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天魔の血脈  作者: 黒ひげの猫
王都断罪編 ①
30/44

エピソード 29

「今回は、ファウスト。あなたに依頼があって来たの」


「……あぁ、この間の薬代の代わりの件か」


 人間界で食料を調達するために必要だった変身薬を、ローザに調薬してもらった時のことを思い出す。

 代金の代わりに“いずれ頼みがある”と言われていたのだ。


「今回お願いしたいのは――人間界に取り残された“魔人の子供”の回収よ」


「……人間界に取り残された?」


 ローザは詳しい事情を語り始める。

 その魔人子供は、人間界への侵攻戦の混乱に巻き込まれ、つい最近まで安否不明だった。

 しかし行方を調べた結果、まだ人間界で生き延びていることが分かったという。


「ただの魔人の子供なら、生きていようが死んでいようが、正直どうでもいいのだけれど……その子は少し“特殊”なのよね」


 ローザの口から、魔族らしい個人主義の響きを帯びた言葉が、あまりにも自然にこぼれ落ちた。

 

「特殊って……どういうことなんだよ」


 依頼が厄介なのでは、と身構えるファウストに、ローザは「やれやれ」と言わんばかりにため息をつきながら答えた。


「その魔人の子供はね――生まれながらの“魔眼持ち”なのよ」


 その一言に、イリスは身を乗り出す。


「へぇ、珍しいね。オリジナルの魔眼なんて」


「だから面倒なのよ。そのことに気づいた老害どもが、“今すぐ連れ戻せ”って騒ぎ始めてね」


 話についていけなくなったファウストは、首を傾げて尋ねた。


「魔眼って……イリスも持ってるだろ?」


「私のはオリジナルじゃなくて、魔眼の力をコピーして創り出したものなの」


 そう言うとイリスは、ギュルリと音を立てながら次々と瞳を切り替えて見せる。


「じゃあ、オリジナルとコピーって何が違うんだ?」


 今度はローザが説明を引き継いだ。


「この子がたくさん持ってる魔眼は、いわば“人工物”。オリジナルの魔眼の力を解析して新しく作り出した、コピー品ね。ちなみに――そのコピー魔眼はぜんぶ私が作ったのよ」

 

 得意げに語るローザ。

 こういう話を聞かされると、思わず彼女がインキュバス族の長であることを忘れてしまいそうになる。


「コピーの魔眼は、所持者の魔力を消費して発動する仕組みなの。しかも膨大な魔力を食うんだけど……この子の場合、魔力が底なしだから複数を同時に操れるのよ」


 再び茶を啜るローザ。

 

「……で、今回の“オリジナル”は天然物。コピーとは比べものにならないくらい強力」


 ローザはまたも深いため息を吐いた。


「魔力を消費せず、強大な力を宿す魔眼持ちは魔界でも重宝される。そんな特別な子供が人間界に取り残されている……どう考えても大事件でしょ? しかも――人間が魔眼の存在に気づいたら……魔人の子供がどんな扱いを受けるか、容易に想像できるわよね」


 欲に溺れた人間がどんな行動を取るか。

 ファウストは嫌というほど知っている。

 その言葉だけで、この依頼がどれほど重大なのかを悟った。


「……分かった。その子供の居場所はもう判明してるのか?」


「えぇ。ここよ」


 ローザが懐から一枚の布を取り出し、手をかざす。

 次の瞬間、布の上に人間界の街並みが映し出された。


「街の名前までは分からないけれど……かなり栄えていることは分かるわ」


 石造りのアーチ状の建物を中心に、多くの人々が行き交う。

 市場や行商人の姿もあり、映像の中の街は活気に満ちていた。


「……何やら盛り上がっている様子ね」


 ファウスト、イリス、ローザの三人は、思わず食い入るように布の映像を覗き込み、手がかりを探す。


「催し物でもしているのかしら……」


 ローザの呟きに、ファウストは人間界で過ごした日々を思い出した。


「なぁ、この場所をもっと大きく映せるか?」


 ファウストは、人波の向こうに見え隠れするアーチ状の建物を指差す。


「分かったわ」


 映像が拡大され、その全貌が映し出される。

 ファウストはその建物を見て、はっと街の名を思い出した。


「……ローレルか」


「ローレル? それがこの街の名前?」


 ローザが反応する。


「あぁ。ローレルは王都クレスチナの隣街で、王都の次に栄えてる街だ。あの建物はローレルの観光名所――闘技場だ」


「闘技場?」


 初めて耳にする単語に、イリスは目を輝かせる。


「闘技場はな、罪人同士を戦わせたり、懸賞金を賭けて腕自慢の旅人が戦ったりする場所だ。街の住人や金持ちにとっては娯楽の場になっている」


「へぇ! 何それ、楽しそう!」


 能天気に身を乗り出すイリス。

 その頭を、ローザが呆れたように軽く叩いた。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


 と、その瞬間、ファウストの胸を嫌な予感がかすめた。

 

「…………早くしないと、大変なことになるぞ」


 闘技場。

 懸賞品。

 金持ち。

 娯楽。

 魔人の子供。

 そして――魔眼。

 条件を並べ立てるファウストの言葉に、ローザの顔色がさっと青ざめた。


「……十分すぎる条件ね」


「あぁ。しかもこの盛り上がりよう……相当なものが懸かってる」


 映像には、街の住人だけでなく多くの猛者たちの姿も映っていた。


「急がなきゃ……間に合わないかもしれない」


 ローザは迷うことなく、ファウストに直接魔法をかける。


「変身薬は効果が出るまで時間がかかるから、代わりに変身魔法を使ったわ。ただし薬ほど強力じゃないから――衝撃を受けすぎると解ける可能性がある。注意して」


 次の瞬間、ファウストの姿はたちまち別人へと変わる。


「《扉》ゲート。人間界、ローレル」

 

 ファウストはそのままゲートの魔法を展開した。


「待って! 私も一緒に行く!」


 “楽しそうだからついて行く”と顔に書いてあるイリスが身を乗り出すが、即座にファウストとローザに止められる。


「馬鹿言うな。今から行くのは王都の隣街だぞ。お前の顔を覚えてる人間がいるかもしれない場所に、連れて行けるわけないだろ」


「そうよ。変身魔法が効かないあなたを同行させたら、ファウストまで正体を疑われるわ」


 二人の説得に、イリスは肩を落とした。


「……分かったよ」


 ローザが小さく息を吐く。


「まさか、こんな危険な事態になるなんて……申し訳ないわ」


「いや。これは俺の方が適任だ」


「……気をつけて」


「あぁ。このバカが何かしでかさないように見張っててくれ」


 そう言い残し、ファウストはイリスとローザに見送られながら、ゲートを潜ってローレルへと向かった。

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