第3話 やるしかねー
「ぴぎゃああああ!」
やっと悲鳴が出てくれた。
ひどくマヌケな声だけど、無理もねーわ。
森から白骨が歩いてくるんだから。
コキコキ……カコキキ……!
森の静寂に、骨の音だけが響く。
そいつは棒切れをゆっくり振り上げ、暗い眼窩がまっすぐ俺を向いていた。
「ムリムリムリムリ!」
思考が固まる前に、身体が勝手に小屋へ逃げていた。
「ぜー、ぜー、ぜー……」
……ドンドンドン!
外から戸を叩く音がする。
窓側の隙間からそーっと覗いてみると、白骨が棒っ切れで小屋を叩いているのが見える。
その一撃が柱に当たるたびに木くずが散り、家が揺れた。
怖ぁっ……。
白骨なのも怖いけど、あの棒っ切れが妙に恐ろしい。
そのへんに落ちていそうな棒だが、あれを振りかざしてくるところに明確な敵意があらわれているのである。
でもまあ……ちょっと冷静になって見てみれば動きはのろい気がするんだよなあ。
パワー感もないし。
だからすぐに戸をぶち破ってくるようなことはなさそうだけど、このままずっと叩いていたらわからないし、少なくとも小屋が痛むだろう。
ヤツは思ったよりしつこい。
もし夜まで続いたら……そう考えてゾっとする。
なんとかできないもんか?
俺は震える指で、ひいじいさんの攻略本を開いた。
周辺モンスターのページに、白骨のスケッチ付きの項目がある。
つーか、絵うまっ。
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アンデッド
強さGランク(成人男性0.8人分)
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俺はれっきとした成人男性だ。
……やれる、か?
ページをめくると『はじめての戦闘では』という章があった。
『戦闘には武器が重要じゃ。箪笥の一番下を見よ』
そう書いてあるので確認すると、引き出しの中に軍刀とピストルがあった。
『ピストルの弾はない。全部使ってしまったのじゃ。モンスターは刀でもって滅ぼせ。ワシが魔王竜を倒した時に使った業物じゃぞ!ひょっひょっひょっ』
軍刀か……
白骨の武器はただの棒切れだ。
それを考えれば、かなりのアドバンテージだろう。
でも俺はどこにでもいるごくフツーの一般人なのである。
当然、真剣なんて触ったこともないんだが?
そんなことを考えていると、
――ドンッ! ドンッ!
小屋が大きく揺れた。
白骨が戸を叩く音がさっきより荒々しい。
暴力を象徴するような棒切れの乾いた響き……
ひどく神経を削ってくる。
「もし小屋が壊されたら……逃げ場なんかねーぞ?」
……やるしかねー。
とは言え正面から行くのは怖すぎる。
俺は白骨がいない裏口から、息を殺して外へ出た。
そーっと土を踏む。
回り込むと、白骨は相変わらず小屋を叩くのに夢中だ。
……頭は、良くなさそうだな。
刀を抜く。
巌流島の例が頭をよぎるが、鞘は邪魔なのでそっと地面に置いた。
音を立てずに、忍び足で近づいていく。
心臓の高鳴り……
白骨はまだ気づかない。
俺はその後ろからシンプルに剣を振りかぶった。
――今だ。
「らッ……!」
不気味な手ごたえだった。
箒で硝子を粉々に割ってみせたような、脆い感触。
気づくと、白骨はバラバラになって地面に崩れていた。
「やったのか?」
散乱する白い骨をしばらく見守る。
……動かない。
倒したのだ。
瞬間、本能的な勝利の実感で胸が熱くなり、すぐ後に安堵が訪れた。
「ふーッ(汗)」
鞘を拾い、刀を収めると、次第に冷静さが戻ってくる。
そういえば……
これが肥料になるんだったよな。
俺は小屋へ戻り、攻略本を開いた。
『モンスターの肥料化アイテムは箪笥の一番上の左じゃ』
と記載。
……これかな?
引き出しには六角形のアイテムが入っていた。
名前は六角石。
まんまだな。
「ええと。倒したモンスターの上に石をかざして赤ボタンを押す」
すると、白骨の残骸が美しい光の玉になって、六角石に吸い込まれていく。
浄化されたみたいな?
ちょっと感動的だ。
『赤ボタンで吸収、青ボタンで肥料化じゃー!』
ってことは、次は青ボタンだな。
さっき耕した5m×5mの畑へ向ける。
キラキラとした光が、畑へふわっと降り注いだ。
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土レベル:6
肥料グレード:G
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おー、上がってる。
白骨一匹で1レベル上がるのか。
アイツなら倒せそうだし、探しに行こうか……
いや、もう暗いな。
日はまだ完全に沈んではいないものの、森の闇は影を深くし、不気味な沈黙をたたえていた。
暗い中でヤツと戦うのは不利だろう。
「明日は農業じゃなくて……狩りだな」
俺はそうつぶやいて小屋へと帰った。
次回更新、明日朝7時10分




