「人影[完]」
「その噂っていうのが、先輩がノートを持って旧校舎に行ってなにやら怪しいことをしてるってやつだ」
「さっきも言ったけど、先輩は秘密だらけだったんだ、そりゃぁ気になるだろ?」
健太は俺たちに共感を求めてきた、正直言うと俺も、とっっっっっても気になる!!!!
どんな秘密が隠されているんだろうか。
「それで、健太はもうその内容が分かったのか?」
重要なのはここだ。
俺の中に住んでいる好奇心は爆発寸前だった。
「私もめっちゃ気になる〜!!」
美咲の好奇心にも火がついたようで、元から宝石のように輝いているその瞳は、放課後の夕日に照らされさらに輝きを増していた。
元々この件に足を踏み入れたのも、美咲が強引に俺を旧校舎に引き連れて行ったからだった気がするな。
本当に美咲の自由主義な姿には呆れてしまう。
健太は話を続ける。
「ああ、俺はその内容を今知っている。」
「というのも、俺が何故あの時旧校舎に居たのか、それはそのノートを探すためだったんだ。」
「それでしばらく旧校舎を探索してたら、見つけた。」
「触りたくないほどホコリだらけなノートを」
「そのノートの内容ってのが...」
健太が言葉を続けようとした時、俺は強烈な違和感に襲われた。
仮に健太の推測が合っているとして、何故ノートは破られていたんだ?
誰に破られた?涼太の兄か?
たくさんの疑問が俺の脳を刺激する。
「おい、悠真大丈夫か?」
「俺が大切な話をしてんだから目くらい合わせろよな!」
俺は健太の言葉で我に返った。
「それでそのノートの内容っていうのが、先輩の好きな人との交換日記だったんだ。」
「しかもちょーラブラブのな」
「は?」
「は?」
「は?」
屋上にいた人全員の頭の中が読めたかのように伝わってきた。
俺はその時超能力の降臨を疑ったほどだ。
「待て、待て待て、冗談はやめてくれよ健太」
「そうだよ!」
「本当はなんて書いてあったの?」
俺の後に美咲も続いて健太を問い詰める。
「え?だから今言ったじゃん、先輩の好きな人との交換日記がノートに書いてあったって」
俺たちの数日間に及ぶ旧校舎肝試し調査が水の泡となった。
俺はその状況を受け入れ、まだ残っている疑問を健太にぶつける。
「ひとまず、内容は分かった。」
「でもなんでノートは破かれていたんだ?」
そうだ、1番気になるのはここだ。
屋上の一同は同じタイミングで唾を飲む。
「え?まだ言ってなかったっけ 」
「あれは俺が破ったんだよ」
「は?」
「は?」
「は?」
俺を含めたみんなは理解が出来ないでいた。
「ちょっと意味わからないって!」
「健太あんたまさか癇癪持ちだったの?」
美咲が少し感情を出して問い詰める。
美咲、少し言葉が汚いぞ。
「いや、待ってくれって」
「まだ説明は終わってない」
「みんななんで破いたのか理由が知りたいんだろ?」
バカの健太のくせによく状況を分かっている。
感動で涙が出そうだよ。
「それは......先輩と俺の好きな人が被ってたからだよぉ!!!!! 」
もう今回は誰も言葉を発さなかった。
というより、言葉も出ないほどに呆れていた。
しかし玲奈の様子だけは少し違う。
玲奈はなんというか、俺が今まで見た中で1番瞳が輝いていた。
夕日のせいか?
「お、おい、みんな固まっちまったぞ」
俺はその気まずさの沈黙を破った。
「それで、その好きな人って誰だよ?」
「聞かせてくれよ」
さすがに踏み込みすぎたか?
俺の質問の後、健太はまとっている空気を変えた。
あれ?聞くのは間違いだったか?
俺はみんなの様子が気になり、後ろを振り返る。
美咲は呆れすぎて口を開けたままポカンとしている。
その表情もまた可愛すぎる。
涼太も兄の大切なものがまさか女との交換日記だったとなるとなにか心にくるものがあるのだろう。
心ここに在らずと言った感じだ。
そして、先程から様子がおかしい玲奈はというと......
え?なんで顔赤いの?
玲奈の表情を見た時、俺は全てを理解した。
俺はポンコツすぎてここまでこないとこの事件の真相が分からなかったのが情けない。
だけど、この場でこの事件の種明かしをするのはやめといた方がいい。
その理由を含め説明しよう!
まず健太の好きな人そして涼太の兄の好きな人、それは....
今まさにここにいる遠藤玲奈だ。
だから健太は先程から口をつぐんでいるのだろう。
というか今あいつは恥ずかしさが最高潮のはずだ。
交換日記をしていた玲奈がいるのにも関わらず、好きな人が被っていたと発言してしまったからだ。
つまりあいつは今、間接的な告白をしてしまった。
それにより玲奈の様子がさっきからおかしいんだ。
俺と美咲と健太で旧校舎探索に行った時に玲奈と偶然旧校舎で会ったのにも説明がつく。
玲奈は恐らく誰かに見つかる前にノートを見つけたかったんだ。
だがそのノートは1番手に渡ってはいけない人の手に落ちてしまった。
健太.......
これが今回の事件の真相だ。
それより、これから俺と美咲はどんな風に関わればいいんだ、気まずすぎるだろ.....
「健太、もういいぞ、話を聞かせてくれてありがとな」
あいつはよく頑張ってくれた。
俺たちは立ち尽くす健太を屋上に1人置いて、その場を去った。
俺たちは何も話すことなく荷物をまとめ、校舎を後にする。
校門で涼太や玲奈とは別れ、美咲と2人きりになった。
「ゆうま〜」
「結局健太の好きな人ってだれだったのー??」
俺は察したが、他のやつはそうはいかなかったらしい。
しかし漢として、健太の勇気を弄んではならない。
「さぁな」
「それにしても交換日記なんてよくやるよな」
「悠真は小学校の頃とかやったことないの?」
うっ......
美咲の言葉が俺のなかの何かに刺さり、声にならない痛みを感じた。
「俺にそんなことする友達がいると思ったのか?」
美咲はギクッとして、目線を逸らした。
なんで俺が悪いみたいになってるんだ?
「ちなみに悠真は好きな人とかいないの?」
「陰キャの俺が恋なんてするわけねぇーだろ!」
「あ、なんかごめん..」
そうは言うものの美咲の口元はクスッと笑っていたように見えた。
俺たちはその後も他愛の無い話をして、いつも通りそれぞれの帰路についた。
こんな日常がずっと続けばいい、俺は心からそう思った。
人影編、これにて完結です。
ミステリーは私自身書くのがあまりとくいではないので、少しコメディー強めになってしまいました笑
これからも優しい目で見守っていただけるとありがたいです!
次の事件編もすぐ投稿致しますので、ブクマ、評価で応援していただけると嬉しいです!