてみることにした。
「委員長さ、もしかしてsoulStrainやってるの?」
唐突に話しかけられて驚いたのか、佳奈恵は肩をビクッとさせた。
「えっ?! あ、う、うん」
佳奈恵はそう僕に返答すると、 手にしていたスマートフォンの画面を隠すように両手で持ち直した。
「ごめん、覗き見ようと思ったわけじゃないんだけど、ちらっと画面が見えたから……」
何だか警戒心ばりばりの反応である。しかし、普段の学校生活でほとんど接点が無いと言っていい相手から話しかけられたこの状況なら、致し方なしか。
「ふうん、それで、何の用?」
「実は、最近、このゲームをやらないかって誘われて始めてみたんだ」
「へえ、そうなんだ」
「始めてみたのはいいけど、最初に何をしたらいいか分からなくってさ。砂漠を歩いてたら他のプレイヤーにやられたよ」
僕の方をジッと見つめて、佳奈恵は口を開く。
「……そう。それは災難だったわね。このゲーム、初心者がどうとかお構いなしで、何でも有りな感じだから」
「そうなんだよなあ。僕はそういう感じのゲームだって思ってなかったから、本当にびっくりしたよ」
「最初はとにかくレベル上げとかないと、多分まともにプレイ出来ないからね、このゲーム」
「ああ、似たようなことを慎二に言われたよ。やっぱ強くしとかないとカモにされるだけなのかー」
「慎二って……ああ、川端君のこと。川端君もやってるんだ」
そんな風にしばらく喋っていると、いつの間にか、昼休みの時間は残り半分を切っていた。
「やべ、さっさと昼飯食べとかないと。委員長、昼休みの邪魔してごめん。良かったら、またゲームのこと聞いても良いかな?」
「う、うん。別に良いけど」
「ありがとう」
自分の席に戻った僕は、佳奈恵の言った言葉を反芻する。
「何でも有り、か」
つづく




