第6話 ひゅるるるる……
「荒地だにゃー」
猫は正直である。
聡子は俺の肩から降りると、しっぽをツーンと立てながら農園を見まわした。
「始めたばっかなんだよ。まあ、見てろって」
俺は手に持っていた六角石をそっと掲げた。
こいつには倒した白骨5体分の素材が蓄えられている。
「青ボタンを押すんだったか……」
ピッ。
六角石が光り、ぱあっと粉雪のような輝きが農地に降り注ぐ。
白骨の残骸とは思えないほど神秘的だ。
鑑定の水晶をかざす。
――――――――――――――
土レベル:10
肥料グレード水準:F
――――――――――――――
「……おお。ちゃんとレベル10だ」
「にゃにゃにゃ!? ちょ……ちょっとはマシになったのニャ」
聡子が驚く様子を見るに、このアイテムはやはり尋常なものではないらしい。
ちょっぴり溜飲を下げた俺は、次にポッケからふしぎなタネを取り出した。
「ええと、5m×5mの農地の真ん中に人差し指の第一関節程度の穴を空けて……」
ひいじいさんの攻略本を片手に、穴の中へ種をそっと置いた。
……よし。
土を軽くかぶせて、指先で整える。
植えただけだけど妙に期待値上がるわ。
「どんな花が咲くんだろ」
楽しみー。
まあ、マンドラゴラみたいなのだったら嫌だけど。
「……あれ?」
気づいたら、聡子の姿がない。
さっきまでそこらをうろついてたのに。
帰ったのか?
「……まあ、猫なんて気まぐれなもんだしな」
ひゅるるるる……
農園に物悲しい風が吹く。
生意気なヤツだったけど、いなくなるとちょっとだけ寂しいかもしれない。
……ちょっとだけな!
ところで。
さっきひとつだけ変なところに気付いたんだよ。
俺はもう一度、鑑定の水晶を土に向けた。
――――――――――――――
土レベル:10
肥料グレード水準:F
――――――――――――――
「……うーん?」
白骨は5匹倒したはずだ。
今朝は6レベルだったんだから、6+5で合計レベル11になってるはずじゃねえの?
俺は攻略本を手に取って、ページをめくる。
『Gグレードの肥料で上げられる土レベルは10が限界じゃ。土レベル11以上にするには、Fランク以上のモンスターを倒して肥料を作る必要があるぞい』
なるほど、白骨はGランクのモンスター。
こいつの肥料じゃ何匹倒そうがレベル10止まりってワケだ。
『ちなみに、土レベルをレベル20まで上げると種が増える確率は20%に増える。つまり強いランクのモンスターを倒せばそれだけ良いグレードの肥料を生成でき、種が増える確率を増やしていけるワケじゃが……決して無理はするな。ヒロト、お前は弱いんじゃからのう』
別に弱くねーよ!
俺はフツー。
ひいじいさんが鬼みてーに強かっただけだ。
だが……
無理しないってのは賛成だな。
攻略本によるとFランクのモンスターってのは最低でも成人男性4人分の強さがあるらしい。
もちろん、刀があれば倒せるかもしれない。
でも、倒せるというのと、安定して倒せるというのは違う。
肥料として狩るってなると1戦や2戦ではすまないから不測の事態も起こる。
さっき白骨が一度に2体あらわれた時のようなトラブルが起きても対応できるだけの戦力差をつけておく必要があるワケだ。
つーか……
正直今のところは白骨以外とは戦いたくない。
怖いしね(汗)
じゃあ農園開発は頓挫かと言えば、そうではない。
そう。
強いモンスターを倒す勇気がないなら、畑を耕して増やせばいいのだ。
質より量。
現状、5m×5mの畑は最初から耕してあった一枚しかない。
だから4つの種が植えれずにあまっているんだよね。
つまり農地をあと4枚耕せば、合計5枚の農地で同時に種を育てることができるってワケだ。
そう考えると、俄然やる気が出てきたぞ。
「よっしゃ、農業すんべ!」
とはいえ、あいかわらず農具の無いブラック農業である。
今日も森に落ちていた枝を拾い、根性で耕していく。
「……ぜぇ……ぜぇ……」
つーか、ヤバすぎだろ。
時間もかかりすぎだ。
そうボヤきながらも、俺は黙々と石を拾い、雑草を抜き、硬い土を耕しまくった。
そして夕日の沈む頃。
ようやくもう一枚の農地が完成した。
「ぜーぜーぜー、こんなもんでいいだろう」
ためしに農園鑑定の水晶で見てみると、ちゃんと『土レベル:5』とある。
よっしゃ。
こうして出来上がってみると、なんだかいくらでも作れそうな気がしてくる。
ずらーっと畑並べてさ。
こりゃ大農園も夢じゃないじゃねーわ。
と、調子に乗った瞬間……
ふっと腰が抜けた。
まるで身体が泥に沈んだみたいだ。
「ま……また明日だな。夜は危ないし」
そう自分に言い聞かせて小屋へ戻った。
疲れ切った身体を水で濡らしたタオルで拭く。
「ふぅ、つかれ……」
そうぼやいて上がり框を上がった瞬間。
「……お?」
ひいじいちゃんの座椅子の上でぐーぐー眠っている小さいのがいた。
聡子である。
「ぷっ、ククク……やれやれ、のんきなヤツだ」
とため息をつきながらも頬がゆるむ。
それから、元の世界から持ってきたリュックを探った。
「これでいいかな?」
俺はマフラーを取り出すと、聡子の身体へそっとかけてやった。
「にゃ、にゃん……♡」
寝言はさすがに猫語のようである。
なんて言ってんのかな?
ところで。
銀色の猫と座椅子を眺めていて、ふと思ったんだが……聡子とひいじいさんはどんなカンケーだったんだろ?
好んでこの座椅子で丸くなっているところを見ると結構長い付き合いだったのかもしれない。
「ふぁあああ……」
眠る猫を見ているとこっちまで眠くなってくるな。
軽く背伸びをしてドサっと座り込むと、畳のやさしさが余計にまどろみを誘う。
……俺もちょっと寝るか。
座椅子の半分を借りて枕にすると、銀いろの毛並みがふわふわと頬にふれる。
「明日も頑張ろ……」
身体は疲れていたけど、ちょっとだけの寂しさは消えていた。
次回更新、本日12時10分




