悪気は無いは嘘
いつ、どの時代でも決して無くならない戦い。それが、嫁姑戦争である。
その深刻度は多岐に渡り、時に昼ドラも真っ青なドロドロなものもある。
しかしこの嫁姑戦争、大概は姑の息子であり嫁の夫が、母親でなく妻の味方に付けば大体深刻にはならない。まあ…子離れ出来ずにストーカー化する母親がいないわけではないが、少なくとも最悪の結果にはならないだろう。
問題は妻の味方をせず母親の発言だけ鵜吞みにし、妻に我慢を強いる場合。この手の相談はカケデラの元によく来るので、大体離婚を勧める。真に守らなければならないものが分からない人に配偶者などもったいないからだ。ちなみに男女逆でもカケデラは容赦しないぞ。
そして今日も、嫁姑問題の相談がやってくる。
『30代男、既婚。子ども一人。私の妻と母は折り合いが悪く、時に大喧嘩に発展してしまって悩んでいます。母は歳のせいかうっかりが多く、妻の持ち物を壊したり無くしたりすることがあります。母は悪気は無かった、申し訳ないと謝りますが妻が許してくれません。悪気がない母に必要以上そのことを責めるのは良くないと思うんですが、カケデラさん、どうすればいいですか?』
『どうするもなにも、そこまで母親が愚行をしていて、悪気は無いなんてよくまあ言えますよね。この手の相談前も受けましたけど、あなた動画見てないんですか?』
悲しいかな、動画を履修せずとりあえず相談を出してくる人、いるんです。カケデラの声には呆れが混ざっていた。
『悪気は無いって言う言葉は、被害を受けた被害者が相手を咎めないように言う言葉であって、加害者自身が使っていい言葉ではありません。悪気は無いという人間に限って悪気があります。それはもう腹の中真っ黒。相手を害するために使っている言葉なのに、あなたそんなことも分からず母親の味方してるんですか。』
『そもそも、本当のうっかりやは奥さんだけでなく、自分やあなたの持ち物すら捨ててしまうでしょうに。被害が奥さんに集中している時点でそれはただの嫁いびり…違いますね、器物損壊罪と言うれっきとした犯罪です。あなたは犯罪者の肩を持ち、悪気は無いという嘘を真に受けて奥さんに我慢を強いている。そんなふざけた話があってたまりますか。私が奥さんの身内なら被害届出して警察に捕まえてもらいます。』
『そもそも、嫁姑の関係に妻ではなく母親の味方をしている時点で、あなたに結婚の権利はない。配偶者を守る気も無いのならあなたに配偶者は贅沢過ぎる。今すぐ奥さんと離婚して、母親と縁を切らせてあげたらどうです。』
カケデラの冷ややかな声に、奥さんを心配したり姑サイテーと言う内容のチャット。それらを見て相談者は青褪め追加チャットを送ったが…
『離婚は回避したい…いや無理でしょう。ここまでしておいて挽回の余地があるとでも?…あんまりこの例え話を出すのも嫌なんですが、あなた母親の行動、上司の娘さんにしてても母親を責めないんですか?上司、あなたの首を切れてしまうような上司です。出来ますか?どうなんですか?』
そうカケデラに言われて、相談者はタイピングの指が止まった。
上司。自分の首を切れるかもしれない上司の娘相手に、母親が妻にしたのと同じことをしていたらどうか。
キレるだろう。もちろん母親に対してだ。
その答えを出した瞬間、母親の最低さがようやく見えた。
『よくハラスメント講座なんかをしていて、自分の娘さんや奥さんに出来ますか?と聞いて「出来る」という人、いるんですよ。ですがこれが上司の娘になると「出来ない」と言うんです。最低ですよね。根底で女性を見下してるから、そんなことになる。あなたも一緒です。自分の生活を一変出来るような人相手に母親が同じ行動をしてたら怒るんでしょう?でも、奥さん相手には許してやれ?』
『ふざけるなよ。今すぐ慰謝料養育費全て揃えて離婚したらいかがですか。』
地面が崩れ去るような感覚だった。今まで母親が言うことは間違っていないとずっと思っていた。だが、カケデラの言う通り妻でなく他の人、しかもそれが上司の娘相手にやらかしていたとしたら…。きっと母親をこれでもかと怒鳴っているだろう。
悪気は無いと自分から言う人間は大体悪気がある。会社や友人関係でならよく見た内容だ。確かにそんな奴、信用に値しない。
なのに自分は母親が言うならと無条件に信じてしまった。青褪め、冷や汗が出、ガタガタと震える体。
もつれる足で部屋を出て、妻に土下座をしたがもう見向きもされなかった。
離婚がもう回避不可能になり、八つ当たりのように母親に詰めかけた。悪気は無いは悪気がある証拠だ。何故そんなことをしたと怒鳴りまくった。
最初こそ否定していた母親だったが、相談者の剣幕に負け自白した。「だって息子を奪った憎い女だから」と。
寒気がした。吐き気もした。母親は息子である自分を恋人のように扱っていて、それを奪った妻を敵視し、嫌がらせを繰り返していたのだと。
あれだけ擁護していた母親がもう醜い存在にしか見えない。妻を攻撃し、器物損壊をやらかした犯罪者でしかない。
しかし、そんな母親の味方をし続けたのは他でもない自分自身。最低だ。
妻の言う通り離婚をし、母親と縁を切った。泣きじゃくる母親を見ても、もう心は動かない。
相談者
嫁姑問題から逃げ続けた人。結果。奥さんの信頼を無くし離婚することに。
母親の真意を知り、もう昔のように慕うことは出来ない。自分が悪いのは分かっているが、それでも恨まずにいられない。後悔しかない。
カケデラ
人生相談系動画配信者。
自称する人は大体その逆であると知っている。
悪気が無いなら悪気はあるし、子どものやったことなのには躾する気はありません、だと。被害者が加害者にかける言葉を加害者が使っていたら、信用の欠片もない。
嫁姑問題はよく相談が来るが、よっぽど配偶者に問題があるならいざ知れず、基本は配偶者の味方になるもんだろ、ふざけんなと思ってる。