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天魔の血脈  作者: 黒ひげの猫
王都断罪編②
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57話 竜の後継者

 まさか、レオンがここまで成長するとは――。

 ファウストは思ってもいなかった。


「マジかよ……」


 斬り落とされた魔獣の首を見つめながら、ファウストは小さく呟く。

 受け身訓練を終えたレオンなら、あるいは――とは思っていた。

 だが、本来はただの気分転換のつもりだった。

 この森は、魔王イリスが一切管理していない危険地帯だ。

 ここに住み着く魔獣はどれも魔力量が高く、下手をすれば上級魔人を超える力を持つ個体すら存在する。

 レオンの成長具合を確かめられれば、それで十分だった。

 だが、まさかあのタイミングで現れた魔獣が、例の上級魔人クラスだったとは。

 完全に想定外だった。

 とはいえ、これも何かの縁だ。

 危なくなれば、助ければいい。

 実際、戦闘が始まった直後に一度だけ手を貸した。

 だが、それだけだ。

 レオンは大きな怪我をすることもなく、あの魔獣を打ち倒してみせたのだ。

 ファウストは、魔獣の死体のそばに座り込んでいるレオンへ声をかけた。


「大丈夫か?」


 肩で荒く息をしながら、レオンは答える。


「つ、疲れた……」


「ははっ! そりゃそうだ。よく頑張ったな」


 急激に増えた魔力量に加え、初めて血を操る魔法まで使ったのだ。

 疲弊するのも無理はない。


「……合格だな」


 ファウストはそう呟きながら、レオンへ回復魔法を施した。


「合格って、なんのことだよ」


「忘れたのか? アリアドネが言ってたこと」


 その言葉に、レオンの体がピクリと反応する。

 目を大きく見開き、ファウストを見上げた。


「そ、それって……」


 先日、レオンは魔王城の管理を務める大精霊アリアドネから、“近いうちに死ぬ”と宣告されていた。

 その運命を覆すため、ファウストの厳しい訓練に耐えてきたのだ。

 期待に満ちた瞳が、まっすぐファウストへ向けられる。


「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」


「よ、よかった……」


 レオンはそう呟くと、今まで張りつめていたものが切れたように、ふっと力が抜け、そのまま疲労に負けるようにして眠りへと落ちていった。





「あら、ずいぶん見違えたじゃない」


 ファウストは眠りについたレオンを抱え、魔王城の外へと戻ってきた。

 城門の前では、何やら準備で慌ただしく動き回るローザ、イリス、そしてアリアドネの姿がある。

 三人は興味深そうにレオンの寝顔を覗き込んだ。


「コイツの成長速度は異常だな」


 ファウストはそう言いながらレオンを地面へ横たえ、袋状の魔道具の中からレオンが倒した魔獣の死体を取り出す。

 ドサリ、と重い音を立てて魔獣の巨体が地面へ落ちた。

 無駄な斬り口のない綺麗な断面。

 三人は思わず目を丸くする。


「この魔獣は……誰が?」


 ローザが呟く。

 そして、ゆっくりとレオンへ視線を向けた。


「まさか……レオンが?」


 イリスは信じられないといった表情で、魔獣とレオンを交互に見比べる。


「そうだよ」


 ファウストは肩をすくめた。


「だから言ったろ? コイツの成長速度は異常だって」


「……ほう。上級魔人級の魔獣を倒すとはな」


 アリアドネは転がる魔獣の首を見つめながら呟いた。


「レオンは、もう大丈夫なんだろ?」


 ファウストが確認するように問いかける。


「……あとは、認められるだけじゃな」


 アリアドネはそう言って、ゆっくりと夜空を見上げた。


「今夜、生まれるぞ」


 その言葉と同時に遠くの空から、低く長い咆哮が響いた。


 ――グォオォォォオオオォォォ……


 まるで夜空そのものが震えるかのような、巨大なドラゴンの咆哮。

 その声に呼応するかのように、魔王城の周囲の空気がわずかに震える。

 この場にいた全員が、同時に空を見上げた。

 

「行こう。ヴァルグリムが呼んでおる」


 目を覚ましたレオンを連れ、ファウストたちはその咆哮のもとへと向かった。

 そこには、一頭の老いた黒いドラゴンが佇んでいた。

 まるで遠い場所へ消えてしまった主を探すかのように、空を見上げている。


「ヴァルグリム……」


 イリスがその名を呼ぶと、ドラゴンはゆっくりとこちらへ顔を向けた。


「ごめんなさい。最期に、あなたの主に会わせてあげることができなくて」


 イリスの声は、どこか沈んでいた。

 するとヴァルグリムは、まるで落ち込むイリスを慰めるかのように、静かに顔を寄せた。

 

「ありがとう。ヴァルグリム。あなたの後継をこの子に任せようと思うの」


 イリスはヴァルグリムの頭を撫でながら、レオンに手招きをする。

 戸惑いながらレオンはイリスたちのもとへ向かうと、ヴァルグリムはレオンの匂いを嗅ぎ始めた。


「な、なぁ……これって」


 呼ばれて来てみれば、ドラゴンと急接近している今の状況にただただ困惑しているレオンは、助けを求めるようにイリスに視線を向ける。


「大丈夫よ。食べるつもりなんてないわよ。今、アンタとの相性の確認をしているの」


「相性? 確認? なんのことだよ」


「いいから。静かにしてなさい」


 するとヴァルグリムは満足そうにレオンから離れ、次はレオンが持っていた袋状の魔道具へ鼻先を向けた。


「レオン。アンタがさっき倒した魔獣を見せてあげて」


 イリスはレオンから魔道具を受け取り、その中から先ほどの魔獣の死体を取り出す。

 上級魔人に匹敵する魔獣の死体を見て、ヴァルグリムは満足そうに小さく唸り声を上げた。


「……そう。もう、いいのね」


 イリスが静かに呟く。

 するとヴァルグリムはゆっくりと立ち上がり、月明かりを浴びながら城の近くに聳え立つ巨木の幹へ体を預けるように腰を下ろした。


「レオン。あなたは今日から、これから生まれてくるドラゴンの主になるの」


「ドラゴン……の?」


 レオンは戸惑いながら聞き返す。


「……だから、最後まで見届けなさい」


 イリスは静かに続けた。


「ヴァルグリムの姿を」


 そう言ったイリスは、まるで瞳と記憶にその姿を刻み込むかのように、ヴァルグリムを真っすぐ見つめ続けていた。

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