7.熟達
電話を切った後、僕は食べ終わったカップラーメンの容器と割り箸を捨てて、スマートフォンの画面を見る。そこには、『やり直す / ここで終了する』というテキストが表示されていた。どうやら、やられた後にゲームに再度復帰するかどうか選択するような形式らしい。何だか格闘ゲームのコンティニュー画面のようだ。僕は、今日は引き続きやる気にはなれなかったので、『ここで終了する』を選択した。
それにしても、このゲームの内容である。考えてみれば、ただで人に物をもらうという発想も褒められたものではないが、そこから即、死につながるとは思わなかった。とりあえず、明日は経験者の慎二に話を聞いてみるか。
自分の部屋に戻ると、通学カバンから筆記用具と教科書を取り出す。勉強机の棚からは念のために参考書を引き抜いて机の上に広げる。僕は宿題を進めていたが、なんとなく集中出来なかった。机の隅に置いていたスマートフォンに視線が移るも、手に取るまでにはいかない。今日のところは、今日やるべきことをやろう。そう考えると、僕は宿題に取り掛かった。
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握手をする。女の子の笑顔が見える、次の瞬間には自分の首にナイフが刺さっている。徐々にフェードアウトしていく視界が、自らの命の終わりを予感させる。
ああ、このまま僕は死んでいくのか。
フェードアウトしていく視界が、完全な漆黒に変わるとーー
「……ッ!!」
自室の天井が見えた。夢か。僕は少しホッとしたけれども、心臓の鼓動は全速力で走った後のように速い。いつもより深く息を吐いて、それからゆっくりと吸い込む。
初めてプレイしたオンラインゲームで、他のプレイヤーから殺されて身ぐるみを剥がされたことは、思ったよりも深く自分の中に傷として残ったようだった。僕自身、あまり神経質な方だとは思っていなかったけど、こんな風に夢にまで見るあたり、やっぱり神経質な方なのかもしれない。
登校すると、待ち兼ねたように慎二が話しかけてきた。
「よう、レベルアップおめでとう」
「……いや、騙し討ちされただけだし」
「まあ、そう言うなよ。あれぐらいはむしろ優しい方さ」
「そうなのかねえ……何だか、人の嫌な部分を見ただけのような気が」
「それを言い出すと、ネトゲなんてドロドロの方が多いのなんのって。相手の顔が分からない、人となりを知らないってことは気楽でもあるが、恐ろしいことでもある。……ただ、そういうのって面白いじゃないか。赤裸々でな」
「一体ネットゲームの世界で何を見たんだよ、怖いな」
川端慎二の闇は深い。いや、ネットゲームの闇の方が深いのか、この場合は。
「少し聞きたいんだけど、ゲームを普通に楽しみたいと思ったら、どうすればいい?」
「そりゃあ、まあ、一にも二にもレベリングだろうな」
「レベリング?」
「ああ、レベル上げのことだよ。レベル上げてたら、使えるスキルも増えていくから確実に戦いやすくなるぜ」
「なるほど、レベル上げか。やっぱそれしかないか」
「んー、まあ、マジで手っ取り早く強くなるなら廃課金すりゃ一発なんだけど、それは選択肢にないだろ?」
「それはまあ、確かに」
パッケージされたゲームを買うことはあっても、この手のゲームの課金要素にお金を沢山掛けるイメージは湧かない。蟻地獄のイメージが強いのがやる気にさせない理由だろうか。
「もしレベル上げるなら、スマホ操作よりPCでやった方が良いぜ。処理能力はモブ相手でも対人戦でも要求されるからな」
「へえ、そうなのか……ってかモブって何?」
「普通の敵のことをそう呼ぶんだ。その辺りの知識なら、この辺りとか読むと分かりやすいぜ」
慎二は、メールに用語解説サイトのアドレスを載せて送ってきた。
「結構色々と用語あるんだな。ネットゲームってハードル高くないか?」
「まあまあ、すぐ慣れるって。分かってきたらヤバいぐらい面白いから、まあプレイの参考になる項目もあったりするから読んでみてくれな」
つづく




