「人影①」
この話からプチミステリーに入っていきます。
僕自身ミステリーは書くのが苦手なので、そんなに重くはならない予定です!
学園ラブコメ中心に描いていきますのでご安心を!
放課後の空気は、昼間の喧騒とは違い、少しだけ静かで落ち着いていた。窓の外では夕焼けが校舎を赤く染め、影を長く伸ばしている。
「悠真、ちょっと来て!」
突然、桜井美咲が俺の腕を引いた。あまりにも勢いが強かったせいで、危うく体勢を崩しそうになる。
「おい、なんだよ……」
「いいから! つべこべ言わずに!」
強引に手を引かれながら、俺は仕方なく歩を進める。向かっている先は——旧校舎。
「お前、まさか幽霊の話、まだ気にしてるのか?」
「違うの! さっきね、玲奈が“旧校舎の窓に人影が見えた”って言ってたの!」
「……旧校舎はもう使われてないはずだろ?」
「だから気になるんじゃん!」
美咲の瞳は期待と興奮に満ちていた。まったく、こいつは本当に好奇心旺盛だ。
俺たちは人気のない廊下を進み、旧校舎の入り口にたどり着いた。木造の扉は古びていて、今にも軋みそうなほど傷んでいる。
「行くよ?」
「勝手にしろ」
美咲が意気揚々と扉を開けた瞬間——
ギィィィ……。
静寂を破るように、重苦しい音が廊下に響く。
「うわ……雰囲気ありすぎ……」
「こういうのを“ホラー”って言うんだよ」
俺は少し呆れながらも、美咲の後に続いた。中は予想通り、埃っぽくて古びた机や椅子が無造作に積まれている。
「さっき玲奈が見たっていうのは、二階の窓らしいよ」
「……行くのか?」
「もちろん!」
美咲は何の迷いもなく階段を駆け上がる。その後ろを俺もゆっくりとついていく。正直、幽霊なんて信じていないが、何か違和感を覚えたのも事実だ。
二階の廊下はさらに薄暗く、少し湿った空気が漂っていた。美咲は慎重に足を進め、問題の教室の前で立ち止まる。
「ここ……」
静かに扉を開けると——
スッ……。
何かが動いた気がした。
「えっ……?」
美咲が思わず俺の腕にしがみつく。その体温が直に伝わり、俺は思わずドキッとした。
美咲との距離が近い......
俺は陰キャだからこういう刺激には弱いんだ...
「……誰かいるのか?」
俺は低い声で呼びかける。しかし、返事はない。
部屋の奥に目を凝らすと、確かに誰かの影が——いや、それはカーテンが揺れているだけだった。
「な、なんだ……びっくりさせないでよ……」
「お前が勝手に驚いただけだろ」
美咲は俺の腕から慌てて手を離し、頬を赤らめる。
「と、とにかく、ここには誰もいなさそうね……」
「……いや、何かがおかしい」
俺は教室の中央へと足を踏み入れる。そして、ふと足元に違和感を覚えた。
「美咲、ここを見てみろ」
「え?」
俺が指差した先には、埃が積もった床に、誰かが歩いた跡が残っていた。
「足跡……?」
「そうだ。誰かが最近ここに入った証拠だ」
旧校舎は普段施錠されているはず。ならば、誰が? そして何のために?
「悠真……もしかして、これは本当に事件だったりする?」
「ああ……ただの幽霊騒ぎじゃなさそうだな」
そう呟いた俺の脳裏には、いくつもの仮説が浮かび始めていた——。
「ねえ悠真、さっきの……怖くなかった?」
旧校舎を出た帰り道、美咲が小さく呟いた。
「怖いわけないだろ。ただの足跡だ」
「でもさ、普通に考えて誰のものか分からないのって不気味じゃない?」
「それより、お前は大丈夫か?」
「えっ?」
俺が美咲の顔を覗き込むと、美咲はわずかに視線を逸らした。
俺の顔がそんなに見たくないのだろうか?
俺は女性経験がないのでよく分からない。
「そ、そんなの大丈夫に決まってるでしょ!」
「そうか?」
「……う、嘘。ちょっと怖かった……」
美咲は口を尖らせながら、小さく肩をすくめた。
少し顔が赤くなってる?
そんなに幽霊が怖いのだろうか?
「でも……悠真が一緒だったから、なんか安心したかも」
「……そりゃどうも」
俺は照れ隠しにそっぽを向いたが、美咲の笑顔がやけに眩しく見えた。
次の日、玲奈が再び旧校舎の話を持ち出した。
「昨日、旧校舎の窓からこっちを見ていた人影……あれ、もしかして教師じゃないかもしれないわ」
「どういうこと?」
「今日、先生たちに聞いたの。そしたら、誰も旧校舎には行ってないって……」
その言葉に、美咲がビクッと肩を震わせる。
「悠真……やっぱり、これってただの偶然じゃないんじゃ……?」
「……かもしれないな」
旧校舎の謎が深まる中、俺と美咲の距離もまた少しだけ縮まっていくのだった——。
第四話です。
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