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「人影③」

### 第八話


 旧校舎の静寂の中、俺たちは息をひそめたまま廊下の奥を見つめていた。


 暗がりの中をゆっくりと進む影。だが、そいつは足音をほとんど立てず、忍び足で歩いているように見えた。


 (ただの生徒じゃない……?)


 俺は美咲の手をぎゅっと握る。驚いたように彼女が俺を見上げたが、俺はそのまま静かに囁いた。


「一度、引くぞ」


 このまま無理に追いかけるのは得策ではない。俺たちは慎重に物音を立てないよう、元の階段へ戻ろうとした。


 ——しかし、その時だった。


「……誰かいるのか?」


 低く響く声。


 俺と美咲は凍りついた。


 影の主が、こちらに気づいたのか、それともただの確認か——。


 美咲が俺の服の袖を掴み、不安げに俺を見つめてくる。


(どうする?)


 このまま気づかれずにやり過ごすか、あるいは……。


 だが、その選択肢を考える間もなく——。


「——っ!」


 突如、俺の足が何かに引っかかり、バランスを崩してしまった。


 ガタンッ!


 静寂を破る音が旧校舎に響く。


「誰だ!」


 影がこちらへ向かってきた——!


「悠真!」


 美咲が俺の腕を引き、俺たちは急いで廊下を駆け出す。


 だが、焦りすぎたせいで美咲が足をもつれさせ——。


「きゃっ!」


 ——ドンッ!


 勢い余って、俺は美咲と共に床へ倒れ込んでしまった。


 気づけば、俺の腕の中に彼女が収まる形になっている。


 顔が近い——。


 暗闇の中でも、美咲の瞳が驚いたように揺れているのが分かった。


「……っ」


 俺の心臓が、さっきの緊張とは違う理由で速くなる。


 美咲も何かを言おうと口を開いたが——。


「おい、どこだ!」


 近づいてくる足音。


 俺たちは慌てて立ち上がり、手を取り合いながら旧校舎を後にした。


 そして、無我夢中で逃げ出した俺たちは、気づけば人気のない中庭へ出ていた。


 「はぁ……はぁ……!」


 美咲は膝に手をつき、息を整える。


「……危なかったな」


「う、うん……ていうか、悠真……!」


 美咲は少し顔を赤くしながら俺を指差す。


「さっき……なんか……近かった……」


 その言葉に、俺も一気にさっきの状況を思い出してしまう。


「……お前が転んだからだろ」


「そ、そりゃそうだけど……!」


 美咲は口をとがらせる。


 だが、その顔は少し嬉しそうにも見えた。


 それ以上は何も言わず、俺たちはしばらく黙っていた。


 旧校舎の影の正体は分からないままだ。しかし、確かに何者かがいた——。


 この事件が単なる噂ではないことを、俺たちは確信したのだった。


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