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第16話

「宿屋に居ろといっただろう。こんなに濡れて、風邪ひくぞ」


 バツが悪そうに立ち尽くすルキウスを見つけたラウドは共に宿へ戻るなりガロンの魔術で出された水で濡れた服を着替えさせた。


 乾いた服に着替えたがまだ軽く髪は濡れており、頬に張り付いた黒髪をラウドは長い指で整えた。その手を嫌がることなく髪を直されるままにルキウスは尋ねてきた。


「ねえ、なんでガロンは消えちゃったの? 俺にはただ魔封じをしただけに見えたんだけど」


 当然の疑問だろう。ラウドは軽く頷いた。


「あいつはもう百は軽く生きている。魔封じをされると、受けた者は魔の属性から離れて魔力のない普通の人となる。奴の身体は魔力で保っていたが、普通の人間に戻され、百年という歳月が急に身体に流れ込み、それに耐えられなくなり消滅した」


「そう…」


 二人の距離が近い分、ルキウスの顔が軽く曇るのをラウドは見逃さなかった。ガロンの最後でも思い出したのだろうか。


 確かに初めて見る人にとっては衝撃的だろう。今まで生きていた人が急に砂と化し、跡形もなくこの世から消え去るのだから。ましてやルキウスは同じ魔術師だから、思うところがあるのかもしれない。


「そんな顔をするな」


 ラウドの言葉にルキウスは何かを思い出し、弾けるようにこちらを見上げた。


「顔! そうだ、頬のケガ、治そう。魔封じ外してよ、それくらいならすぐ済むから」


 ルキウスは突然そう言うと、傷のあるラウドの頬に手をのばす。


「別に必要ない。すぐ治るさ」


 ラウドは首を振り一歩下がったが、ルキウスはその分一歩近づきラウドの頬に手を当てる。


「悪いことは言わない。すぐ治した方がいいよ!」


 力説するルキウスをラウドは複雑な表情で見つめた。そして、頬にあてられたルキウスの手に自分の手を重ねあわせた。


「…お前は察しがいいからな」


 驚いてルキウスは手を引こうとしたが、ラウドはそれを許さなかった。


(きっとさっきの戦いを見て、『魔封じ』の大体の能力を知ったのだろう)


 ラウドを始め『魔封じ』は自身に害を及ぼすいかなる攻撃魔法を一つとして受け付けない。その変わり攻撃魔法を使う能力はなく、物理的な攻撃でのみ・・倒せることができる。だからルキウスはその弱点を他の人に知られない様すぐに目に付く頬の傷を治すと言ったのだ。確かにそれは正しい判断だろう。


(ルキウスは素直ではないが、いつも自分の事を気遣ってくれている)


 初めて六つ星持ちだと告げた時も不思議と彼なら大丈夫だと思えたことを思い出した。 


 急に抑えていたルキウスへの愛おしさが堰を切り、止められなくなった。


(では、ついでに俺の気持ちも察してくれ)


 ラウドは掴んだルキウスの手を唇にあてた。


「ちょっ…ラウド、何?」


 お構いなしにルキウスの指一本一本に丁寧な口づけを施し、時に指の股を舐め上げた。


 ルキウスの体がぴくりと反応したのがわかる。ルキウスは思いがけない感覚に戸惑っているようだ。いつもと違うしおらしいルキウスは新鮮で、ラウドは押さえがきかなくなっていた。


 ほの暗い喜びが全身を支配する。掴んだ腕を引き寄せ、ルキウスの華奢な腰を掴むとそのままベッドへ組み敷いた。


「やだ、なにするんだよ! 離せって!」


 ルキウスは空いている片手で抵抗を試みているが、それは唇をルキウスのそれに重ねる妨げとはならなかった。


「んっ…」


 柔らかい唇の感触を楽しんでから、下唇を舐め上げる。程なくしてルキウスはかみ締めていた口をほころばせた。その隙を逃さず奥へと侵入する。吐息も何もかも奪いたい、その一心で口内を舌でまさぐっているうちに奥でかくれていたルキウスの舌に会う。誘うようにそそのかすと、ルキウスもおずおずとそれに答え始めた。


 それが嬉しくてラウドはさらに深くルキウスを求める。今ではもう手を押さえる必要もなく、ルキウスの艶やかな黒髪も同時に楽しむことが出来た。


(ヴェルマの勘は当たっていたのかもな)


 こういう日が来るのを否定しつつも思い描いていた。ルキウスの笑顔、ふとした動作全てがラウドの心に響く。最近ではそれがつらくて逃げ出すように外へ飲みに出ることもしばしばだった。一度はルキウスを手放そうとも思った。最近ラウドはルキウスを『六つ星』に関わらせたことを後悔し始めていたのだ。


 誰とであれルキウスを戦いに巻き込ませたくない。彼が傷つくのを想像しただけで心が鷲づかみにされたような感覚を覚えるのだ。その一方、同時に離したくないという気持ちがあることも事実であり、そのせめぎあいがラウドを翻弄し続けていた。


 だが今はそんな懸念は脳裏になかった。ルキウスの抵抗はもはや全くない。口付けを首筋に移し、思いのまま吸い上げ、髪を楽しんでいた手をゆっくりと下へ下ろしていく。


「あっ」


 薄いチュニックの上から胸の突起を擦りあげるのと同時に、ルキウスの掠れる声があがる。かわいい声をもっと聞きたくて、ラウドは二本の指でゆっくりと、時には激しく擦り上げ揉みしだく。


「や…だってば」


 口から漏れる声とは逆に、服の下の突起は固くしこっていく。


(じかに触れたらどうなるだろう? いや、そこだけではなく、全て余すところなくルキウスに触れたい)


 心の声の命ずるままに、ラウドは服を脱がしにかかる。しかし目に飛び込んできたのは想像したルキウスの滑らかな肌、ではなく、自分の施した呪印だった。


 はっとして、ルキウスを見た。彼は両腕で顔を隠し、表情は読み取れない。しかし、泣いていた。


(魔封じを受けている身だから、俺に強く逆らえなかったのかもしれない)


 急に後悔の念が湧き上がってきた。抵抗しないのはルキウスもラウドのことを憎からず思ってくれているからとばかり考えていた。


(とんだ思い上がりだ)


 ラウドはルキウスから体をはがすと、ルキウスの服を元に戻し背を向けた。


「すまない、先程の戦いの後で、気が高ぶっていたのかもしれない」


 それだけ言うのが精一杯だった。一番傷つけたくない相手だったのに、このような結果に終わらせた自分が許せない。


 ラウドはルキウスを一人部屋に残し廊下へ出た。夕飯時で、階下からはにぎやかな声と食器のぶつかる金属音が聞こえる。暫く壁にもたれかかり、目の前のドアの向こう側にいるルキウスと過ごした時間を思い返していた。


(やはり、ここでルキウスとは別れた方がいい。そうすればルキウスは再びあの雑踏に紛れ、平凡だが安全な生活ができるだろう。それに…もう俺とは一緒にいたくないだろうからな)


 魔封じを外すことを決めた。ルキウスはもう十分魔術師としてやっていける。彼なら魔力を正しく使うだろう。魔封じの弱点は黙ってくれているとありがたいが、言われても仕方がないだろう。自分で蒔いた種だから、自分で刈り取らねばならない。


 ラウドは軽く息を吸うと、ルキウスの罵倒をあびるのを覚悟の上で、再び部屋に戻るべく扉に手を伸ばした。



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