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第6話 王子は驚いた

「ねえ、陸軍将。今、なんて言ったの?」

 もうすぐ昼という時、王の、本来ならお父様の執務室にいたアタシの元に駆け込んできた陸軍将に、彼が言ったことを聞き返す。

 不意に執務間机について消えないままになっている血の跡が目に付く。

 ラズにどんな花嫁衣装を着てもらおうか、とお母様と話していたお父様の顔が浮かぶ。後二年、持ってくれればいいんだけど。

「はい、特別部隊に所属していたものが皆、本日付けで辞めました」

 冗談でしょ?

「待ってちょうだい、特別部隊は王都への帰還前に次の任としてラウニード侯の下につくことは通達してたのよね?」

「はい、その時点で全員了承していた認識だったので、全員に明日、ラウニード侯爵の元へ向かうよう指示を出しましたところ、事務官より全員辞めたと報告されまして」

 嘘でしょ?

 ここにラウニード侯がいたら、視線だけで殺されかねないわよ。

「何か問題でもあったの? 給料の額に関しては、将校以上のはずでしょ。

 何か理由は聞いてないわけ?」

「それが事務官は形通りの手続きしか行っておらず、理由については分かっておりません。

 部隊の所属者のうち四名は所在地が宿舎になっておりましたので、すぐに探しに行かせたのですが姿はなく……」

 お願いだから、軍の最高責任者の貴方が自信のない回答をしないでよ。いつものムダに大きい態度はどこに行ったのよ。

 もう、所属者のうち四名って、ん、所属者のうち?

「待って陸軍将、その言い方だと軍の宿舎にいない所属者がいるの?」

「はい、部隊の隊長を務めていたガーウェイと言う者が王都内に居住しております」

「その隊長だった人、すぐに話はできるの?」

 何とか話をつけて、一人でも残ってもらわないと、帝国との内通者の処断が遅れるどころか、最悪逃げられたり内通の証拠を消されかねないわ!

 いや、ラウニード侯に限ってそんなことになるようなことはないと思うけど、それでもこっちの対応が遅れるのは避けないと。

「畏まりました。すぐに人を向かわせ、軍に戻るよう交渉いたします。

 王子、もし戻ることを拒否された場合はどういたしましょうか」

 こういう時に王命として、命令が出せないのが辛いわ。病で倒れたのに、お父様がアタシとラズの婚姻が済むまで王位は継承しないなんて言ったから、アタシに強い権限はないし、ただでさえ病で床に伏してるお父様に面倒や手間はかけられないもの。

「もし金銭面での不満が原因なら、こっちが譲歩していいわ。向こうの言い分の額を支払って」

「もし、金銭以外が原因でしたらどういたしましょうか」

 その場合もあるのよね。

「いいわ、まずは辞めた理由が分からないと交渉のしようがないもの、その場合はすぐに報告に戻らせてちょうだい」

「では、早急に対応いたします」

「ええ、最悪の場合でも特別部隊の隊長だけは軍に戻らせてちょうだい。

 正直、特別部隊の戦力についてはどの報告を今読んでも冗談みたいで信じられないけど、特に隊長の、一人で敵陣に突撃したと思ったら接敵と同時に敵陣の中央にいてそこまでにいた敵兵を全員斬り殺しただの、魔法使いが魔法を発動する前に数部隊全滅させただの、冗談みたいな戦績ばかりだけど、ラウニード侯の作る新部隊の中心になるのは間違いないわ。

 何としてでも、頼んだわよ」

 かしこまりました、と言って陸軍将は踵を返すと焦るように執務室から去って行く。

 どうしましょう、一人二人ならまだしも全員なんてあり得る?

 気分的には話したくないけど、ラウニード侯にはこの件を話して、内通者の捕縛を急がせようかしら。けど、最悪の場合を考えると、戦力として使える人は欲しいのよね。

 なにかしら、やっぱり五年間、最前線で戦い続けて不満が溜まってたのかしら。

 もしそれが原因なら、復帰は望みすが薄いわね。

 けど、そう、あの青い鱗のドラゴニュート、ガーウェイって言うの。

 思わぬ所で名前が分かっちゃった。

 後は結婚さえしてなければ、アタシが積極的に行っても、いいわよね。婚約者であるラズのお墨付きもあるし、アタシの人生初の恋人ができるかもしれないんだもの、何としてでも戻ってもらわなきゃ。

 それに、アタシの人生の初恋なんですもの、気持ちを伝える機会くらいあってもいいわよね。

 さあ、現実逃避はこのくらいにしましょう。

 軍を辞めたのが金銭面での問題なら、解決は簡単だけど、それ以外の場合も考えなきゃ。

 アタシがどうしたものかと考えていると、ドアがノックされ、番兵が入ってくる。

「王子、内務長が来られました」

 内務長? 今、何の用なのよ。

「いいわ、入れてちょうだい」

 分厚い眼鏡をかけた、ヒューマンの内務長が入室してくる。

「何かあったの、内務長」

「はい、近く開催されます戦勝記念祝賀会に招待いたします方々のリストが出来ましたので、お持ちいたしました。

 問題なければ王子の名で、この方々に招待状をお送りいたします」

 なんで今、それ持ってくるのかしらね。

 正直、戦勝記念祝賀会なんて気分的には後回しにしたいくらいだわ。

 もっとも、場合によっては戦勝祝賀会が処刑会になりかねないのよね。

「ありがとう。リストを見せてちょうだい」

 内務長からリストを受け取って、書かれた名前を見ていく。書かれている名前は貴族や、財力のある商人ばかり。

 ラウニード侯が詳細を伏せてるから、誰なのかはまだ知らないけど、この中に内通者がいるのよね。

 帝国の一部が王国内で活動しているなんて情報もあるし、少しでもこちらが有利に動け、かつ相手を弱体化、いいえ無力化できる状態を作っておかないと。

「王子、それと戦勝記念祝賀会の参加予定の方から、直接お話したいことがあると書状が来ております」

 そう言って内務長が数通の封を出してくる。何の言い訳をしたいのかわからないけど、見るのも面倒だわ。

 もー、戦勝祝賀会じゃなくて内通者尋問会にでも変更できないかしらね!

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