第8話 みた?
一番新しい畑で枯れた花が種を二つ残してくれた。
「二つだ! 増えてるッ!!」
双子のような種たちが、ふかふかな土の上で横たわっている。
そう。
これでやっと、ふしぎなタネが増えたことになる。
この農園の初めての収穫ってワケだ。
「で、どうするニャ?」
「うーん。増えた分は食べちゃおうかなー」
と、食べかかるが……ちょっと待て。
ここで1つ食べてしまうのと、植えて育てるのでは、将来の種の個数がずいぶんと違ってきそうだ。
「あわてて食べてしまうのは悪手。畑を増やして植えたほうがいい」
「そういうものかニャー」
こうして、俺は増えた種を植えてあげるため、六枚目の畑を耕し始めた。
そういや冷静に考えると――
今、魔力1を2にしたところで使い道ないんだよね。
俺はあの魔力1のコントロール練習にも苦戦しているんだから。
「むむ、戻ってきたぞ」
その時、胸の中に魔力が回復してきたのを感じる。
農作業の手を止め、集中をはじめた。
「むむむ……(汗)」
が、このままじゃダメだ、という感覚だけが先に来る。
「むむむむむむ……!!!」
「キサマ、前から気になっていたのニャけど……」
と聡子。
「それ、なにをしているニャ?」
「ふふふ。凡人……いや凡猫にはわからんだろーけどな。これは魔力をコントロールしようという修業なのだ。スゴイだろ?」
「にゃ、にゃんと……」
聡子は目をぱちくりさせて黙った。
おそれいったようだな。
「すまニャい。あまりにへたっぴだから、新しい遊びかと思っていたニャ……」
「……なッ!?」
悪口か?
いや、まったく悪意が感じられない。
それでは本当に俺がへたっぴということになってしまうじゃないか!
「いつも無駄に魔力を放出しているだけニャー。あれじゃあ何の意味もニャいぞ」
「でも、エネルギーみたいなのを身体の中で動かそうとすると勝手に出て行っちゃうんだよ」
「にゃんで身体の中で動かそうとするニャ……」
「……え?」
「見ているニャ」
聡子の背中の毛がふわりと逆立ち、そこから“見えない圧”のようなものが空気を震わせた。
その圧は、すぐに具体的な事象となって現れる。
ふいに彼女の頭上に小さな雨雲みたいのがあらわれ、ツイーっと移動して畑に軽い雨を降らせると、すぐに消えた。
「スゴ……それ、魔法なんか?」
「えっへん。当たり前にゃ。我は魔力を持った猫なのにゃ」
そういやそうだった。
そもそも猫がしゃべってるって時点で魔法みたいなもんだもんな。
「魔力を意味なく動かす必要はないニャ。大事なのはイメージにゃ。抽象的な魔力エネルギーを具体的にどんなパワーに変換して放出するか。そーいうのを全部頭に描いてから魔力を動かし始めるニャー」
にゃーにゃー言ってるクセにすげー論理的な指導であった。
スゲーわかりやすい。
「でも……意外とムズイな」
そりゃゲームや小説じゃ魔法なんて散々登場するけどさ。
現実で自分がやるってなると話は全然別である。
魔法で火や水を出すだなんてあまりに非現実的でイメージしづらいのだ。
「イメージ、イメージ……あ、そうだ!」
いいものがある。
俺は小屋へ戻ると、引き出しから一丁の拳銃を取り出した。
「にゃに? それ」
「まあ、見てろって」
再び外へ出ると、俺は農園の端にある大きな岩へ向かって拳銃を向けた。
もちろん弾は入っていない。
が、イメージの補助としては最適だろ?
俺はそのまま引き金を引いてみた。
「ばッ……きゅーん!!!!」
しーん……
「にゃー?」
猫の冷えた眼差し。
俺は顔がカッと熱くなるのを感じる。
「真面目にやるニャ」
「う、うるせーよ(泣) ちょっと失敗しただけだって!」
軽く咳払いをすると、また集中力を高める。
深呼吸。
今度失敗したら羞恥心で夜逃げしなきゃいけなくなる。
……イメージ、イメージだ。
ガチッ!
引き金を引く。
すると、今度は胸のエネルギーが指から拳銃へ向かって放出され、『弾』となって射出されるのが明瞭に意識された。
カーン……と、硬質な音が響く。
岩に命中したのだ。
「それにゃ!」
できた、のか?
岩を確認するとそこには10円玉くらいの大きさの穴がしっかりと空いていた。
「わーい! やったー!」
子供のように飛び跳ねて喜ぶ。
指にはシビれが残っていて、自分の力で岩に穴を空けたという事実を強調している。
そう。
俺は初めて魔法を使うことに成功したのだ。
「聡子、みた?」
「うむ。我の弟子なら当然だニャー」
「……って、いつ俺が弟子になったんだよ!」
「にゃー?」
まあ……
成功は聡子のおかげだけどな。
「魔力が貯まったら白骨に試してみるにゃ。いいニャ?」
おー、そりゃ楽しみ。
猫がなんか威張っているので、俺はため息をついて「わかりましたよ、師匠」と答えておいた。
次回更新、今日19時10分




