村での待遇
亮介が森の中でのサバイバルを続けて3日目。
知識を駆使し、慎重に食料を確保しながら、体力を維持していた。
水場を探し、見たことのない植物や昆虫を見つけ次第パッチテストを繰り返し、命を繋いでいた。
ある日、亮介は森の中でようやく小さな村の姿を発見する。
明らかに人が住む民家たちだ。
実は、この3日間で近くに人がいることは確信していた。
森の中に粗雑なロープで作った罠が木に括り付けてあったり、ボロボロになった石製のナイフが落ちていたからだ。
ようやく出会えた文明に、抑えきれない興奮と希望を抱きつつ、村の入口に到達した彼は、まずは自分の存在をアピールし、村人たちに近づこうとする。
しかし、村人たちは亮介の姿に驚き、警戒の目を向ける。
言葉が通じないため、何を伝えようとしても彼の意図は理解されない。
「助けてほしい。」
亮介は必死に身振り手振りで伝えようとするが、村人たちは不安げな表情を浮かべ、亮介を遠巻きに見守るばかりだった。
亮介が彼らに近づこうとすると、村人たちは一層警戒心を強め、ついには集団で村の外へと追い出してしまう。
亮介は途方に暮れながら森の中に引き返すしかなかった。再び森に戻った彼は、孤立した状態でのサバイバルを余儀なくされ、心身ともに疲れ果てていた。
「やっぱりこうなるか… しかし、ちゃんと人間だったな…」
亮介は、村にいるのが自分の知っている人間とは違う種族かもしれないと想定していた。
その想定とは裏腹に、見た目は自分と同じ人間だった。それは、幸運だった。言葉が通じなくても、同じように悲しみ、喜び、そして生きることを求めている。そう感じたから、安心したのかもしれない。
その夜、亮介は森の中でしゃがみ込みながら、自分の未来に対する不安を感じていた。
ふと、森の奥から不穏な気配が漂ってきた。亮介が警戒を強める中、彼の目の前に、巨大な角を持ち、甲殻が硬く光沢があり、赤い複眼が不気味に光る昆虫が現れた。
亮介がこの世界に来てから、初めて出会った危険な生物。
「これは…やるしかない!」
亮介は気を引き締め、持っていた簡易な武器を振るいながら、化け物と戦う覚悟を決める。
体力もさることながら、気力が限界だったのだ。
もう、これまでのように逃げ回る余力は残っていなかった。
この巨大な化け物はカブトムシに似ている。主な攻撃手段は角だ。
まず角で突進を仕掛け、弱ったところを鋭い顎で食いちぎる。
この化け物が他の昆虫を捕食する際に何度か観察していたので、地球の昆虫と同じように知能はほとんどないことはわかっている。パターン化された食事の方法なのだろう。
亮介は木の枝を尖らせた簡易な槍をかまえ、目の前の化け物と対峙した。
すると、いつもは問答無用でまっすぐ向かってくるカブトムシに似た化け物は、少し警戒したかのように自慢の角を空高く上げ、自身の強大さを示してきた。
地球の生物と同じだ。自分のライバルとなるような相手に対して、身体を大きく見せることで威嚇しているのだ。
「少しは俺を怖がってくれているのかな?…」
数十分に及ぶ激闘の末、亮介はついにカブトムシに似た昆虫の化け物を倒す。
作戦も何もなかった。ただ突っ込んでくる角を必死に避け、守りの弱い関節部分を狙って木の槍を突き刺す。
ヒットアンドアウェイの要領でこれを繰り返し、十数か所刺したところで、昆虫の化け物は絶命した。
体力も限界だが、振り絞りながらヤツの角を手に持って再び村に向かった。
村に到着した亮介は、倒した化け物の角を村人たちに見せる。
「私、これ倒した。」
亮介は必死に説明し、カブトムシに似た化け物の角を提示する。
村人たちは驚きと共にその部位を見つめ、奪い取るように受け取り、確認し始めた。
しばらくしてから、村の代表と思われる老人が現れた。
老人が角を詳細に確認し、亮介が本当に化け物を討伐した証拠であると判断したようだ。
すると、村人たちは徐々に亮介を受け入れる姿勢を見せ、彼に対して警戒を解くことに決める。
「まぁいいだろう、入れ。」
長老は亮介に話しかけ、彼を村に迎え入れることを伝える。
亮介には何を言っているかまったく分からなかったが、以前よりは穏やかな口調と村人たちの雰囲気から、ひとまず自分が受け入れられたことを察した。
亮介は、不安と期待が入り混じる気持ちを整理しながら、村の中へと歩いていった。