異世界、そして孤独な森
初めて小説というものを書きました。
楽しんでいただけたら幸いです。
目を覚ますと、そこは見たこともない場所だった。
「あれ……ここ、どこだ?」
周囲を見回しても、馴染みのある風景は一切ない。緑色に覆われた森がどこまでも広がっている。木々は巨大で、不気味に揺れる葉の音だけが響いている。空は昼間のはずなのに、なぜか薄暗く、まるで夜明け前のようだ。
俺――佐藤亮介は、なぜここにいるのか全くわからなかった。確か、昨晩は会社での仕事のストレスに耐えかねて、馴染みのバーで深酒していた。上司と部下の板挟みで、心がすり減っていたんだ。
「もうやってられない……。」
そんな愚痴をバーテンダーにこぼしながら、何杯も飲んだはずだ。それが、気がつけばこんな異様な場所に放り出されているなんて。
「なんだよこれ……夢か?」
頬をつねってみるが、痛みがリアルすぎる。これは夢じゃない。
「まさか、異世界転移とか……? いやいや、ねーだろ。ハハハ」
そんなバカげたことを一人つぶやいてみるが、周囲の状況がそれを否定するように、現実感を持って迫ってくる。異世界転移なんて、酒に酔った頭で考える妄想だと思っていたが、明らかに様子がおかしい。
二日酔いで重い頭を抱えながら、俺は仕方なく周囲を観察するしかなかった。近くには小川が流れ、草むらには見たこともない植物が生えている。だが、人の姿はどこにもない。鳥の声も、動物の気配も感じられない。
現実的に考えれば、昨晩の俺は泥酔していつの間にか寝てしまい、危ない連中に拉致されたというのがあり得そうだが、そんなこともなさそうだ。
身体をくまなく確認してみたが、内臓を取られている様子もない。
まぁ、鞄はなくなってるけど…
そんな事を考えていると、森の奥から不気味な鳴き声が聞こえてくる。
「やばい……ここ、危険だ。」
直感が告げている。この森には、俺が知っている普通の動物とは違う、得体の知れない何かが潜んでいる。
何も持っていない、ただのスーツ姿の俺が、そんな場所で生き延びられるわけがない。
「とにかく、何か武器を……。」
そう思って近くの枝を拾うが、こんなもので何かを防げるとは到底思えない。それでも、何もないよりはマシだろう。恐る恐る、森の中を進むことにした。
足元に注意を払いながら進む俺の耳に、何かがこちらに向かってくる音が聞こえた。
ガサガサと草むらをかき分けるような音。次第に近づいてくる。
「───やばい、逃げなきゃ!」
冷や汗が背中を流れる。だが、逃げる先がどこにある? 知らない森の中、どこに行っても危険は変わらない。
その瞬間、草むらから飛び出してきたのは、巨大な昆虫の化け物だった。まるでカブトムシのような形をしているが、その大きさは俺の身長を超えている。鋭い顎をガチガチと鳴らしながら、こちらに迫ってくる。
「うわああああっ!」
俺は必死に逃げ出すが、足はもつれ、地面に転がり込んだ。すぐに昆虫の化け物が迫り、鋭い顎が俺の顔に近づく。
「ここで終わるのか……?」
そう思った瞬間、体が本能的に動いた。拾った枝で昆虫の化け物の頭を叩きつけたのだ。効果があるとは思わなかったが、化け物は一瞬怯んだ。その隙に俺は立ち上がり、必死に逃げた。
「なんだよあいつ!あんな生き物見たことないぞ!!」
どれだけ走ったかわからない。体力が尽き、ついに力尽きた俺は、地面に倒れ込んだ。
その瞬間、頭の中に不思議な感覚が走った。まるで何かが変わるような、そんな感覚。息を整えようとするたびに、体の負担が徐々に軽くなっていくのを感じる。疲れ果てたはずの脚が、再び動き出すような力を取り戻している。
「なんだこれ……? さっきまであんなに……。」
驚きと戸惑いが交錯する中、俺は何が起こっているのかわからないまま、とにかく前に進むことにした。何があっても、ここで終わるわけにはいかない。
再び立ち上がり、俺は森の中を進んでいくことにした。
ここで倒れるわけにはいかない。この世界で生き延びてやるんだ。
そして、俺の異世界でのサバイバルが始まった。