第2話 春の静寂に誘われて
「ん〜・・・」
「にぃ〜さ〜ん!朝ご飯できたよぉ〜」
「ん、ん〜・・・後少し〜・・・」
春の朝の暖かな日差しの心地良さを感じたいがために俺は自分を呼ぶ声に従わず、惰眠を貪ることにした・・・だが、これが間違いであった。
バン!
「チョットにぃさん!!ご飯だって言ってるでしょー!」
「っ!!」
突如鼓膜を破らんばかりの怒声が俺の部屋に響きわたった。
「もうにぃさんってばいいかげん私に起こされないで一人で起きてよね」
「あぁ〜はいはい、わかったからそんなに怒るなよ凛〜」
少々ご立腹の声の主は俺の実の妹の狗桜凛だ。俺にとって家事全般を全てやってくれる凛はとてもありがたい存在である。
「いいから早く支度して朝ごはん食べて、にぃさんの所為で私まで遅刻したくないから」
「大丈夫だってまだ時間は十分にあるんだから」
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「遅刻だぁぁぁ〜!」
「だからあれほど速くしてって言ったじゃない!」
あれから俺がゆっくりと朝食を済ませ十分に間に合うように家を出たまではよかったのだが、授業で使う資料を忘れたり、携帯を部屋に置いてきたりそんなさまざまなアクシデントが俺たちを襲い今に至る。
「もぅこれで遅刻したらにぃさんの所為だからね!」
「大丈夫だ!まだ、走れば何とかなるはずだ!諦めるには早いぞ!」
ブロロロロ・・・・・キィ!
そのときなぜだか最近何処かで見た事のある黒塗りのベンツが俺たちの横を通り抜けたかと思うと前方二十メートルほどのところで停車した。
「狗桜さんじゃありませんかおはようございます。どうしたのですか?そんなにあわてて」
するとそのベンツから昨日知り合ったばかりの卯月さんが窓を開け声をかけてきた。
「あぁ卯月さんおはよう」
「ちょっとにぃさん急がないと遅刻する・・・ってにぃさん誰よその美人は!」
「ん?あぁ同じクラスで隣の席の卯月楓さん」
「狗桜さんの妹さんですか?始めまして卯月楓と申します」
俺が卯月さんの事を凛に紹介すると、すぐさま卯月さんが自己紹介を始めた。
「え、あ、い、妹の狗桜凛です。よ、宜しくお願いします」
それにつられるようにして凛も卯月さんに自己紹介をした。
「えぇ、宜しくお願いしますね凛さん。それで、どうしてそんなにあわてていらしたのですか?」
「ああ!しまった!おい凛急ぐぞこのままじゃ本当に遅刻しちまう!」
「え?ああそうだった!」
「あ、待ってください」
卯月さんの一言で自分たちの置かれている状況を思い出た俺たちは再び駆け出そうとした。すると駆け出そうとする俺たちを卯月さんが呼び止めた。
「なに?急がないと俺たち遅刻になっちゃうんだけど」
「それでしたら学校までご一緒しませんか?もちろん凛さんもご一緒に」
「え?いいの?」
「もちろんです。クラスメイトとして困っているクラスメイトを助けないわけにはいきませんから」
「そ、そう?じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな?」
突然の申し出であったがさっきのやり取りでとても走っていったとしても間に合う時間ではなくなってしまっていたので、素直にその好意に甘えさせてもらうことにした。
「決まりですね。さあ早く乗ってください。牛飼さん宜しくお願いしますね?」
「はい・・・」
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俺と凛は卯月さんの車に乗り込むと、牛飼さんという運転手の運転で学校まで送ってもらった。
「いやぁ〜本当に助かったよ卯月さんありがとう」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」
「もとはと言えばにぃさんが昨日のうちにしっかりと今日の準備をしておかないから卯月さんに迷惑かけることになっちゃったんじゃないのよ!少しは反省してよね。」
「ハイ・・・申し訳ありませんでした」
もし凛のいっていることが思い違いや誤解ならば何か言い返してやることが出来るのだが今回のことは全て俺の日ごろの私生活のだらしなさが招いた事態だったので素直に謝っておくことにする。
「まったくもぅ、昨日も準備して置いてって言ったじゃない、なのにどうして準備しておかなかったのよ」
「おっしゃるとおりで」
「仲がよろしいんですね?」
そんなやり取りをしているとふいに卯月さんがそんなことを言い出した。
「え?あ、いや」
「そんな事無いですって!このにぃさんの所為で私がどれだけ苦労しているか、むしろいなくなってくれた方がどんなに世のため私のためになるか」いくら俺が普段から凛に頼りっぱなしだからと言ってそこまで否定しなくたって
「ふふ、恥ずかしがらなくってもよろしいのに」
「べ、別に恥ずかしがってるわけじゃ、もぅいいです。それじゃあ私はこっちなんで、じゃあね、にぃさん」
「お、おう」
「あ、そうそう昨日この学校に入ってから出来た友達で面白い子がいたんだ〜。今度紹介するね?」
「そっかそりゃ会うのが楽しみだ。」普段から人付き合いが良く友達も多い凛が友達を紹介したいだなんていうんだからそれだけそのこのことを気に入っているんだろう。
「それじゃあね」
それだけ言うと凛は今度こそ自分の教室に向かっていった。
「では、私達も参りましょうか狗桜さん」
「え?ああそうだな、それじゃ俺たちも行くとしますか」
そうして俺と卯月さんも教室に向かって歩を進め始めた。
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キィーンコォーンカァーンコォーン
「ふぁ〜、やっと昼休みかぁ〜さすがに午前の授業はきついなぁ」
「午前中の授業はずっと寝ていたような気がいたしましたが?」
「え!い、いやぁ〜そ、そんな事無いですよ?ちゃんと起きてましたって」
「そうなんですか?」
「そうなの、さ、弁当弁当♪」
朝のあわただしい出来事以外はいつも通りの日々が過ぎていた。まぁようするにいつも通り眠って過ごしていたわけだ。
「あら?そのお弁当はまさか凛さんの手造りですか?」
「ああ、そうだよ。凛の奴あんなだけど料理うまいんだよ」
「ふふっ」
「?俺何かおかしな事言った?」
突然卯月さんが笑い出したので不思議に思ったのでその理由を卯月さんに尋ねてみた。
「やっぱり仲良いんじゃないですか」
「いや、だからそんなんじゃない・・・って卯月さん?」
「はい?」
「その机の上のご馳走は何?」
俺は卯月さんの回答に反論しようとしたがその前に卯月さんの机の上にあるこの学校にはあまりにも不釣合いなそのご馳走の方に気が行ってしまった。
「それは見てのとおりお弁当ですわ」
「見ての通りって・・・」
そこにある料理は一般家庭から見たらとても弁当とは言いがたいものばかりであった。こんな料理を弁当と言いさらにはお迎えまでいるなんて卯月さんっていったい何者?
「?どうかいたしましたか?」
「え?いや、なんでもないよ」
「そうですか、ではいただきましょうか」
「そ、そうだな」
なんとなくその疑問を卯月さんにぶつけてみたかったが、知ったからと言ってどうこうなるわけでもないだろうと思ったからあえてその疑問は言わないことにした。
そしてその後もいつも通り午後の授業を受け(眠り)、放課後になった。
「では狗桜さん行きましょうか」
「え?行くってどこへ?」
この後卯月さんとどこかに行く予定なんてなかったはずだったのでそんな事を卯月さんが言い出したので不思議に思い尋ねてみた。
「それはもちろん昇降口まで一緒に下校するんですよ」
「今日もですか?」
「はい、こういうことは毎日続けたほうがより良好な関係を築けると思うんですが、いけませんか?」
「いや、別にいけないということはないけど」
毎日となるとさすがに周囲からいらない誤解を生む可能性があるから少し迷ったが、その程度の事で何もこういった好意を断る理由にもならないと思ったので、否定はしないでおいた。
「それでは行きましょうか」
「あ、ああ」
結局今日も卯月さんと昇降口までという微妙な距離を一緒に下校することになった。
そしてそのまま、今日のことを話しながら靴箱までたどり着くと前方から聴きなれた声とショートヘアの美少女がこちらに向かって友達であろうと思われる女生徒とともに歩いてきた。
「あ、にぃさんそれに卯月さんも今帰り?」
「あぁ」
「ところでにぃさん、なんで卯月さんと一緒に帰ってるの?まさかにぃさん」
そういうと凛は小悪魔のような表情を浮かべてこちらを見てきた。
「な!ちっ違うって卯月さんとは昇降口まで一緒に帰るようになっているだけで、べ、別に付き合ってるとかそんなことはないからな」
「そこまで否定するなんて、私とそういう関係に見られるのがそんなに嫌なんですか?」
「え!いやそういうつもりで言ったわけじゃ・・・」
卯月さんがそんな事を言うものだから話がうまくつながらなくなり俺は何も言えなくなってしまった。
「あはは。冗談だよにぃさん、冗談本当にぃさんってばからかうと面白いんだから」
「うるさい!まったくいつもこうだ。ところで凛そのこは誰だ?俺の知らない子みたいだけど」
これ以上凛にいじられないようにするために俺は話をそらそうとした。
「え?あぁそうそう、この子が今日の朝紹介するって言った宮白美鳥ちゃん」
「・・・宮白美鳥です。」
「へぇ〜この子が朝言ってた〜よろしくな。ん?」
見た感じは普通の女の子っと言っても凛に負けないほどの美少女ではあったが凛が可愛い子と言うだけで俺に友達を紹介するわけはないので俺は疑問に思ったがその疑問はすぐに無くなった。
「なぁ凛、この子目の色青くないか?」
「うん、すっごいでしょ〜美鳥ちゃんハーフなんだって〜」
「へぇ〜だから凜は俺に紹介しようとしたわけだ」
「あの」
「ん?なに?」
凜が俺に美鳥ちゃんを紹介した理由に納得していると自己紹介以降一度も口を開いていなかった美鳥ちゃんが不意に声をかけてきた。
「・・・私、見世物じゃない」
「え?」
「私・・・外見で判断されたりするの嫌い」
「あ、あぁごめん」
確かに俺はさっきまで美鳥ちゃんのことをハーフだなんて珍しいなと思ってしまっていた。
「・・・わかってくれれば、良い」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
気まずい・・・何か、何か話題を〜
「あの美鳥さん?」
この気まずい雰囲気をどうにかできるような話題を探していると何の前触れもなしに突然卯月さんが美鳥ちゃんに話しかけた。
「・・・なに?」
「始めまして、私は卯月 楓と申します」
「卯月さん?」
何かちょっと嫌な予感が・・・。
「・・・どうも」
「私も貴方のことを外見で判断していました、すいません」
そういって卯月さんは頭を下げた。
しかし顔を上げると笑顔で口を開いた。
「ですが年上に対してそのようなことを言ってはいけませんよ?」
卯月さん・・・顔は笑っているのに背後に竜が見えるのは気のせいですか?
「・・・こういうことは・・・早めに言っておいたほうが良い」
「ですが、目上のものに対する言葉づかいは気にしなければなりませんよ?」
ま、まずいさっきよりもさらに場の雰囲気が・・・ええい!こうなったら!
「でも「スト〜〜〜〜ップ!」
「何ですか?狗桜さん今大事な話の途中なんですけれど」
「まぁまぁ卯月さん、さっきのことは全面的に俺が悪かったんですからもういいんだよ」
このままではさすがにまずいと思った俺は二人の会話を遮り止めに入った。
「ですが狗桜さんこのままでは」
「美鳥ちゃん、さっきは本当にごめん。そうだよ!やっぱり人間は外見よりも中身だもんね」
俺は出来るだけの笑顔を作ってもう一度美鳥ちゃんに謝った。
すると美鳥ちゃんは何故か少し顔を赤くしてつぶやいた。
「・・・もういい」
それだけ言うと靴に履き替え昇降口から出て行ってしまった。
「もう狗桜さん本当によろしかったのですか?」
美鳥ちゃんが出て行くと卯月さんが不満そうにそういってきた。
「いいんだよ。さっき俺美鳥ちゃんの事ハーフなんて珍しいなって思っちゃてたから」
「まぁ狗桜さんがそれでよろしいのでしたらかまいませんけど、では私も迎えのものが来ておりますのでこれで失礼しますね。また明日お会いしましょう」
そういうと卯月さんも昇降口から迎えのものつまり牛飼さんの運転する車へと向かっていってった。
「ふぅ、どうなることかと思った」
「にぃさんよく止めに入れたねぇ〜私なんて二人の後ろに竜虎が見えてとても間になんて入れなかったよ〜」
「俺だって半ばヤケだったよ。あのままにしておくわけにもいかなかったからな、しかし今日は慌しい日だったなぁ」
本当に慌しい日だった。朝遅刻しそうになったと思えば卯月さんの車に乗せてもらって、昼には卯月さんの明らかにその場に不釣合いな弁当を見せられたり、挙句には凛の友達の美鳥ちゃんと卯月さんのすさまじい討論を見せ付けられたりと今までの日常からは想像も出来ないようなことばかり起きた一日だった。あぁ俺のあの平穏な日々はどこに行ったのだろうか。
どうか明日からは今まで通りの静かな日になりますように。そう願いながら俺は凛とともに今日も帰路につくのであった。




