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第2話 王子は会議中

「北部よりの伝令です。

 帝国軍の撤退を確認、現在も軍は展開中ですが交戦はありません」

 長いテーブルを囲む誰かの、安堵のような声が漏れるのが聞こえた。

 冬も近くなり、室内の暖炉で燃える薪の音がやけに響いて聞こえ、その上に掲げられた王国旗が揺れているように見える。

「伝令はいつのものだ」

 緑の鱗に覆われたドラゴニュートの陸軍将が、伝令を伝えに来た兵士の方を見、声を発した。

「はっ、本日の日の出のものであります。

 伝令魔法によるものです」

 室内に沈黙が訪れる。

 今は朝食を取るのにはちょうどいい時間。伝令がここに伝わるまでにかかった時間と、その内容にそれぞれが考えを巡らせているんでしょうね。

 アタシも指の爪先でテーブルを掻きながら、次はどうしようかと考えを巡らせる。ふと、これがお父様と同じ癖だと気づいて、手を軽く握り、開戦時にまだ十三だったアタシが国王であるお父様が病に倒れてから今日まで、国王の代理としてよくやれたものだと思う。

「王子、まだ軍を引くには早いかと。

 北部辺境伯の隊と合わせ、王国軍本隊は今しばらく警戒に当たるべきと考えます」

 頭の毛がさみしくなり始めたヒューマンの参謀が、アタシを見ながら発言する。

「そうね、警戒に当たるだけなら辺境伯の隊だけで十分だけど、不意打ちでもされたら対処は難しいでしょうからね」

 軍を引くにしてももう少し、確たる情報が欲しいところね。

 顎に手をやり、何かを考えている老ウルフマンを見る。

「ラウニード侯、帝国に入っている斥候からの連絡は?」

「前々日に来た皇帝の死亡から、新しい情報は入っておりません。

 帝国内は皇位継承権争いで揉めているところでしょう。

 加えて帝国内は食料不足が起きております。民の間では略奪が起きている、との報告が来ております」

「外務長、帝国の和平派から何か申し出は?」

「何も、ございませんな。

 ですが周辺国への働きで帝国への物資の動きは封じております。この冬を越えれば、新しい動きもあるかと思われます」

 そう、と短く答えて窓の外を見る。木々の葉は色を変え、時おり吹く風に舞い落ちていく。

「なら、冬の間は辺境伯の隊と王国軍本隊は警戒態勢に当たり続けた方がいいわね」

「今年の冬は特に厳しいと、観測台から報告が上がっています。北部ではこれまでより早く、雪が降るとのことです。

 王国北部で雪が降るとなると、さらに北にある帝国内は雪と寒さが厳しくなります。

 そうなれば、帝国側は極北地帯の魔物の南下が早くなります。特に氷獣は体が大きく槍でも貫けぬ熱い毛皮と硬い皮膚を持つうえ、捕食しやすいヒューマンを主に狙います。その対応と対策をせねばならぬ帝国は、戦線の維持が昨年以上に難しくなるかと思います」

 参謀の言葉を受け、陸軍将が低く唸る。

「ならば、最前線の兵だけでも帰還させてもよいのではないか。

 もうすぐ戦争が始まってから五年、さすがに前線に立ち続けている者は疲弊している」

「そうしたくも、新兵の練度の関係と国内の魔物の討伐もあります。

 前線部隊の展開を縮小できるまでは、現状の維持が最善かと」

 参謀の言うことはごもっとも。極北地帯に生息する大型かつ凶暴な魔物に比べれば、王国内の魔物は対処しやすいとは言え、疎かにして良い訳はないものね。

「今年も冬の万聖節は、我慢してもらうしかないわね。

 ラウニード侯、帝国内の斥候に現在の状況の詳細を伝えるよう指示してちょうだい。特に帝国内の物資の流通、この冬をまともに越えられるかどうかを」

「かしこまりました、そのように」

 年老いたウルフマンはアタシの目を一度だけ見ると、顎を撫で何かを考え始める。

「外務長、和平派からの申し出には友好的に当たって構わないわ。

 でも相手の出す条件は今は一切のまないで。

 それと大公国の動きがあれば、すぐに伝えてちょうだい。海軍将から大公国の艦隊が南海で目撃された情報があるわ。南方航路が海上封鎖でもされたら、王国内の物流に問題が出るから注意してちょうだい」

「聖国はいかがしましょうか。戦争に関して、いまだ何の動きもありません。

 ですが、完全中立をうたいながら傭兵を集めているとの情報もあります」

「王国の枢機卿経由で、王国は平和的な解決を望んでいることだけ、伝わるようにしてくれればいいわ。どうせあそこは、自分たちは何があっても安全だと思ってるんだもの。

 なにかあったところで、教会への寄付金でどうとでもなるわ」

 深く頭を下げる外務長。

 大公国が余計なことさえしてこなければ、正直、聖国は無視しててもいいものね。

 大公国が海路を封鎖するようなことさえなければ国内の物流は問題なく動かせるし、聖国なんて教会勢力にお金を流せばいいだけの守銭奴ですもの。

「陸軍将、最前線に出している特別隊はどう? 期待してる成果は出せてるかしら」

「ご期待に添えられるだけの成果は出せております。

 砦落とし、殺戮小隊などと呼ばれてはおりますが、成果で言うならそれに見合うだけはあるかと。

 特に隊長のドラゴニュートの働きが大きいですな。王国軍内でも、血濡れの青竜と呼ばれてるとか」

「あら、良かった。そのまま生きていてくれれば、問題なく使えそうね」

「陸軍将、特別隊を一部だけでも王都へ戻すことは可能か」

 ラウニード侯が陸軍将見る。

「前線維持をするのであれば難しいでしょうな。

 帝国軍の動き次第では、一番に動かしますので」

「特別隊の働きに関しては、辺境伯も存じています。帝国の次の動きが分かるまでは、王都への帰還は無理ですな」

 参謀の言葉を受け、ラウニード侯が再び顎に手をやる。

 あらあら、辺境伯に成果が知られてるなら、特別部隊は下手に戻さない方がいいわね。

 それにしても特別部隊の隊長、そんなに成果が出てるなら、どんな人なのか会ってみたいわ。

「ラウニード侯、人手が必要ってことは、目星がついたのかしら」

「はい。帝国と内通していた者はわかっております。後は動かせる人員とご命令さえいただければ、いつでも。

 ですが裏で手を引いている者は、いまだ不明です。帝国か、大公国、それとも聖国か。

 調査はこのまま進めます」

「そう。首切り用の斧が何本必要になるのかしらね。

 何にせよ、この冬どうなるか次第ね。

 何事もなく、冬を越せることを祈るばかりだわ。

 あまり戦争が長引けば、アタシたち王国も疲弊が酷くなるだけだもの」

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