第9話 ご利用は計画的に
「魔法弾ってのはどうだろう?」
俺は森の中でピストルを取り出して言った。
「……にゃんの話?」
「いや、技名だよ。魔法でピストルの弾を出すから、魔法弾。カッコイイっしょ?」
「にゃ……」
聡子は銀色の毛を逆立てて言った。
「ニャにを悠長なことを言っているニャー! ちゃんと敵を狙うにゃ!」
「あ……そっか」
葉陰から、白骨がこちらを覗いているのだった。
イイ感じの技名が思いついたのでつい放っておいてしまった。
コキ……コキキキ……
敵が向かってくる。
しゃれこうべに表情は見えず、不気味な鼻の空洞、むき出しの歯並びが超然としている。
あいかわらず振りかざす棒っ切れにのみ敵意が集約されていた。
「イメージ、イメージだ」
昼でも森の中は薄暗い。
倒木を踏み越えて来る骨の空虚な足音。
油断して痛い目を見たことを思い出し、俺は集中力を高め直す。
うん。
胸の奥に、抽象的だが確かなるエネルギーがわずかにたまっている。
銃口を敵へ向けた。
引き金にかかる指がかすかに汗ばむ。
あせるな。
昨日、岩に穴を空けた“あの感覚”を思い出して――
……いける!
「らッ……!!」
ガチッ。
胸から指先へ、衝撃が弾ける。
空気が震え、魔力の“弾”が白骨へ向かってまっすぐ飛んでゆくのがスローモーション的に知覚される。
パッ……と木漏れ日に粉のようなものがきらめくのが見えた。
刹那、硬質な破砕音。
コキ!……コキキ!(汗)
目を凝らすと、骨の胸部が一部砕けているらしい。
よし、命中だ!
白骨は数秒フラフラと彷徨った後、地面へ膝を着いた。
「……や、やったか?」
と思った時。
ギギギ……と骨の軋む音が聞こえる。
まさかと思っていると白骨はゆっくりと起き上がり始めていた。
「えー、当たったのに!?」
「今にゃ! 弱っているニャー!」
師匠がそうおっしゃる。
弱った白骨ならもう怖くない。
あとは軍刀を抜いて、一撃のもと敵をのしたのだった。
「うーん、ダメージは入ったけど一発で倒しきれなかったなー」
俺は六角石で白骨を肥料化しつつぼやいた。
「一発撃ったらしばらく撃てないし、火力も全然不足だ」
「仕方ないにゃー。魔力1ではこれくらいニャ」
「魔力が増えれば火力も上がるのか?」
「もちろんニャ」
聡子が言うには、自分の総魔力をいくつ消費して一つの魔術を成立させるかは、コントロールできるようになるという。
例えば10魔力があれば、一発の魔法弾で魔力を2消費することも、3消費することも……はたまた一気に10すべてを消費することもできるってこと。
もちろん一度での消費量が多ければ多いほど威力は高いが、使える魔法の回数も少なくなる。
「ご利用は計画的に、ニャ」
うるせーよ!
でも、魔力10あったらいろいろ配分できて面白そうだなぁ。
今のところふしぎなタネは6つだし、これらをまだ食べるワケにもいかないから、魔力10なんて夢のまた夢って感じだけどさ。
◇
あれから。
六枚に増えた畑から咲く花は相変わらずどれも美人で、儚く、そして――みんな最期には種を残してくれた。
土レベル10の畑一枚で、種が二つ生じる確率はわずか10%だ。
しかし、六枚の畑で、それぞれ咲いて、枯れて、種が残る……のサイクルがまわれば確率はすぐに100%へ収束する。
種は一つ増え、また一つ増えとしていった。
でも、拾うたびに思うんだよね。
……食べちゃおうかなーって。
だって、この種は食べれば魔力が増えるふしぎなタネなのだ。
魔法弾という素晴らしいネーミングの魔法も会得したわけだし、今すぐその威力、使用回数を少しでもあげてみたいという欲求がヤバい。
でも――
「今日より明日なんじゃあああ!」
「にゃにゃッ……!?」
そう思い直しては、俺はまた新たな畑を耕すのだった。
繰り返すけど、棒っ切れで5m四方の畑を新しく耕すのは結構しんどいんだぜ。
なんたって猫も認める荒地なんだからな。
腰は痛いし指はすぐボロボロになる。
それでも、その価値はあるのだ。
畑が七枚、八枚と増えていくってことは、それだけ種が増える確率が上がるということ。
種が増えれば、畑を増やすことができる。
畑が増えれば、また種が増える確率上がり……という正のスパイラルこそこの農園の強みなのだから。
そう。
だからこそ、食べるワケにはいかないんだ。
「でも、やっぱ食べちゃおうかな」
「意志薄弱な男にゃー」
「なぬ?」
結局、種は食べなかった。
すべて新たな畑に植えては、またひたすら新たな畑を耕していくのみ。
その甲斐もあって、スパイラル上昇は実現!
……気づけば畑は二十枚に達していた。
次回更新、明日7時10分




