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第3話 春の陽気に誘われて

「くーちゃーん、待ってよぉー♪」


「黙れ、着いてくるな」


「あっははー酷いなー♪」


「・・・本当は欠片もそう思ってないだろ?」


「うん♪」


「・・・はぁ・・・」



思わずため息をついてしまう。

・・・しかし今日会ったばかりのチビッ子にやけに懐かれ帰り道に着いてこられたら誰でも最初は疲れるだろう。

少なくても、俺はそうだ。


何故このようなことになったのか・・・始まりは今日の朝だった。




新学年も数日が経過し、クラスも少しずつ落ち着き始めた。


今日の朝のHRの時だ。

春日が入ってくるなり挨拶もさせずに口を開いた。


「突然だけどー・・転入・・・でいいのか・・?」


・・・はぁ?

挨拶もさせずに言いたいことがそれか?

他にも何人かわけのわからないと言った顔をしている。


「・・・うん、いいだろ・・・とにかく、このクラスに今日から転入生が入る!」


あぁ、そういうこ・・・何、転入生?

この時期に転入とは珍しい。


「ふふふ・・・聞いて驚くなよ、なんと帰国子女だ!」


いやなんでアンタが自慢気になんだよ。

が、確かに帰国子女とは・・・更に珍しい。


「色々ドタバタしてたらしくてな、こんな時の編入となった。・・・入ってきていいぞー」


転入生か・・・また少し落ち着かなくなりそうだ。


・・・がらら・・・


ん・・・どうやら入ってきたみたいだ。

ど・・ん・・・な・・・!?


「あー、自己紹介できるか?」


「はいっ!できます!」


・・・夢か?

いや、現実だ。周りも一様に驚いてるし。

・・じゃあなんで・・


「う・・とどか・・・な・・」


なんで・・・小学生がここに居る?


「あーあー、無理しなくていいぞー。書ける高さに書けー。」


「すっ、すいません・・・」



名前を書きおわったあと・・・そのチビッ子は元気よく言った。


「初めまして、紅谷巳琴こうやみことっていいます!よろしくおねがいします!」


「おーおー、元気いっぱいの自己紹介だな。」


「えへへ・・・ありがとうございます!」


全くもって微笑ましい光景だ。

わけがわからないけど。


「あー、恒例の質問・・・の前に必ず出る質問に答えてやろう。ふふ・・ズバリ、何故こんな小さい子が高校に居るのか?」


頼むから自慢気に言わないでくれ。


「この子・・巳琴ちゃんはあっちの国、アメリカで12歳にして高校に飛び級で入学した天才少女なのだ!」


・・・もう突っ込むのはやめた。

それにしても12歳とは・・・本当に小学生じゃないか。


「それである事情があってな。日本に帰国してそのままの学年でこの高校に・・・と言うわけだ。」


なるほど。

だけどよく転入できたな。

いくらなんでも小さすぎるぞ。


そのあとは恒例の質問タイムに入り他愛もない質問が幾つかされた。


「じゃあ巳琴の席は・・・・・しまった、用意してない。」


・・またこの先生は何やらかしてんだ。


その時先生と目が合ってしまった。

急いでそらした時には既に遅し。


「狗桜、机と椅子持って来い」


「な、なんで俺なんだよ!」


思わず声をあげる。


「なんとなくだ」


「なっ・・・!」


「それともなんだ。お前はこんな小さい子をいつまでも立たせておくつもりか?」


「ぐ・・・!」


「行ってあげろよー!」

「巳琴ちゃん可哀想・・・」


なんてやつだ・・・あっという間にクラスの大多数を味方にしやがった・・更に。


「フフッ・・・行ってさしあげたらどうですか?」


卯月さんにまでそんなことを言われた。

つーかその少し意地悪そうな顔はなんなんですか。


「・・・行ってくればいいんだろ。」

「よろしい。教材室にあるだろうから貰ってこい。」


「はいはい・・じゃあ行ってくるわ・・・」


と、教室を出ようとしたその時だった。


「あ、あのっ!」


先程から黙っていた巳琴が声をあげた。


「ん、どうした?悪いと思ってるなら気にすることはないぞ。」


なに、そうなのか。いいやつだな。


「ち、違います!」


違うのか。


「じゃあなんだー?」


「その・・くおうさん、に着いていってもいいですか?」


・・・予想外だ。


「えと、椅子くらいなら運べますし、ちょっと校内を見て回ってみたいですし・・・ダメでしょうか?」


「ふふ・・・勤勉なのはいいことだ!特別に許可しよう!」


「あ、ありがとうございます!」


「ちょ、ちょっと待て、何勝手に決めてんだ!?」


「職権濫用だ。」


「 」


余りに堂々と言い放たれた言葉に声も出ない。


「よし、では行ってこい!」


・・妙なことになったものだ・・・


ふと出口から見ると卯月さんが微笑みながら手を軽く振っていた。

あなた絶対楽しんでますよね?



小学生と高校の廊下を歩く。

この時点で滅多にない気がする。

しかも


「・・・」

「・・・」


互いに無言である。気まずくて仕方がない。


しかしあちらは初めて見る校内に興味深々でそちらに忙しいようだ。

そうこうしてるうちにいつのまにか教材室を通り過ぎていた。


「あっ!?」


「ひゃぁっ!?」


・・・いきなり大声を出してしまったせいか驚かせてしまったらしい。


「なな、なんですかいきなり?」


「わりぃ、通り過ぎてた」


「・・・え?」


「いや・・だから教材室を通り過ぎてたんだよ」


「あ・・・あぁ、そういうことですか・・・くすっ」


笑われてしまった。恥ずかしい。


「なんでずっと教室のほう見てたのに気付かなかったんだ?」


「へ? あ、あ、いやその・・・考えごとをしてて・・・」


言われてみれば・・・たしかに難しそうな顔をしてるのが見えた気がする。


「ま、いいや。さっさと机持ってこう。」


「はいっ!」


がらっ


教材室に入る。

様々な物が所狭しと詰められている。


「くそっ・・・狭いし」


「ホコリっぽいですねぇ。」


「・・・だな。」


言おうとしたことを言われてしまった。


部屋自体は狭いため、机はすぐ見つけられたが、上にかなりの量の物が積まれている。


「どかさなきゃ・・。」


「あ、オイ。」


小さいから狭い場所も動きやすいらしい。

次から次へと机の上のものがどかされていく。


「んっ、んしょっ」


背の届く範囲から片付けていこうとしてるらしく、本の山の中腹あたりを引き抜こうと


「っ!危ねぇっ!」


「・・え? きゃあっ!?」


山の頂上から落下してきた重そうな辞書をなんとか受けとめる。

と、思ったら咄嗟の動作とその辞書の重量が相まってとりこぼしてしまった。

結果的には少し軌道が逸れただけだが巳琴に当たることは回避できたようだ。


「ったく・・・、もっと気を付けろよ?」


「あぅ・・ごめんなさい」

・・・


「天才とか言われてた割には不注意なんだな」


「そ、そりゃ、なにもかも完璧な人間なんていません!」


「天才の部分は否定しないんだな」


「天才でもありません!」


「そんな大声で否定することないだろ・・・つーか、俺に頼むとかすればいいのに。」


「・・・」


何故か間があいた後、


「初対面の人に頼むなんて」


「なら机運ぶの頼むのは」


「あ、あれは先生が」


「・・まあいいか。とにかくもう俺が片付けるぞ。危なっかしくて任せられん。」


「で、でも」


「文句は言わせん。」


そう言って残りのものを片付け始める。

所詮は机の上だけの範囲なので早く終わった。


「おい、さっさと持っていくぞ。」


周りの物を物色していた巳琴に声をかける。


「・・・へ?」


「へ?じゃなくて、ほら、椅子くらいなら運べるんだろ?」


「あ・・はいっ!」


「なんか嬉しそうだな。」


「そんなことないですよぉー?」


隠し事は苦手なのだろうか。


「・・ま、いいか。早く椅子を持てよ。」


「わかってまーす。」


何故か上機嫌な巳琴は椅子を持つとさっさと出ていってしまった。


俺も机を持って出口へ向かった。


「早く戻りましょー!」


「ああ、意味もなく時間食っちまったからな。」


言いおわると同時に歩きだす。

そろそろHRも終わる時間だろう。

歩いていると、巳琴が急に口を開いた。


「・・あの」


「あ? なんだ?」


「くおうさんは・・私のことを年下だからって特別扱いしたりしないんですねっ」


「そりゃあ同学年だからな。」


「変わったひとだなぁ。」


「・・・ひょっとして、さっきからなんか嬉しそうなのはそれか?」


「・・わかっちゃった?」


「それだけ表に出せばな」


「・・ボクねー、子供扱いされるの嫌いなんだ」


そのまま喋り続ける。


「子供だから、厳しくしない。子供だから、可愛がる。アメリカの高校ではそんなひとばっかりでさー。」


「いいじゃないか、楽で。」


「よくないのっ。こっちは同じ立場で遊んだり、話したいんだもん。」


「まあ、わからないわけじゃないな。」


「でしょ? ・・・くーちゃんは最初からわかってくれて嬉しいなー。」


「待て、くーちゃんってのは何だ。」


「あだ名。」


「いやわかってるけど」


「ならいいでしょー?」


「よくない。絶対馬鹿にされる。」


「・・じゃあなんて呼べばいいのさー?」


「普通に名字とか名前を呼べばいいだろ。」


「つまんないー」


「なこと言われても・・・っと、着いたからその話はまた後だ。」


「はーい・・」


なんだか不服そうだが無視し、教室に入る。

そこでちょうどチャイムが鳴った。


「遅い!」


入った途端そう言われた。


「全く、机と椅子を運んでくるだけに何分かかる!」


「いや、アクシデントがあったりしてだな」


「ああ、もういい、さっさと空いてるところに机を置いておけ」


「・・ちっ」


弁論しても無駄そうだし意味もなさそうなので素直に従うことにする。


「あー、それからHRは終わりだ。挨拶もいい。」


先生はそう言うと出ていってしまった。

相変わらずいい加減だな


教室の後方があいていたため、そこに机をおき、すぐに自分の席に着いた。

あとから入ってきた巳琴も椅子を運びそのまま座った。

と、卯月さんが笑顔で話し掛けてきた。


「お疲れさまです。こんな時間かかるなんて…何をなさっていたんですか?」


「いや、本当にアクシデントがあったりしたんだ」


「どんなことが?」


「・・・辞書が降ってきたり」


「随分変わったことが起きたんですね。」


「ま、そんなわけです。」


言いおわると同時にちらっと巳琴のほうを見る。

・・・人が集まっていて見えない。


「やっぱり皆さん気になるんですね。」


「高校に小学生だからな。」


「ふふ、最近は面白いことが立て続けに起こって嬉しいです。」


「たしかに今日のは珍しいけど・・・他に何かあったっけ?」


「ええ、ありましたよ。」


「なんでそこで、笑みを浮かべながら、こっちを見ながら、言うんですか?」


「なんでもありません。」


気になるので問い詰めようとしたが・・・チャイムが鳴り一時限目が始まってしまった。

・・今日もよく寝るだろうな・・


・・・

・・


うん、よく寝た。

今日も有意義な一日だった。


欠伸をしながら帰る用意をしていると、卯月さんが話し掛けてきた。


「それでは、昇降口まで行きましょう」


「やっぱり今日も一緒に行くんですね」


「勿論です」


これに対しては少しずつだが、流石に慣れてきている。


「じゃあ行くか」


「はい」


一緒に教室の出口に向かう。

と、出た瞬間大きな声が響いてきた。


「あ、待って、待ってよー!」


無視して歩く。


「待ってって言ってるでしょー!」


段々声が近づいてる気がするが、きっと近くの誰かに対する呼び掛けだろう。


「無視するなーっ!」


その声と共に背中に衝撃が


「ぐッ!?」


「ボクを無視するから悪い!」


「・・だからっていきなり蹴るか?」


「うん。じゃあ、帰ろ?」


「・・・は?」


「だから一緒に帰ろって言ってるの」


「ちょっとま」


「初めまして」

反論しようとしたら卯月さんが急に出てきた。


「私は卯月楓と申します」


「え、あ、は、はじめ、まして」


面白いくらいしどろもどろだ。


「確か・・・巳琴さん、でしたよね?」


「は、はい!覚えててくれてありがとうございます!」


「私も、毎日狗桜さんと帰ってるんですよ。昇降口までですけどね」


「へぁ、そうなんですか・・・もてるんだねぇ、くーちゃん」


「そういうわけじゃないし!くーちゃん言うな!」


「・・くーちゃん・・」


卯月さんが反応しましたよ?

目が光りましたよ?

いやな予感がしますよ?


「違うのー?もててるんじゃないのー?」


「違うって言ってんだろ!」


「ホントにー?」


「はい、本当ですよ」


はっきり否定されるのもなかなか辛い。


「なーんだ」


あっさり引き下がられるのも何だか悲しい。


「話がずれてしまいましたね・・・よかったら、昇降口まで三人で行きませんか?」


「え、いいんですか?」


「ええ、貴方とも仲良くなりたいですしね」


「じゃあ、これからよろしくお願いします!と、いうわけでよろしく!くーちゃん!」


「・・反論はしていいのか?」


「だめっ!」

「駄目ですよ、色々な人と仲良くなるのはいいことですから。」


同時に却下されてしまった。


「・・・思わぬところで使えたりしますしね・・・」


「ん? 卯月さん何か言った?」


「いいえ? 言ってませんよ?」


「ならいいけど」


「それでは、行きましょうか」


「しゅっぱーつ!」


途端に賑やかになったなぁ・・・二人きりより気が楽になるかもしれない。


昇降口までは殆ど喋らなかった。俺は、だけど。

卯月さんと巳琴がずっと話していたからだ。

性格がかなり違う二人だが案外気が合うらしい。

昇降口に着き、卯月さんが口を開いた。


「それでは、私はここで失礼いたします」


「ふぇ? まだ昇降口だよ?」


「迎えの者がおりますので」


「へ、へぇぇ。すごいなぁ。」


「では、私はこれで」


「うん、また明日!」


「ああ、またな」


「さようなら、巳琴ちゃんに・・くーちゃん」


そう言うと足早に出ていってしまった。

くーちゃんと聞こえたのは幻聴だろう、うん。


「じゃ、ボクたちも帰ろっか?」


「待て、ここまでじゃないのか?」


「あ、そうなのー?」


「俺はそのつもりだったが」


「んー、まあ深く考えない!」


「お前、家はどっちだ?」


「ふぇ? あっちだけど」


くっ・・違う方面なら言い訳にして逃れられたのに!


「とにかく俺は一人で帰るぞ。」


そう言い放ち、靴を履きかえ、校門から出る。

予定ではそのまま一人で帰る・・・筈だった。

何故か巳琴が走ってまで追ってきたため予定どおりにならなかった。



そして今に至る。


「なぁ、なんでそんな追い掛けてくる?」


「くーちゃんが面白いから」


「そうか。俺は」


面白くない。そう言おうとしたら


「あっ、こっちじゃないのー?」


「あ? 俺はそっちの道じゃねぇぞ」


「そっかー・・ならここでお別れー」


「それは残念だったな」


「うん、少し残念。じゃー、またあしたー!」


「ああ、また明日」


・・ああ、ようやく解放された・・。

昨日は平穏を願ったのに早くもぶち壊されてしまった。

しかも今までは平穏だった下校まで壊された。

ここまでくると少し笑えてくる。

・・・せめて、せめてこれ以上壊されないことを願おう。

そんなことを考えながら帰宅するのであった。

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