第5話 見ない顔だ
何が起こったかわからない。
わかっているのは肩の痛みと、自分がダウンしているという結果だけ。
攻撃が失敗したのか?
いや、さっきの白骨は確かに突きでフラフラしている。
じゃあ今の一撃は……
「……もう一匹!?」
そう、木陰に白骨の影がもうひとつ。
そいつにやられたのだ。
コキ、コキキ……
「うわッ!」
白骨が棒切れを振り下ろし、土が跳ねる。
あと数センチずれていたら頭にぶち当たっていただろう。
俺は地面を転がりなんとか距離を取り、軍刀を拾いながら立ち上がった。
視界が悪い。
おぼえず、木の枝が頬をかすめる。
肩は?
鈍い痛みが残るがなんとか動きそうだ。
落ち着け。
まずは突きだ。
「とおッ!」
もう一匹へ真っ直ぐ突きを繰り出す。
ヒット!
これで両方とも動きが鈍った。
よし、なんとかなるぞ!
あとはトドメだ。
一匹ずつ確実に斬り倒していく。
「はァはァはァ……ちょっとヤバかったな」
2匹いたのに気づかなかった。
油断してたのかな、俺……
上がる息を整え、そんな反省をしていた時だ。
……ガサガサ!
背後で森の葉擦れが響く。
ヤバい、勘弁してくれ……!
「ニャー!」
ビビって振り返るが、あらわれたのは一匹の猫だった。
「って、なんだ猫かよォ」
恐ろしいモンスターとかじゃなかったことにホッと安堵しながらも、ちょっぴり心癒される。
銀いろの毛並みに、宝石のような美しい瞳。
可愛い……♡
俺は猫をなでようと指を伸ばした。
「人間! キサマ見ない顔だニャー」
「……はい?」
指が止まる。
おかしいな、猫がしゃべっているように聞こえたんだが……そんなはずないか。
「森の木たちが『男が森で暴れまわっている』と噂していたニャ。キサマだニャ?」
いや、しゃべってる!?
どう見てもしゃべってるじゃん!
「へ、へえ……(汗) 異世界って猫もしゃべるんだな」
「ワケのわからないことを言うにゃ! 猫がしゃべるワケないニャー」
「……?」
ワタシ日本語ハナセマセン……みたいな矛盾を感じるぞ。
「我は魔力を持つ特別な猫なのニャー。フツーの猫はニャーニャー言っているだけなのにゃ」
「お前もニャーニャーは言ってるじゃんか」
「むっ……うるさい! キサマ、よそ者のクセに偉そうなのにゃ! 我はこの森の主なのにゃ! もっと恐れ入るのニャー!」
小さな前脚をツンとあげてなんか威張ってやがる。
「よそ者じゃないよ。この森にある農園に引っ越してきたんだ」
「にゃ、にゃに……!?」
俺はひいじいさんから土地を相続して、これからふしぎなタネの農園を作っていこうとしている経緯を話してあげた。
「キサマ、千蔵のひ孫にゃ?」
「ひいじいさんを知っているのか?」
「うむ。ヤツは我の前にこの森の主だったからにゃ。しかし、森と比べて人間の寿命は短すぎる……。それで我に主をやれと言ってきたのニャ」
「それで引き受けてくれたってワケか?」
「うんにゃ。面倒だから断った」
えー……
「しかし、千蔵は我に名前をくれるというのでにゃ。それでやむなく主になったのニャー」
「名前? そんなんで?」
「当然だにゃ。我はずっと名前が欲しかったのにゃ。名前は名付ける者がいなくては付かない。それも誰でもよいというワケでもにゃい。千蔵ほどの男が名付けるなら申し分ないからニャー」
よくわからんけど……
名前の無いヤツにとってはそんな感じなのかもな。
「で、ひいじいさんはお前をなんて名付けたんだ?」
「うむ。我が名はサトコという。よい名だニャー」
死んだひいばあさんの名前じゃねーか。
サトコ……聡子な。
「ヒロト。キサマ農園をはじめると言っていたにゃ。我に見せてみるにゃ」
「えー、マジで……?」
聡子はしなやかな身体を跳躍させて、バランスよく俺の肩に乗った。
「おい、何勝手に乗ってんだよ!」
「にゃーん♪ なかなかの肩だにゃ。千蔵とそっくりニャー」
自分勝手なヤツだ。
……まあ、いいか。
エラそーでも嫌な感じはしない。
黙っていれば可愛いしな。
「連れてってやるけど……ジャマすんなよ」
銀色の毛並みをサラサラと撫でてみせると、聡子は機嫌よさげにニャーンと鳴いた。
次回更新、明日朝7時10分




